かあさんのつぶやき

春秋花壇

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69 盗癖のある人

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鼻をくすぐるニンニクと生姜の臭い。

耳が喜ぶ肉を焼く音。

(あれ、うまそうな肉の香り、朝から焼肉?)

俺は寝起きの機嫌が物凄く悪い。

多分、処方の眠剤が効き過ぎて居るんだと思うけど

それでよく母さんと喧嘩になる事がある。

あの人はどんな状態でも親への不敬な態度を

絶対に許さない。

「まあ~、この子は恐ろしい子だ」

と、本当にびっくりしたような声と顔でいう。

まるで俺が人間じゃないみたいに。

生きている事がとんでもない事のように

口にこそ出さないけど、責め心満載で詰っているのだろう。

母さんの育った環境で親に口答えなんて絶対に許されなかったようだ。

憲兵上がりの母さんの父親はいつも柳のむちと桜、樫の木の木刀がソバにあったという。

そして、母さんの腿からは痣が消えた事が無かったと聞いている。

俺からしたら躾という名の虐待に聞こえるんだが、

愛あるむち棒なのかもしれない。

「むち棒を控える者はその子を憎んでいるのであり,

子を愛する者は懲らしめをもって子を捜し求める」

と聖書の箴言 13:24には書かれているらしい。

母さんの発達障害、注意欠陥多動障害に対しての知識も知恵も無かったから

余計そうなったのかも知れない。

かあさんの善悪のものさしは確かにおかしい。

ここのところ、俺はずっと母さんのアパートに泊まり込んでいるんだけど

お米やインスタント珈琲はアマゾンで注文するけど

食費や生活費をかあさんに渡しているわけでは無かった。

おいしい焼き肉、食べ始めてからふと思った。

「お金ない筈なのに、このお肉どうしたの?」

「寝てたから、あなたのカードで買ってきた」

まるでものすごくいいことでもしたかのように少し胸をそらして自信ありげに言う。

「はー?」

俺は一瞬、彼女が何を言っているのか理解できなかった。

この人、自分が何をしたか解ってないんだろうか?

「あのさ、確かに昨日カードにチャージしてくれって頼んだよ。

でも、それは使っていいってことじゃなくて……」

その言葉を吐いた途端、冷たい台所の床が凍ったように感じた。

かあさんは、下を向いて一応反省した振りはしている。

でも、多分、そのお金で月初めまで俺が生活して行かなきゃいけないなんて思っていない。

だから、何もそこまで怒らなくてもって思ってるんだろうな…。

俺が子供の時、友達とお菓子屋さんのアイスを持って帰ってきたら、

おばあちゃんと一緒に俺を外の柱に括り付けて、

近所の人に何か言われ、

「躾も出来ない」

と、困惑していたのに。

いい事と悪い事の区別もつかなくなっちゃったのかな。

料理って不思議だよな。

せっかくのおいしいお肉も味がしなくなる。

いや、不味いとさえ感じてしまう。

なのにかあさんは、少し時間を空けると

「おいしいねー」

と嬉しそうに食べている。

何事もなかったかのように…・


悪気も全くない顔で、俺のカードから買ってきたって……。

「ガーン」

それってどろぼうジャン><

そして、黙って人が寝ている間に俺のカードを持って行って食材を買うか?

盗んでまで肉が食べたかったという事なのか?

そして、その盗んだ金で料理を作り、

「おいしいね」

と、穏やかに食べられると思っているのだろうか?

こう説明しても、多分あの人は解ってないんだろうな。

うん、多分解っていない。

その前の日には自転車の鍵がないと大騒ぎしていた。

そして、バッグの中をひっくり返したりお財布の中を何度も調べて

大騒ぎし、しまいには何時ものように

「早く死にたい」

とほざくのだ。

そんな言葉を息子の前でいうなよ。

自分のマンションに帰りたくても帰れなくなっちゃうじゃないか。

(ああ、毒親だ><)

なんと鍵は、財布の中ではなく筆入れの中にあったようだ。

幸せそうに都立公園のガーデニングを楽しんでいるのに

にこにこ笑顔でいる事が多いのに

少しずつ壊れていく母さんを見ているのが俺は恐ろしい。

里桜の葉が大きくなってまるでさくら餅のように見える。

みんな変化していくんだろうな。

良い方向に変わってくれればいいのにな。

年を取るということは器質的にはどんどん悪い方向になっていくのかな。

俺は、持って行き場のない憤りを覚える。

悲し過ぎる。

むごすぎる。

やっと正気になったと喜んでいたのに……。

小学生の頃からの幻覚・幻聴、アディクションから解放されたと言っていたのに…。

かあさん、寝ていても肩が物凄く痛いみたいでうめいている。

問題がある所からは、距離を置けばいいのに

がんじがらめに絡みついてくるしがらみが俺を動けなくしている。

もしも俺の優しさが弱さならば、

心を鬼にして離れなきゃダメなんだろうな。

頼むから、盗むのは俺の財布からだけにしてくれ。

た・の・む


花曇り
春愁に舞い散る
あだざくら
日毎色濃く
想い重ねて

菜種梅雨
けだるい風が
そよそよと
今が盛りと
花の散るらん

花をめで
鳥のさえずりに
耳を傾け
花の香りに誘われる
そよ吹く風に
頬を撫でられ
春を慈しむ
ウクライナにも
平和が訪れますように

ありがとうございます🌸
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