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【R15】番外編

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カンナも揃って稽古室に3人、どういう練習をするかの検討をする。

「とりあえず、君たちが覚えている台本から何か場面をやってみる?」

「じゃあ『陛下のお気に入り』がいいです。」

カンナが笑顔で言う。
僕がこないだ主役を演じた劇だ。

「あれを覚えたの?」

「はい。私たち、何回もカペラ座の公演見ました!ね?フランツ?」

「まあ。」

「じゃあ、カンナが主人公のエレオノール役で、フランツが恋人のバルドーでいいのかな?」

「はい。あっ、でもその前にお手本でルネさんにエレオノールやって貰えませんか?」

カンナが手を組んでお願いのポーズをしてくる。

「いいよ。じゃあシーンは……」

「ラストがいいです!」

ラストって、ボロボロになったエレオノールが、バルドーの腕の中で死ぬシーンだ。
最後は瀕死の主人公に恋人がキスをして、それを感じながら彼女はやっと辿り着いた幸せの中息絶える。

「お、おいカンナ……」

フランツが慌てて止めに入った。
この感じ、二人の付き合いは中々長いようだ。
その間ずっとフランツはカンナに片思いしてるんだろうか。
何だか健気でいいじゃん。

「いいけど、後でカンナも同じシーンできる?」

「はい。やります!」

よし。ならフランツに協力するつもりで引き受けてあげよう。
もちろん練習は真面目にやってもらうけど。

「じゃあ、フランツはバルドー役ね。セリフとか大丈夫?」

「覚えてますけど、最初はルネさんとやるんですか?」

「そうだよ。今バルドー役を出来るのは君しかいないもの。」

まあ、一足飛びにカンナとやりたいのはわかるけどここは辛抱して貰おう。

「じゃあ、倒れたエレオノールをバルドーが見つけて抱き起すところからね。」

そう言って僕は横になった。
目でフランツを促すと、観念したのか驚きの表情を作って僕に駆け寄り背中から上半身を引き上げる。

お、ちゃんとそこから役に入ったのは偉い。続くセリフも中々様になってる。

「エレオノール、どうしてここに?その姿……すぐに治療をしなくては!?」

「待って、ください……バルドー。今言わせてください……でないと、二度と貴方に伝わらないでしょう。……愛しています……貴方だけを……この愛が報われなくても……」

脳裏にジョンを思い浮かべる。
全然似てないフランツの細い線に、簡単にジョンを重ねられてしまった。

僕がもし今ジョンと引き離されたら……。
それだけで胸が苦しくて悲しくなる。
自分で家出してきたくせに何言ってるんだって感じだけど。
ジョンも、僕が帰らないって知ったら切なく思ってくれるかな。

「っ……私も、貴方を愛している。手を伸ばしてはいけないと思っていました。貴方が幸せなら、私はそこにいなくても良かった。しかし、もっと早くこうして貴方を抱きしめるべきでした。」

おーいい感じだな。ちゃんと恋してる顔だ。
僕だって最近やっとマスターしたのに。
感心していると、いよいよキスシーンになってフランツの顔がぐんぐん近づいてきた。
あれ、キスは振りでいいんだけど。何か入り込みすぎてない?

「ちょっ」

流石に止めようと瀕死の演技をやめて相手の口を手のひらで塞ぐ。
その瞬間にバンッと稽古室の扉が開いて大きな体が突撃してきた。

「ルネ!」

フランツに抱き起こされてその口を塞いだまま音がした方を見れば、デーモンも青ざめそうな形相のジョンが立っている。

「……君は誰だ。なぜルネに触れている。」

「ひっ……」

ジョンの剣幕に気圧されたフランツが僕の体に回していた腕を引っ込めた。

「わっ」

バランスを崩した僕の体が背中から床に倒れる。頭をぶつける前にどうにか肘をついて体を支えた。

そのまま体を起こそうとした時、上から影が落ちてきたと思ったら体がふわりと浮いて視界にジョンの体が飛び込んでくる。

横抱きで抱えられていると気付いたときにはジョンはさっさと出口に向かって歩き始めていた。
僕は首をひねって後ろを振り返り、ぽかんとした顔でこちらを見る新人2人を見返した。
2人の姿は直ぐに扉が閉まって見えなくなった。
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