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第2章 入学前編
10 青ヤマユリ
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辺りを見回して、樹齢が高そうな大木を探す。
そういう長生きの木が生えているところは地面も崩れにくいはずだ。
少し登った所に、太い幹に人1人が座れるくらいのウロがある巨木を見つける。
ちょうどよかったので、中にいた虫を適当に払ってそこに座った。
木は枝の長い広葉樹で、下は雨風もだいぶ防げるようになってた。
ついてきたノスニキがうろの前で体を振って雫を飛ばす。
タオルを取り出してまだ水気のある顔を拭いてやった。
雨脚は更に強くなっていく。
ユーリスの昼食は大丈夫だろうか。
戻ったらどんな態度で接すればいいんだろう。
そもそも何て話しかけるのか。
「この材料を一緒に加工しようって坊っちゃまを誘うのはどうですかね?」
袋を指差してノスニキに聞いてみる。
しらっとした表情を返された。
そりゃ、今更俺の言動がフォローしきれるものじゃないことくらい気付いている。
ユーリスが戻って俺の無礼を報告すれば厳罰か自分で辞めるまでもなく首だ。
公爵の口利きの話もなくなるだろう。
でもそんな事より、ユーリスとこのまま終わってしまう方が何倍も胸が痛む。
一緒に過ごしてきた6年がこんな形で終わるなんて。
こんなに後悔するなら、拒否しなきゃよかったのかな。
あのまま好きにさせていたらどうなってたんだろう。
性器を咥えられて、脚を開かされて、それから……
昨日のユーリスを思い出すと、下半身に変な感覚が走りそうになって頭を振って打ち消した。
こんな所で何考えてんだ俺。
気を紛らわすために、うろから頭を出して外の様子をうかがう。
すると、雨音の中にひどく懐かしい音が微かに聞こえた。
耳をそばだててそのメロディーを追う。
これ多分、採集クエストで青ヤマユリがドロップした時の専用BGMだ。
クエスト完了画面でこれが流れる度に歓喜していたので記憶に残っている。
少女がアカペラで奏でているような不思議な旋律。
立ち上がって音の元を探す。
いくつかの方向を確かめていると、ノスニキが1つの方向に走り出した。
慌ててそれを追う。
音が少しずつ近くなって、それを頼りに森の中を進むと急な斜面がすぐ先に広がる場所に出た。
その斜面の縁に、羽の生えた小さい少女のような妖精が立っている。
メロディーは彼女の歌声だった。
俺がその姿を見つけた時、妖精はちょうど歌い終わり薄青のオーラを発して飛び立ってしまった。
後を追うように数歩歩み出て足元に広がる急斜面を見下ろすと、少し下の傾斜に青白く色を変えるヤマユリが生えているのを見つけた。
ヤマユリは、体を目一杯伸ばせば手が届きそうな所に生えているように見えた。
斜面のさらに先は崖になっていて、その数m下は濁流になった川が流れている。
風に吹かれて大きな花がゆらゆら踊る。
このままだと折れて飛ばされてしまうかもしれない。
興味深そうに縁から頭を伸ばして花を覗き込むノスニキを抱き上げると少し横に退けた。
「待っててください。今取ってあげますから。」
カバンやローブを外して身軽になる。
ノスニキが足を噛んで止めてくるのを、ごめんと思いながら足を振って振り払った。
一瞬、さっき見た土砂崩れが頭をよぎる。
こんな危ないこと絶対するべきじゃない。
でもこれでノスニキが進化したら、俺がユーリスと過ごした意味がちゃんと残せる気がした。
近くに若木が生えていたので、その幹にしっかり掴まる。強めに揺すってもビクともしないのを確かめて、その木を片手に握り命綱にして少しずつ斜面を降りた。
どうにか腕を伸ばすと、指先が花びらに触れた。
あと少し、と更に伸ばせば茎に手が届く。
それを手折って、しっかりと茎を掴んだ。
