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【R15】番外編
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空き部屋に入って荷物を開けていると、廊下からパタパタ誰かが来る音がした。
僕の部屋の前まで来たみたいで、コソコソした話し声が聞こえる。
扉が薄いから丸聞こえだけど。
「おい、まだ来たばかりなんだから迷惑じゃないか?」
「でもガロ座長はいいって言ってたじゃん。」
どうやら知らない男女の声だ。
入り口まで歩いてドアを開ける。
「どうしたの?君たちが新人さん?」
2人は僕を見て驚いた顔をした。
まだ10代後半くらいの女の子と男の子だ。
「はじめましてルネさん!私先月入団したカンナと言います!」
「あ、やっぱり?はじめまして。ルネです。」
「わー!本物だぁ。間近で見ても本当に美人!男の人って思えない。肌も綺麗だし……。」
「ありがとう。カンナもすごく美人さんだね。舞台映えすると思う。」
実際、カンナと名乗った子は中々目を惹く美少女だ。榛色の髪と白い肌に自然に視線がいく。なのにまとってる雰囲気はイメージが決まりきらない所がいい。
オペレッタで出てくる若い女性の役は何でもハマりそうだ。
こういう子は、どんな役をやらせても印象に残るんじゃないかな。
「わぁ!嬉しい!ありがとうございます!」
ばっと勢いよく手を握られた。
「っおい!迷惑だろ!」
一緒にいた男の子が慌ててカンナの手を掴んで僕から引き剥がす。
おやおや。
「君は?」
「……フランツです。」
男の子の方は、長い手足がこれまた舞台では目立ちそうな細身の少年だ。
顔立ちも華やかじゃないけど、目が切れ長で涼やか。
地味さは化粧で何とかなるから、この体の存在感は貴重かも。
流石ガロ座長の入れた新人だなぁ。
数年後が楽しみだ。
「フランツ、君もいい役者になりそうだね。ようこそカペラ座へ。」
笑って言えば、フランツは眉間にしわを寄せてこちらを見た。
「あ、あんたは舞台より、地味だな。」
おやおやぁ。
「ちょっと!フランツこそルネさんに何失礼なこと言ってるのよ!ルネさんごめんなさい。この子素直じゃなくて……」
「そうかな?分かりやすいよ。」
だからあんまり君が僕を庇わない方がいいと思うな。
「本当ですか?あれだけでフランツがルネさんの大ファンだって分かったんですか!?私もルネさんの大ファンだからやっと会えて嬉しくて……」
「なっ……カンナ!」
うんうん。共通の話題が欲しくてカンナちゃんに適当に話合わせたんだね。
「それで、ひょっとして稽古のお誘いかな。」
尋ねるとカンナがぴょんと飛び跳ねた。
「そうです!あの、今からお時間空いてますか?」
「うん。稽古室は取ってある?」
「あ、まだです!空いてるのは来る時確認してるので、私予約表に書いてきますね。2人は先に行っててください!」
カンナが小走りで事務室に向かって行ったので、フランツと2人残される。
眉間にしわを寄せたままのフランツがちらりとこちらを見るのと目が合った。
こちらの視線に気付くとぱっとそっぽを向いてしまう。
「君ぃ、僕のファンなんだ?」
ちょっとからかうつもりで言った。
地味って言われた仕返しだ。
「っ……そうだけど……」
あはは。一応まだそういう事にしとくんだ。
可愛いなぁ。でも指導の時にいちいち妬かれたんじゃたまらないから言っとくか。
「残念でした。僕、旦那さんにメロメロだから。」
耳元でこそっと言うと、フランツは飛び跳ねて僕から距離を取った。
「あっ、あんた意地悪だなっ!」
目を見開いて顔を真っ赤にしている。
意地悪したつもりじゃないけど、からかう気持ちはちょっとあった。
確かにそれは良くなかったな。
真面目にやろう。
「ごめん、僕はただ自分の夫以外にそういうつもりになることは一切ないってフランツにわかって欲しかっただけなんだ。」
