エデンの園を作ろう

春秋花壇

文字の大きさ
上 下
20 / 209

将棋教室

しおりを挟む
陽だまりの午後
陽だまりの午後、桜並木が美しい公園に面した老人ホーム「エデンの園」の談話室では、入居者たちがそれぞれ思い思いの時間を過ごしていた。

窓際のソファでは、編み物に集中する澄江さん。編み棒を軽快に操りながら、孫娘へのプレゼントとなるマフラーを編んでいる。澄江さんは、娘夫婦と離れて暮らしており、孫に会えるのは年に数回。マフラーに込めた愛情は、遠く離れた家族への想いをそっと包み込む。

その隣では、将棋に熱中する正男さんと健太郎さん。真剣な表情で駒を動かし、互いに譲れない戦いを繰り広げている。勝負に負けた健太郎さんは、悔しさを滲ませながらも、笑顔で正男さんの手を握る。長年の友情で結ばれた二人は、勝負を超えた深い絆で結ばれていた。

談話室の奥では、書道に励む清子さん。筆を丁寧に持ち、一筆一筆に魂を込めて書道作品を仕上げている。清子さんは、若い頃から書道を嗜んでおり、入居後も書の道に精進している。作品には、人生の経験と深い情感が込められている。

エデンの園には、澄江さん、正男さん、清子さんをはじめ、様々な人生を歩んできた人々が暮らしている。中には、認知症や身体機能の衰えを抱える人もいるが、職員たちは一人ひとりに寄り添い、心身ともに充実した生活を送れるようサポートしている。

午後のひととき、談話室にピアノの音が響き渡る。ボランティアのピアニストによる演奏会が始まった。美しいメロディーは、入居者たちの心を優しく包み込む。目を閉じて音楽に聞き入る人、口ずさんで楽しむ人、それぞれの表情に安らぎが広がる。

演奏会の後は、職員が用意した手作りのおやつを囲んで、入居者たちは談笑を楽しむ。昔話に花を咲かせたり、近況報告をしたり、笑顔溢れるひとときを過ごす。

エデンの園は、単なる老人ホームではなく、人生の第二章を共に歩む仲間が集う温かい場所。ここでは、年齢や病に関係なく、誰もが自分らしく輝ける居場所を見つけることができる。

陽だまりの午後、エデンの園には、今日も温かい時間が流れていた。


陽だまりの午後、エデンの園の談話室に、一人の青年が訪れた。彼は、数ヶ月前にひだまり荘に入居したばかりの、元プロ棋士の山田健太さん(78歳)の息子、正樹さんだった。

正樹さんは、仕事で多忙な日々を送っており、父親と会うのは数ヶ月ぶりだった。健太さんは、久しぶりに息子と会え、喜びを隠せない様子。二人は、昔話に花を咲かせ、笑顔溢れる時間を過ごした。

正樹さんは、健太さんが認知症を発症し、将棋が指せなくなったことを知っていた。しかし、健太さんは、将棋への情熱を捨てていなかった。健太さんは、正樹さんに、最近作った将棋の詰将棋を見せてくれた。

正樹さんは、父親の詰将棋を見て、驚いた。健太さんは、認知症の影響で、日常生活には支障が出ていたが、将棋の才能は衰えていなかった。正樹さんは、父親の才能を誇りに思い、将棋を続けることを応援した。

正樹さんは、エデンの園を後にするとき、職員にこう言った。「父は、ここで本当に幸せそうです。ありがとうございます。」

職員は、正樹さんの言葉に、温かい笑顔を浮かべた。エデンの園は、入居者たちが自分らしく輝ける場所を提供するために、日々努力している。

陽だまりの午後、エデンの園には、今日も温かい時間が流れていた。

その後
正樹さんは、父親と会う頻度を増やすようにした。そして、健太さんの将棋の才能を活かせるように、エデンの園で将棋教室を開くことを提案した。

職員たちは、正樹さんの提案に賛成し、将棋教室を開講することになった。将棋教室は、入居者たちだけでなく、地域の人々にも開放され、多くの人が参加するようになった。

健太さんは、将棋教室の先生として、生き生きと輝いていた。彼の指導は、分かりやすく、丁寧で、参加者たちから好評を得ていた。

健太さんは、将棋を通して、入居者たちと交流し、新たな人生の喜びを見出していた。エデンの園は、健太さんにとって、第二の故郷となった。

陽だまりの午後、エデンの園の将棋教室には、今日も熱戦が繰り広げられていた。健太さんの笑顔は、ひだまり荘の象徴のように、明るく輝いていた。

「六枚おちでお願いします」

職員が利用者さんから教わる。

それもまた楽しからずや。

しおりを挟む

処理中です...