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第2章 入学前編
9 ひとりで
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翌朝、薄暗い中で目が覚めた。
空は暗いけど雨は小雨になってしとしと降っている。
昨日のことを思い出して気が滅入る。
どんな顔して会えばいいのか。
……正直まだ会いたくない。
ユーリスが起き出してくる前に出掛けてしまおう。
のっそり起き上がって適当な身支度をする。
リビングに行くとそこは昨日散らかしたままになっていた。
床に落ちた湿ったタオルを拾い、動かした椅子を戻す。
守護獣用飼料の素材が詰まったカバンも床に転がったままで、中を開けると大半が雨水に濡れたまま一晩放置されていたせいで状態が劣化していた。
空腹を覚えて続けてキッチンに行く。
あれから夕飯も用意しなかったので、昨晩調理した形跡はもちろん、パンやチーズが食べられた様子がない。
ユーリスも何も食べてないみたいだ。
適当に味のしないパンを水でふやかして胃に入れ、少し迷った後に一人前のコールドミールのプレートを用意して布巾をかぶせる。
ブレッドナイフを拭っていると、カシカシと爪が床を蹴る音が近づいてきた。
木製の扉をすり抜けてノスニキがキッチンに入ってくる。
「おはようございますノスガルデルタ様。お腹空きましたか?」
そう聞くと肯定するようにふさふさしたダークグレーの尻尾をハタハタと降る。
戸棚から調合済みの飼料を入れたホーロー瓶を取り出してフードボールによそい、目の前においた。
顔を突っ込んでハグハグ食べる様子をぼんやり眺る。
「昨日採ったご飯、ダメにしてしまいました。楽しみにしていたのに申し訳ありません。今日採り直しに行きますね。」
俺の声に顔を上げたノスニキの頭をくしゅくしゅと掻いてマッサージした。
雨脚が弱いことをもう一度確認し、探索の支度をして玄関に向かう。
空にした採集袋を肩にかけ、まだ湿った革靴に足を突っ込んでいるとノスニキがやってきた。
「行ってきますね。坊っちゃまをよろしくお願いします。」
扉を開けると、行く手を遮るように足元にまとわりついてくる。
「ノスガルデルタ様、おやめ下さい。あなたのご飯を採りに行くんですよ。」
手で体を押しのけようとしても、煙を触るみたいにスカッと手がすり抜けてしまう。
ブーツの靴紐を咥えて引き戻すように引っ張られる。
「お願いします。行かせてください。まだあと少し、坊っちゃまと顔を合わせたくないんです。」
そう言うとノスニキは靴紐を離した。
代わりに脚をよじ登ろうとしてくる。
仕方なくその体を抱き上げた。
「一緒に参りますか?」
顔を覗き込んで聞くと、鼻先を小さな舌でペロっと舐められる。
くすぐったさに少し笑いを漏らしながらノスニキを下に降ろすと、霧のような雨の中森に向かう俺の後ろをトコトコと追ってきた。
昨日とは違う場所に入り、素材を探してしばらくすると、結局また雨脚が強くなってきた。
そろそろ引き返そうかと思ったとき、少し遠くでドドドッと土砂が崩れる音がして地面が揺れる。
音は自分が来た方角からだったので嫌な予感がして引き返すと、案の定歩いてきた獣道を塞ぐように土砂が流れ出していた。少し危機感を覚えたが、小さな土砂崩れなのでよじ登れば越えて向こうに行けそうだ。
すぐに引き返すべきか?いや、移動している最中にまた他の所が崩れて巻き込まれるかもしれない。
昨日より雨の強くなるペースが早いし、今日は雨脚が収まるまで地盤が固そうな場所で待った方が良いだろう。
一瞬公爵の笛を使うことが頭を過ったが、道を見失ったわけではないし安易に使うべきじゃないと思い直した。
空は暗いけど雨は小雨になってしとしと降っている。
昨日のことを思い出して気が滅入る。
どんな顔して会えばいいのか。
……正直まだ会いたくない。
ユーリスが起き出してくる前に出掛けてしまおう。
のっそり起き上がって適当な身支度をする。
リビングに行くとそこは昨日散らかしたままになっていた。
床に落ちた湿ったタオルを拾い、動かした椅子を戻す。
守護獣用飼料の素材が詰まったカバンも床に転がったままで、中を開けると大半が雨水に濡れたまま一晩放置されていたせいで状態が劣化していた。
空腹を覚えて続けてキッチンに行く。
あれから夕飯も用意しなかったので、昨晩調理した形跡はもちろん、パンやチーズが食べられた様子がない。
ユーリスも何も食べてないみたいだ。
適当に味のしないパンを水でふやかして胃に入れ、少し迷った後に一人前のコールドミールのプレートを用意して布巾をかぶせる。
ブレッドナイフを拭っていると、カシカシと爪が床を蹴る音が近づいてきた。
木製の扉をすり抜けてノスニキがキッチンに入ってくる。
「おはようございますノスガルデルタ様。お腹空きましたか?」
そう聞くと肯定するようにふさふさしたダークグレーの尻尾をハタハタと降る。
戸棚から調合済みの飼料を入れたホーロー瓶を取り出してフードボールによそい、目の前においた。
顔を突っ込んでハグハグ食べる様子をぼんやり眺る。
「昨日採ったご飯、ダメにしてしまいました。楽しみにしていたのに申し訳ありません。今日採り直しに行きますね。」
俺の声に顔を上げたノスニキの頭をくしゅくしゅと掻いてマッサージした。
雨脚が弱いことをもう一度確認し、探索の支度をして玄関に向かう。
空にした採集袋を肩にかけ、まだ湿った革靴に足を突っ込んでいるとノスニキがやってきた。
「行ってきますね。坊っちゃまをよろしくお願いします。」
扉を開けると、行く手を遮るように足元にまとわりついてくる。
「ノスガルデルタ様、おやめ下さい。あなたのご飯を採りに行くんですよ。」
手で体を押しのけようとしても、煙を触るみたいにスカッと手がすり抜けてしまう。
ブーツの靴紐を咥えて引き戻すように引っ張られる。
「お願いします。行かせてください。まだあと少し、坊っちゃまと顔を合わせたくないんです。」
そう言うとノスニキは靴紐を離した。
代わりに脚をよじ登ろうとしてくる。
仕方なくその体を抱き上げた。
「一緒に参りますか?」
顔を覗き込んで聞くと、鼻先を小さな舌でペロっと舐められる。
くすぐったさに少し笑いを漏らしながらノスニキを下に降ろすと、霧のような雨の中森に向かう俺の後ろをトコトコと追ってきた。
昨日とは違う場所に入り、素材を探してしばらくすると、結局また雨脚が強くなってきた。
そろそろ引き返そうかと思ったとき、少し遠くでドドドッと土砂が崩れる音がして地面が揺れる。
音は自分が来た方角からだったので嫌な予感がして引き返すと、案の定歩いてきた獣道を塞ぐように土砂が流れ出していた。少し危機感を覚えたが、小さな土砂崩れなのでよじ登れば越えて向こうに行けそうだ。
すぐに引き返すべきか?いや、移動している最中にまた他の所が崩れて巻き込まれるかもしれない。
昨日より雨の強くなるペースが早いし、今日は雨脚が収まるまで地盤が固そうな場所で待った方が良いだろう。
一瞬公爵の笛を使うことが頭を過ったが、道を見失ったわけではないし安易に使うべきじゃないと思い直した。
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↓めちゃくちゃ世話になっている
B L ♂ U N I O N
B L ♂ U N I O N
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