16 / 65
第2章 入学前編
9 ひとりで
しおりを挟む
翌朝、薄暗い中で目が覚めた。
空は暗いけど雨は小雨になってしとしと降っている。
昨日のことを思い出して気が滅入る。
どんな顔して会えばいいのか。
……正直まだ会いたくない。
ユーリスが起き出してくる前に出掛けてしまおう。
のっそり起き上がって適当な身支度をする。
リビングに行くとそこは昨日散らかしたままになっていた。
床に落ちた湿ったタオルを拾い、動かした椅子を戻す。
守護獣用飼料の素材が詰まったカバンも床に転がったままで、中を開けると大半が雨水に濡れたまま一晩放置されていたせいで状態が劣化していた。
空腹を覚えて続けてキッチンに行く。
あれから夕飯も用意しなかったので、昨晩調理した形跡はもちろん、パンやチーズが食べられた様子がない。
ユーリスも何も食べてないみたいだ。
適当に味のしないパンを水でふやかして胃に入れ、少し迷った後に一人前のコールドミールのプレートを用意して布巾をかぶせる。
ブレッドナイフを拭っていると、カシカシと爪が床を蹴る音が近づいてきた。
木製の扉をすり抜けてノスニキがキッチンに入ってくる。
「おはようございますノスガルデルタ様。お腹空きましたか?」
そう聞くと肯定するようにふさふさしたダークグレーの尻尾をハタハタと降る。
戸棚から調合済みの飼料を入れたホーロー瓶を取り出してフードボールによそい、目の前においた。
顔を突っ込んでハグハグ食べる様子をぼんやり眺る。
「昨日採ったご飯、ダメにしてしまいました。楽しみにしていたのに申し訳ありません。今日採り直しに行きますね。」
俺の声に顔を上げたノスニキの頭をくしゅくしゅと掻いてマッサージした。
雨脚が弱いことをもう一度確認し、探索の支度をして玄関に向かう。
空にした採集袋を肩にかけ、まだ湿った革靴に足を突っ込んでいるとノスニキがやってきた。
「行ってきますね。坊っちゃまをよろしくお願いします。」
扉を開けると、行く手を遮るように足元にまとわりついてくる。
「ノスガルデルタ様、おやめ下さい。あなたのご飯を採りに行くんですよ。」
手で体を押しのけようとしても、煙を触るみたいにスカッと手がすり抜けてしまう。
ブーツの靴紐を咥えて引き戻すように引っ張られる。
「お願いします。行かせてください。まだあと少し、坊っちゃまと顔を合わせたくないんです。」
そう言うとノスニキは靴紐を離した。
代わりに脚をよじ登ろうとしてくる。
仕方なくその体を抱き上げた。
「一緒に参りますか?」
顔を覗き込んで聞くと、鼻先を小さな舌でペロっと舐められる。
くすぐったさに少し笑いを漏らしながらノスニキを下に降ろすと、霧のような雨の中森に向かう俺の後ろをトコトコと追ってきた。
昨日とは違う場所に入り、素材を探してしばらくすると、結局また雨脚が強くなってきた。
そろそろ引き返そうかと思ったとき、少し遠くでドドドッと土砂が崩れる音がして地面が揺れる。
音は自分が来た方角からだったので嫌な予感がして引き返すと、案の定歩いてきた獣道を塞ぐように土砂が流れ出していた。少し危機感を覚えたが、小さな土砂崩れなのでよじ登れば越えて向こうに行けそうだ。
すぐに引き返すべきか?いや、移動している最中にまた他の所が崩れて巻き込まれるかもしれない。
昨日より雨の強くなるペースが早いし、今日は雨脚が収まるまで地盤が固そうな場所で待った方が良いだろう。
一瞬公爵の笛を使うことが頭を過ったが、道を見失ったわけではないし安易に使うべきじゃないと思い直した。
空は暗いけど雨は小雨になってしとしと降っている。
昨日のことを思い出して気が滅入る。
どんな顔して会えばいいのか。
……正直まだ会いたくない。
ユーリスが起き出してくる前に出掛けてしまおう。
のっそり起き上がって適当な身支度をする。
リビングに行くとそこは昨日散らかしたままになっていた。
床に落ちた湿ったタオルを拾い、動かした椅子を戻す。
守護獣用飼料の素材が詰まったカバンも床に転がったままで、中を開けると大半が雨水に濡れたまま一晩放置されていたせいで状態が劣化していた。
空腹を覚えて続けてキッチンに行く。
