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第54話 フィリップ
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「しかし…参ったな…」
朝食後の紅茶を飲みながらセシルは苦笑いした。
「どうかしたの?」
ハーブティーを飲んでいた私はカップをソーサーの上に置くと尋ねた。
「いや…ひょっとすると兄さん、俺たちのことを変に勘違いしたんじゃないかと思ってさ…」
「勘違いって?」
「それはつまり…って、ああ~…もう…俺に説明させるなよ…」
セシルは困った顔を浮かべ、私を見た。
「ほら、そんなことよりもそろそろ部屋に戻って兄さんを迎える準備でもしたほうがいいんじゃないか?」
「そうね…分かったわ」
別に準備するものは何も無かったけれども、ひょっとするとセシルは1人になりたいのかもしれない。
残りのハーブティーを飲み終えると立ち上がった。
「それじゃ、セシル。私、行くわね」
「ああ。そうした方がいい」
そして私はセシルに見送られながらダイニングルームを後にした―。
****
カチコチカチコチ…
部屋の時計が静かに時を刻んでいる。時刻はそろそろ9時になろうとしていた。
私は落ち着かない気持ちで部屋でフィリップが来るのを待っていた。
すると…。
コンコン
扉をノックする音が聞こえた。フィリップに違いない。急いで扉に向かい…ドアノブを回した。
カチャ…
扉を開けるとフィリップがそこに立っていた。
「いらっしゃい、フィリップ。待っていたわ」
「…そうかい」
気のない返事をするフィリップ。それでも少しも構わなかった。
だって、私は…。
「どうぞ、入って」
扉を大きく開け放ち、私は彼を迎え入れた。
「…お邪魔するよ」
フィリップが部屋に入ると、扉を閉めた。
「どうぞ、掛けて?」
部屋の中央に置かれた丸テーブルを挟んだラベンダーカラーのラウンジチェアをフィリップに勧めた。
「…うん」
フィリップが椅子に座り、私も向かい側に腰掛けると早速フィリップが口を開いた。
「…それじゃ出してくれるかい?」
「え?何を?」
一体何のことだろう?
「何をって…離婚届けだろう?提出する気になったから僕をこの部屋に呼んだんじゃないのかい?」
フィリップのその言葉に少なからずショックを覚えた。
「まさか、違うわ」
「え…?大事な話って…そのことじゃ無かったのか…?そうか…」
気のせいだろうか…。
フィリップの顔にどことなく安堵の表情が浮かんで見えたのは…。
「私は…ただ、貴方にお礼を言いたかったの。こんなに素敵な部屋を用意してくれたことや、私の為にわざわざ主治医に女医の方を雇ってくれたこと…片頭痛の時に私が飲んでいたハーブティーのことや私の好きな料理のこと…これらは全てフィリップ。貴方が使用人の人たちに伝えてくれたおかげでしょう?」
「…」
フィリップは黙って話を聞いている。…それはつまり肯定を現しているのだ。
「本当に嬉しかったわ。フィリップ、貴方のその心遣いが…。その御礼をどうしても直接伝えたかったの」
「…別にそれほどのことじゃ無いさ。最低限の事をしたまでだよ。所でセシルと2人で食事をしていたんだね?」
「え?ええ。そうよ」
「…とても楽しそうだった。セシルも…君もね」
「?そうだったかしら?」
「そうだよ。…これで安心したよ。2人の仲は良好だってことがね。良かった、うまくいきそうだ」
淡々と語るフィリップ。何故かその態度に違和感を感じる。
「フィリップ…?家族になったのだから仲良くするのは当然じゃない?」
「家族…ね…だけど、父と母には…」
フィリップはそこまで言うと口を閉ざした。
「お義父様とお義母様がどうかしたの?」
「いや、何でも無い。とにかく…君は今後も本館へは行かないでくれ」
「分かったわ、行かないわ」
私はすぐに返事をした。
「…理由を聞かないのかい?」
訝しげな瞳で私を見つめるフィリップ。
「ええ、聞かないわ。…だって私は貴方を信じているから。フィリップ…貴方のその行動は全て何か理由があってのことなのでしょう?」
視線をそらすこと無く私はフィリップを真っ直ぐに見つめる。
「…」
一瞬、フィリップの顔に動揺が走った。
「…君はまた…どうして…」
フィリップは苦しげに言う。
「フィリップ?」
「どうしてだ?僕は結婚が決まった直後から…散々酷い態度を取り続けてきた。そして結婚後はもっと…君を苦しめてきたのに…?君が身体を壊すほどに…。それなのに何故だい?何故まだ…そんな…優しい目で…僕を見つめてくるんだ…?」
フィリップの顔が…今にも泣きそうに歪んだ―。
朝食後の紅茶を飲みながらセシルは苦笑いした。
「どうかしたの?」
ハーブティーを飲んでいた私はカップをソーサーの上に置くと尋ねた。
「いや…ひょっとすると兄さん、俺たちのことを変に勘違いしたんじゃないかと思ってさ…」
「勘違いって?」
「それはつまり…って、ああ~…もう…俺に説明させるなよ…」
セシルは困った顔を浮かべ、私を見た。
「ほら、そんなことよりもそろそろ部屋に戻って兄さんを迎える準備でもしたほうがいいんじゃないか?」
「そうね…分かったわ」
別に準備するものは何も無かったけれども、ひょっとするとセシルは1人になりたいのかもしれない。
残りのハーブティーを飲み終えると立ち上がった。
「それじゃ、セシル。私、行くわね」
「ああ。そうした方がいい」
そして私はセシルに見送られながらダイニングルームを後にした―。
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カチコチカチコチ…
部屋の時計が静かに時を刻んでいる。時刻はそろそろ9時になろうとしていた。
私は落ち着かない気持ちで部屋でフィリップが来るのを待っていた。
すると…。
コンコン
扉をノックする音が聞こえた。フィリップに違いない。急いで扉に向かい…ドアノブを回した。
カチャ…
扉を開けるとフィリップがそこに立っていた。
「いらっしゃい、フィリップ。待っていたわ」
「…そうかい」
気のない返事をするフィリップ。それでも少しも構わなかった。
だって、私は…。
「どうぞ、入って」
扉を大きく開け放ち、私は彼を迎え入れた。
「…お邪魔するよ」
フィリップが部屋に入ると、扉を閉めた。
「どうぞ、掛けて?」
部屋の中央に置かれた丸テーブルを挟んだラベンダーカラーのラウンジチェアをフィリップに勧めた。
「…うん」
フィリップが椅子に座り、私も向かい側に腰掛けると早速フィリップが口を開いた。
「…それじゃ出してくれるかい?」
「え?何を?」
一体何のことだろう?
「何をって…離婚届けだろう?提出する気になったから僕をこの部屋に呼んだんじゃないのかい?」
フィリップのその言葉に少なからずショックを覚えた。
「まさか、違うわ」
「え…?大事な話って…そのことじゃ無かったのか…?そうか…」
気のせいだろうか…。
フィリップの顔にどことなく安堵の表情が浮かんで見えたのは…。
「私は…ただ、貴方にお礼を言いたかったの。こんなに素敵な部屋を用意してくれたことや、私の為にわざわざ主治医に女医の方を雇ってくれたこと…片頭痛の時に私が飲んでいたハーブティーのことや私の好きな料理のこと…これらは全てフィリップ。貴方が使用人の人たちに伝えてくれたおかげでしょう?」
「…」
フィリップは黙って話を聞いている。…それはつまり肯定を現しているのだ。
「本当に嬉しかったわ。フィリップ、貴方のその心遣いが…。その御礼をどうしても直接伝えたかったの」
「…別にそれほどのことじゃ無いさ。最低限の事をしたまでだよ。所でセシルと2人で食事をしていたんだね?」
「え?ええ。そうよ」
「…とても楽しそうだった。セシルも…君もね」
「?そうだったかしら?」
「そうだよ。…これで安心したよ。2人の仲は良好だってことがね。良かった、うまくいきそうだ」
淡々と語るフィリップ。何故かその態度に違和感を感じる。
「フィリップ…?家族になったのだから仲良くするのは当然じゃない?」
「家族…ね…だけど、父と母には…」
フィリップはそこまで言うと口を閉ざした。
「お義父様とお義母様がどうかしたの?」
「いや、何でも無い。とにかく…君は今後も本館へは行かないでくれ」
「分かったわ、行かないわ」
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「ええ、聞かないわ。…だって私は貴方を信じているから。フィリップ…貴方のその行動は全て何か理由があってのことなのでしょう?」
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「…」
一瞬、フィリップの顔に動揺が走った。
「…君はまた…どうして…」
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「どうしてだ?僕は結婚が決まった直後から…散々酷い態度を取り続けてきた。そして結婚後はもっと…君を苦しめてきたのに…?君が身体を壊すほどに…。それなのに何故だい?何故まだ…そんな…優しい目で…僕を見つめてくるんだ…?」
フィリップの顔が…今にも泣きそうに歪んだ―。
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