そういう長生きの木が生えているところは地面も崩れにくいはずだ。
少し登った所に、太い幹に人1人が座れるくらいのウロがある巨木を見つける。
ちょうどよかったので、中にいた虫を適当に払ってそこに座った。
木は枝の長い広葉樹で、下は雨風もだいぶ防げるようになってた。
ついてきたノスニキがうろの前で体を振って雫を飛ばす。
タオルを取り出してまだ水気のある顔を拭いてやった。
雨脚は更に強くなっていく。
ユーリスの昼食は大丈夫だろうか。
戻ったらどんな態度で接すればいいんだろう。
そもそも何て話しかけるのか。
「この材料を一緒に加工しようって坊っちゃまを誘うのはどうですかね?」
袋を指差してノスニキに聞いてみる。
しらっとした表情を返された。
そりゃ、今更俺の言動がフォローしきれるものじゃないことくらい気付いている。
ユーリスが戻って俺の無礼を報告すれば厳罰か自分で辞めるまでもなく首だ。
公爵の口利きの話もなくなるだろう。
でもそんな事より、ユーリスとこのまま終わってしまう方が何倍も胸が痛む。
一緒に過ごしてきた6年がこんな形で終わるなんて。
こんなに後悔するなら、拒否しなきゃよかったのかな。
あのまま好きにさせていたらどうなってたんだろう。
性器を咥えられて、脚を開かされて、それから……
昨日のユーリスを思い出すと、下半身に変な感覚が走りそうになって頭を振って打ち消した。
こんな所で何考えてんだ俺。
気を紛らわすために、うろから頭を出して外の様子をうかがう。
すると、雨音の中にひどく懐かしい音が微かに聞こえた。
耳をそばだててそのメロディーを追う。
これ多分、採集クエストで青ヤマユリがドロップした時の専用BGMだ。
クエスト完了画面でこれが流れる度に歓喜していたので記憶に残っている。
少女がアカペラで奏でているような不思議な旋律。
立ち上がって音の元を探す。
いくつかの方向を確かめていると、ノスニキが1つの方向に走り出した。
慌ててそれを追う。
音が少しずつ近くなって、それを頼りに森の中を進むと急な斜面がすぐ先に広がる場所に出た。
その斜面の縁に、羽の生えた小さい少女のような妖精が立っている。
メロディーは彼女の歌声だった。
俺がその姿を見つけた時、妖精はちょうど歌い終わり薄青のオーラを発して飛び立ってしまった。
後を追うように数歩歩み出て足元に広がる急斜面を見下ろすと、少し下の傾斜に青白く色を変えるヤマユリが生えているのを見つけた。
ヤマユリは、体を目一杯伸ばせば手が届きそうな所に生えているように見えた。
斜面のさらに先は崖になっていて、その数m下は濁流になった川が流れている。
風に吹かれて大きな花がゆらゆら踊る。
このままだと折れて飛ばされてしまうかもしれない。
興味深そうに縁から頭を伸ばして花を覗き込むノスニキを抱き上げると少し横に退けた。
「待っててください。今取ってあげますから。」
カバンやローブを外して身軽になる。
ノスニキが足を噛んで止めてくるのを、ごめんと思いながら足を振って振り払った。
一瞬、さっき見た土砂崩れが頭をよぎる。
こんな危ないこと絶対するべきじゃない。
でもこれでノスニキが進化したら、俺がユーリスと過ごした意味がちゃんと残せる気がした。
近くに若木が生えていたので、その幹にしっかり掴まる。強めに揺すってもビクともしないのを確かめて、その木を片手に握り命綱にして少しずつ斜面を降りた。
どうにか腕を伸ばすと、指先が花びらに触れた。
あと少し、と更に伸ばせば茎に手が届く。
それを手折って、しっかりと茎を掴んだ。
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↓めちゃくちゃ世話になっている
B L ♂ U N I O N
B L ♂ U N I O N
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