あれから夕飯も用意しなかったので、昨晩調理した形跡はもちろん、パンやチーズが食べられた様子がない。
ユーリスも何も食べてないみたいだ。
適当に味のしないパンを水でふやかして胃に入れ、少し迷った後に一人前のコールドミールのプレートを用意して布巾をかぶせる。
ブレッドナイフを拭っていると、カシカシと爪が床を蹴る音が近づいてきた。
木製の扉をすり抜けてノスニキがキッチンに入ってくる。
「おはようございますノスガルデルタ様。お腹空きましたか?」
そう聞くと肯定するようにふさふさしたダークグレーの尻尾をハタハタと降る。
戸棚から調合済みの飼料を入れたホーロー瓶を取り出してフードボールによそい、目の前においた。
顔を突っ込んでハグハグ食べる様子をぼんやり眺る。
「昨日採ったご飯、ダメにしてしまいました。楽しみにしていたのに申し訳ありません。今日採り直しに行きますね。」
俺の声に顔を上げたノスニキの頭をくしゅくしゅと掻いてマッサージした。
雨脚が弱いことをもう一度確認し、探索の支度をして玄関に向かう。
空にした採集袋を肩にかけ、まだ湿った革靴に足を突っ込んでいるとノスニキがやってきた。
「行ってきますね。坊っちゃまをよろしくお願いします。」
扉を開けると、行く手を遮るように足元にまとわりついてくる。
「ノスガルデルタ様、おやめ下さい。あなたのご飯を採りに行くんですよ。」
手で体を押しのけようとしても、煙を触るみたいにスカッと手がすり抜けてしまう。
ブーツの靴紐を咥えて引き戻すように引っ張られる。
「お願いします。行かせてください。まだあと少し、坊っちゃまと顔を合わせたくないんです。」
そう言うとノスニキは靴紐を離した。
代わりに脚をよじ登ろうとしてくる。
仕方なくその体を抱き上げた。
「一緒に参りますか?」
顔を覗き込んで聞くと、鼻先を小さな舌でペロっと舐められる。
くすぐったさに少し笑いを漏らしながらノスニキを下に降ろすと、霧のような雨の中森に向かう俺の後ろをトコトコと追ってきた。
昨日とは違う場所に入り、素材を探してしばらくすると、結局また雨脚が強くなってきた。
そろそろ引き返そうかと思ったとき、少し遠くでドドドッと土砂が崩れる音がして地面が揺れる。
音は自分が来た方角からだったので嫌な予感がして引き返すと、案の定歩いてきた獣道を塞ぐように土砂が流れ出していた。少し危機感を覚えたが、小さな土砂崩れなのでよじ登れば越えて向こうに行けそうだ。
すぐに引き返すべきか?いや、移動している最中にまた他の所が崩れて巻き込まれるかもしれない。
昨日より雨の強くなるペースが早いし、今日は雨脚が収まるまで地盤が固そうな場所で待った方が良いだろう。
一瞬公爵の笛を使うことが頭を過ったが、道を見失ったわけではないし安易に使うべきじゃないと思い直した。
32
↓めちゃくちゃ世話になっている
B L ♂ U N I O N
B L ♂ U N I O N
お気に入りに追加
1,143
あなたにおすすめの小説
博愛主義の成れの果て
135
BL
子宮持ちで子供が産める侯爵家嫡男の俺の婚約者は、博愛主義者だ。
俺と同じように子宮持ちの令息にだって優しくしてしまう男。
そんな婚約を白紙にしたところ、元婚約者がおかしくなりはじめた……。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王太子殿下は悪役令息のいいなり
白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」
そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。
しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!?
スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。
ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。
書き終わっているので完結保証です。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる