かあさんのつぶやき

55 しけもくあさり

小雨に煙るアスファルト

梅雨の後先の黄昏時は頬に柔らかな潤いを感じる。

「9日に入金があるはずだけど」

「ひょっとしたら、一日早く入っているかもしれない」

そんな淡い期待を胸に郵便局に繰り出した。

財布の中には息子がくれた1000円札一枚。

ATMで残高を確認すると、28円。

それを見たかあさんは、いくらお金の管理がまったくできないと言っても

仮にもファイナンシャルプランナーである。

大手保険会社に長年勤務してきた。

２級FP技能士の資格に有効期限はありません。
資格を取得すれば生涯有効です。 一方、AFP資格は２年ごとに更新が必要で、更新のために所定の継続教育単位を取得する必要があります。

「稼げるのは若い内だけ」

保険会社に勤める前、かあさんは芸者の仕事をしていた。

おじいちゃんが身罷ってからおばあちゃんをひきとり、弟を大学院まで出した。

そんな働き者の自分がまさか、残高28円になるなんて思ってもいなかったのだろう。

お客様の生活設計は出来ても自分の老後は制御できなかったんだろうね。

まあ、注意欠陥障害と統合失調症、重い気分障害、解離性同一性障害、

様々なアディクション、病院のカウンセラーがびっくりするくらいの

病気のデパートで一戸建てを買うくらいまで稼いできたんだろうから

はーーーって深い溜息を吐くのも解るような気がする。

さて、28円でどうするの?

明日になればお金が入る。

取り敢えず、今日の生活費を1000円で賄う。

昨日、俺がわかば2個を買って来てかあさんに渡した。

一日2個吸うのだから、もうとっくになくなっている。

普段なら、その1000円でわかば2個を何の考えもなく買う。

820円。残り180円である。

だが今日は少し違う。

現在、夜中の0時12分。

まだ、煙草を買ってきていないのだ。

これでやめたんならかっこいいのにな。

あんなにたくさん、禁煙の記事を読みながらずっと、しけもくを漁っている。

何ともあさましい悲しい光景。

かあさん、イメージするんだ。

残高28円じゃなくて、一日わかば420円×2

820円×30＝24600円

のお金が通帳に残るとしたら、

にこにこしちゃうじゃないか。

どうせ、宵越しの金を持たないかあさんは何かに使っちゃうのかもだけど

体に悪い煙草にお金を使うよりもおいしい物を食べた方がずっと楽しいし嬉しい。

今までは、何かを望む事なんて出来なかった。

それほど、病気のために精神が安定しなかった。

でも、今は何かを続けることが少しずつ出来るようになっている。

訪問看護が週に2度。

訪問介護が週に1度。

お金の管理も代理納付の所に頼んだ。

掃除し、処方をしっかり飲み、生活を整えていくんだ。

なりたい人になれるんだ。

目を閉じてごらん。

たばこをやめれば、ぜーぜーしないよ。

少なくとも今よりはもっと健康になれるよ。

覚せい剤だって、アルコールだってくりあーできたんだ。

きっとできるよ。かあさん。

たばこも必ずクリアーできる。

強く信じるんだ。

願望を抱くんだ。

たばこをやめたいって……。

雨上がり
老いさらばえて
色褪せて
なおも生きんと
思ひくゆらし