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修行7:たくさん折った(1)

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 あの時の死亡フラグは正しかった。

 この世界には「レベル30の俺」と、「レベル5以下のその他」しか居ない……だから俺は、ある程度は「最強」なんだと、そう思っていた。


「おいおいおいおい!何だよっ、アレ!」


 しかし、それは全くの勘違いだった。
 俺は、電光石火の勢いで走っていた。いや、違う。ちょっと格好良く言ってみたけど、ただ全速力で逃げていただけだ。

「ふざっけんな!勝手に間違って呼び出しといて、今更罪人扱いはねぇだろうがっ!」

 先程まで、俺はこの聖王国のトップでもある「国王」と対峙していた。そして、対峙した瞬間、俺は周囲に控えていた兵士達から捕縛されてしまった。国王の傍には、見慣れぬ真っ黒な髪をした顔の良い男が立っている。

 その男の脇に表示されているステータスに、俺は思わず息を呑んだ。

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名前:ゴルゴタ  Lv:60
クラス:魔剣士
HP:5421   MP:741
攻撃力:321  防御力:245
素早さ:121   幸運:51
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 ゴルゴタというその男は、王様の言葉を借りるならば「真の勇者」らしい。どうやら、この国王。凝りもせずまた外から「勇者もどき」を召喚したらしかった。

「違う……アイツは勇者じゃねぇっ」

 確かに、ゴルゴタのレベルは俺の倍だった。しかし、コイツが勇者でない事は、俺にはハッキリと分かった。なにせ、ゴルゴタも俺と全く同じだったからだ。

【次のレベルまで、あと……0】

 ゴルゴタのレベルも既に60で頭打ちになっている。これでは、レベル100の“あの”魔王には確実に勝てない。そもそもクラスがただの魔剣士じゃないか。
 それに、なにより――。

「シモンが本物の勇者じゃねぇかっ!」

 俺は走る足を一切止める事のないまま「クソッ」と拳を握りしめた。

「っはぁ、っはぁっはぁ」

 ムカつき過ぎて、いつもより息が切れて仕方がない。

 背後にそびえる純白の城は、清々しい青空に明るい太陽の光を浴び、まるで自らが栄光と正義そのものだと言わんばかりだ。
 体中を炎が纏ったような怒りの中、俺はふと視界の右脇に映り込む、数値と文字の映し出された四角の枠を見た。

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名前:キトリス  Lv:30
クラス:剣士
HP:11   MP:3
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 俺のHPもMPもあと残り僅かだ。
 城に呼び出され、一方的に「勇者の名を語った悪徳詐欺師」として皆の前で糾弾されまくってしまった挙句、俺が「ソイツは本物の勇者じゃない」と叫ぶと、その場でゴルゴタとの一騎打ちを強制された。

 俺の「コイツは勇者じゃない」という言葉が、どうにも王様には我慢ならなかったらしい。いや、別に俺は自分が「ホンモノだ!」と主張したいワケではなく「本物は別に居る!」と説明したのだが……。

 しかし、そんな俺の言葉など、端から俺を罪人に仕立て上げようとしている相手に聞き入れて貰えるワケも無かった。

 俺は、あれよあれよという間に闘技場に連れて行かれ、倍のレベル差のある相手に聴衆の前でコテンパンにされてしまったのだ。
 勝てない事は分かっていた。だから、俺はあと一撃食らったら終わりという所で一瞬の隙を突いて闘技場から逃げ出したのだ。

 死亡フラグは確かに立っていた。
 でも、前回同様、そうやすやすと俺も死ぬワケにはいかない。偽物だろうが脇役だろうが、生存本能は人並みにあるのだから。

「くそっ、くそっ、くそっ!」

 俺が勇者じゃない事くらい、ずっと分かってたわ!
 偽物だって分かってたからこそ、俺はその称号をきちんとシモンに返してやりたかったのに。

 また、新しい“ニセモノ”が現れた。

「本物の勇者は……シモンだ!」

 街道から森の中に抜けた瞬間、俺はその場に崩れ落ちた。さすがに、このギリギリのHPで、これ以上走ると命に関わるかもしれない。

「……でも、もうシモンの所には戻れない」

 走り過ぎたせいで、とめどなく流れ落ちてくる汗を腕で拭いながら俺は揺るぎようのない事実を口にした。

「どうする……?」

 もう俺はあの街にも、子供達の所にも、そしてシモンの所にも戻れないだろう。あんな聴衆の前で「偽物」だと糾弾され、逃げ出した俺だ。きっとすぐに手配書が出回るに違いない。

「シモン、お前がホンモノの勇者だぞ」

 俺は崩れ落ちた膝を無理やり立たせると、再び立ち上がった。
 手配書が出回るまでは、物理的な時間がかかるはず。だとすれば、その前に出来る限りの事をしておかないと。

「……目、いてぇ」

 流れ落ちる汗が目に入ってしみる。
 俺は乱暴な手つきで目を擦ると、あまり力の入らない足にムチを打って駆け出した。


◇◆◇


 その後、俺の予想通り俺の手配書が聖王国の領内全てに発布された。
 どうやら、今回の死亡フラグは、俺の必死の生存本能によりバキバキに折る事に成功したようだ。

 昔から、俺は不幸中の“幸い”だけはギリギリ持っているようだ。

「ほんと、俺はここぞという時の“運”だけは良かったな」


 あれから二年。
 俺はこの世界で、未だにしぶとく生き続けている。

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