かあさんのつぶやき

51 消えた特別定額給付金

「10万円入ったら何かおうかな」

「今度こそ、デジカメとテレビとキーボード、湯沸し器も修理できるといいな」

「うふ、楽しみだなー。早くお金はいらないかな」

ごきげんのニコニコ笑顔で取らぬ狸の皮算用。

めずらしく、マリーゴールドを聞きながら

体全体でリズムを刻んでいる。

虫に食われた穴だらけの紫蘇、同じく残念なバジル、

パセリ、イタリアンパセリ、大家さんの手で

無残にも処理されそうになった大切な無農薬野菜に

話しかけながら、

「お花屋さんの借金も12000円くらいかな」

と、まだ見ぬ自由なお金を楽しみにしている。

幸せホルモンいっぱーい。

かあさんがね、買いたいものを買えたら俺も万歳ができるんだけど。


「オイッス!」

俺の名前は、沼田 和俊（ぬまた かずとし）43歳。

無職である。

重度の統合失調症で、毎週、病院に通っている。

母、小宮 富子(こみや　とみこ)66歳。

母は、父と離婚した後、別な戸籍になり、

旧姓に戻った。

母もまた重度の精神障害者である。

二人は、子供の頃から幻覚、幻聴に悩まされていた。

( ´•̥ו̥` )



現実はとても残酷で、たくさんの支払いが控えていた。

結局かあさんのもらえた10万円は、

止められてしまった電話代とネットのプロバイダーと

花屋の借金と俺の立て替えたお金を返してくれて

残り1万円。

もうこれはさ、家計の大改革をしないと

だめだってことだよね。

この前の記憶がなくなったときの40何万だって、

女性専門風俗にいったり、ホストクラブにいったりしたわけでもないのに

ものの見事に消えた。

かあさんの解離性健忘、注意欠陥障害、なんでもいいから

生活ができるようにならないと

このままいくと、どこの安い老人ホームに入るしかなくなる。。

「あーあ」

あんなににこにこしていたのに、かわいそうに。

꒰◍ᐡᐤᐡ◍꒱

「きたねえな、このくさばばあ、てめえの部屋くらいちゃんと掃除しろよ」

「すみません」

「はい、ぼーとつったてねえで、掃除する。手を動かす」

今にも蹴飛ばしそうな形相で介護の職員は叫んでいる。

結局こうなるのか。

まとまったお金があるわけでもない。

年金も最低金額。

そしたら、入れる施設なんていいところを望めるわけもなく。

視察に誰かが着たら、即効取り消されそうな場所。

刑務所のほうがまだきれいだよ、きっと。

だって、ここに入ってる人たちは

お金の管理もできないほど壊れてるから。

乾いた洗濯物をハンガーから取って、たたんでいる。

洗濯はまめなんだけど、乾いたものを定位置に戻すことさえ

習慣になっていない。

「ねーねー、嵯峨のおばあちゃまは布団を毎日たたむんだって」

かあさんもそうできると👍。

よし、バスタオルたためたよ。

次は下着を引き出しに。

一人で、施設ごっこ遊びをしている。

レンタル家族でも借りましょうか。

やっと、下着、ズボン、タオル、バスタオル、

靴下を引き出しにしまった。

布団の隙間から、エリンギと蜂蜜ノチューブが出てきたのは

どう考えたらいいのかな。

ざらざらの布団の上で、汗だくになって一休み。

「はー」

「こんなにざらざらじゃ、横になることもできない」

かあさんは、今日ラジオ体操に行ってからお風呂に入っている。

なのに、ガーデニングと部屋の掃除でTシャツも張り付くほど、

びしょびしょ。

糖尿病の口渇感で水分の取りすぎなのかもしれない。

この部屋がきれいにできるようになったら、

少しはかあさんの病気と得体の知れない生活も

よくなっているのかな。

ざらざらのお布団の掃除終わったら、

ご褒美にマクドナルドの100円のソフトクリーム食べに行こう。

楽しみができてよかったね。

65歳以上の貧乏な老人は何を楽しみにして生きているんだろう。

公園のベンチには、孤独な老人があちらにポツン。

こちらにもぽつん。

これは、去年のお話し。