かあさんのつぶやき

春秋花壇

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28 譲り合いの心

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「寝るんならこっちに寝てよ」

かあさんは、少しイライラしたような顔で

俺に嘆願、懇願、祈願する。

寝不足で少し意地悪な気分の俺は無視する。

きっと腹の中で、

「なんて優しくない子なんだろう。

こんな子に育てた覚えはない」

わかってるんだよ。

そうだね。

本当はそっちに寝てあげれば、

パソコン使えるんだよね。

かあさんは、仕方なく本を読み始める。

3.0の老眼鏡。

本当におばあさんになったな~♪

凪良ゆう先生の流浪の月。

一年がかりで読んでる。

違ったっけ。

かあさんは視野狭窄で目が見えない。

たくさん読むのは無理だから、

少しずつ少しずつ楽しみながら読んでいる。

いつか小説家になる日を夢見て、勉強してるんだろうな。

俺の記憶が正しければ、

かあさんは昔、パパが買ってきた推理小説を必死に読み漁ってたいた。

高層マンション大好きなパパと自然大好きなかあさん。

なんとか、コミュニケーションの糸口を見つけたかったんだろうね。

コンピュータープログラマーのパパとガーデニング大好きなかあさんの

共通の話題はなかった。

まだおばあちゃんが生きていたから、

おばあちゃんを通して二人は大切な話をしていた。

何で二人で話さなかったんだろう。

和泉のおじちゃんが言うように、

「問題があるのに話し合わないで

にこにこしてるのがいい夫婦だとは思わない」

和泉のおじちゃんのお嫁さんはよくかあさんに

「和泉さんがひどいんです」

って愚痴っていた。

魚の焼き方一つにしても、

「強火の遠火」

と、ガスコンロの上にレンガを載せて

焼くほどお金はなくても最大限に生活をおじちゃん夫婦は

楽しもうとしていた。

当然、生まれも育ちも違うから年中ぶつかっていたみたいで、

言い方一つで夫婦喧嘩みたいになる。

コミュニケーションがもっととれていたら、

喧嘩はしても別れないですんだんじゃないかと

俺は思うんだけど、事実は小説より奇なりなのかもしれない。

かあさんもパパもお互いを大好きで、

2回も離婚したのに同じ人と結婚してる。

そんなに愛し合っているのに、いつの間にかすれ違っていくんだよな。

そして、パパは新しい女の人に赤ちゃんができて家を出ていった。

かあさんは、そんな状況に耐えられなくて

保険の仕事に邁進していったんだ。

そして、俺と妹は二人にネグレクトされた。

そんな遠い昔のことを昨日のことのように覚えている俺は、

やっぱりどこか壊れている。

いつまで親のせいにしてるんだよって言われそうだけど、

俺はこの源家族に感謝はできてるんだからまだましになったと思う。

まあ、いろんなことを経験して円熟した大人に成長できたらいいよな。

大丈夫、変化してるんだから。

共依存だって、治ってきてるんだから。


「オイッス!」

俺の名前は、沼田 和俊(ぬまた かずとし)43歳。

無職である。

重度の統合失調症で、毎週、病院に通っている。

母、小宮 富子(こみや とみこ)66歳。

母は、父と離婚した後、別な戸籍になり、

旧姓に戻った。

母もまた重度の精神障害者である。

二人は、子供の頃から幻覚、幻聴に悩まされていた。

( ´•̥ו̥` )

て、全然違う話になってるんだけど……。

で、話を元に戻して

どうして、こっちで寝てよなのかというと、

かあさんの使っていたパソコンのディスプレイが壊れて

画面がうつらない。

小説書いたり、ツイッターしたり、

オンラインゲームをしたりパソコンを使って

一日中暮らしているからないと何もすることがないみたい。

お花を全部捨てられてしまったかあさんは、

パソコン命になってるみたいなんだ。

俺が動かないから、仕方なく寝てしまった。

俺も愛がないよな。

変わってあげればいいのにね。

この家にはパソコンが3台ある。

初めは仕方なく、ノートパソコンを立ち上げようと

ケーブルをつなぎなおしたりしていたけど、

ネットにつなげないとわかるとあきらめて寝てしまった。

「たった二時間なのに、まるで依存症真っただ中の

アルコールみたいになってる」

「そうか~」

スマホ解約したから、手持ちぶさたなんだろうな。

「ちょっと出かけてくる」

かあさんはいそいそと買い物に出かけた。

そして、買い物帰ってくると悲しそうな顔で、

「13800円」

という。

「なにそれ」

「コジマ電気でディスプレイが売っていた」

「ないの?」

「金銭管理任せちゃったから許可なしだと

何も買えない」

「はーー」

「13800円」

「俺、ないよ」

「うーん、13800円」

「月末だもん、ないよ」

「13800円」

うわごとのように何度も繰り返す。

記憶障害がどんどんひどくなっているかあさんは、

お金の管理を専門のところに依頼した。

だから、月々の生活費以外は手元にはないのだろう。

少し眠って機嫌のよくなった俺はかあさんのことを

ちょっとだけ思いやることができるようになっていた。

そして、譲り合い。

病院から帰って少しパソコンを弄ってから

かあさんが使えるように眠る場所を変えた。

なのに、なのにだよ。

朝になって俺が起きて少し使っていたら、

かあさんは我慢できないらしく俺のマンションに向かったんだ。

東京は今、ソメイヨシノの桜が満開。

春霞のようなもやがかかったような花曇りの中を

そよそよに風に吹かれている桜はどことなく頼りなく

淡い薄桃色で微笑んでいる。

咲いた桜がおのこなら

慕う胡蝶は妻じゃろう

ぱっと咲け櫻花

俺も咲きたや華やかに

ありがとうございます
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