「まだダメ押しするのかよ!?」
結局フランツの機嫌を損ねたまま僕たちは稽古室に向かった。
僕の部屋の前まで来たみたいで、コソコソした話し声が聞こえる。
扉が薄いから丸聞こえだけど。
「おい、まだ来たばかりなんだから迷惑じゃないか?」
「でもガロ座長はいいって言ってたじゃん。」
どうやら知らない男女の声だ。
入り口まで歩いてドアを開ける。
「どうしたの?君たちが新人さん?」
2人は僕を見て驚いた顔をした。
まだ10代後半くらいの女の子と男の子だ。
「はじめましてルネさん!私先月入団したカンナと言います!」
「あ、やっぱり?はじめまして。ルネです。」
「わー!本物だぁ。間近で見ても本当に美人!男の人って思えない。肌も綺麗だし……。」
「ありがとう。カンナもすごく美人さんだね。舞台映えすると思う。」
実際、カンナと名乗った子は中々目を惹く美少女だ。榛色の髪と白い肌に自然に視線がいく。なのにまとってる雰囲気はイメージが決まりきらない所がいい。
オペレッタで出てくる若い女性の役は何でもハマりそうだ。
こういう子は、どんな役をやらせても印象に残るんじゃないかな。
「わぁ!嬉しい!ありがとうございます!」
ばっと勢いよく手を握られた。
「っおい!迷惑だろ!」
一緒にいた男の子が慌ててカンナの手を掴んで僕から引き剥がす。
おやおや。
「君は?」
「……フランツです。」
男の子の方は、長い手足がこれまた舞台では目立ちそうな細身の少年だ。
顔立ちも華やかじゃないけど、目が切れ長で涼やか。
地味さは化粧で何とかなるから、この体の存在感は貴重かも。
流石ガロ座長の入れた新人だなぁ。
数年後が楽しみだ。
「フランツ、君もいい役者になりそうだね。ようこそカペラ座へ。」
笑って言えば、フランツは眉間にしわを寄せてこちらを見た。
「あ、あんたは舞台より、地味だな。」
おやおやぁ。
「ちょっと!フランツこそルネさんに何失礼なこと言ってるのよ!ルネさんごめんなさい。この子素直じゃなくて……」
「そうかな?分かりやすいよ。」
だからあんまり君が僕を庇わない方がいいと思うな。
「本当ですか?あれだけでフランツがルネさんの大ファンだって分かったんですか!?私もルネさんの大ファンだからやっと会えて嬉しくて……」
「なっ……カンナ!」
うんうん。共通の話題が欲しくてカンナちゃんに適当に話合わせたんだね。
「それで、ひょっとして稽古のお誘いかな。」
尋ねるとカンナがぴょんと飛び跳ねた。
「そうです!あの、今からお時間空いてますか?」
「うん。稽古室は取ってある?」
「あ、まだです!空いてるのは来る時確認してるので、私予約表に書いてきますね。2人は先に行っててください!」
カンナが小走りで事務室に向かって行ったので、フランツと2人残される。
眉間にしわを寄せたままのフランツがちらりとこちらを見るのと目が合った。
こちらの視線に気付くとぱっとそっぽを向いてしまう。
「君ぃ、僕のファンなんだ?」
ちょっとからかうつもりで言った。
地味って言われた仕返しだ。
「っ……そうだけど……」
あはは。一応まだそういう事にしとくんだ。
可愛いなぁ。でも指導の時にいちいち妬かれたんじゃたまらないから言っとくか。
「残念でした。僕、旦那さんにメロメロだから。」
耳元でこそっと言うと、フランツは飛び跳ねて僕から距離を取った。
「あっ、あんた意地悪だなっ!」
目を見開いて顔を真っ赤にしている。
意地悪したつもりじゃないけど、からかう気持ちはちょっとあった。
確かにそれは良くなかったな。
真面目にやろう。
「ごめん、僕はただ自分の夫以外にそういうつもりになることは一切ないってフランツにわかって欲しかっただけなんだ。」
「まだダメ押しするのかよ!?」
結局フランツの機嫌を損ねたまま僕たちは稽古室に向かった。
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