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修行6:たくさん使い過ぎた(2)
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◇◆◇
「え、聖王国に行く?なんで?」
その夜、俺はいつものダンジョン攻略の帰り、シモンに聖王国へ行く事を告げた。
「ちょっとアッチじゃないと買えない武器があってさ」
「じゃあ、俺も一緒に行く」
「ダメだ。子供達はどうするんだよ。危ないだろうが」
「アイツら、もうその辺のゴロツキにも負けないよ」
シモンから返された言葉に、俺は「確かに」と内心苦虫を噛み潰したような気分になった。そうなのだ。教会に居る、シモン以外の十一人の子供達は、いつの間にかシモンの手によって鍛え直され、子供ながらに皆「レベル5」にされてしまっていた。
レベル5。
確かに、数字だけ見ると大した事はないが、相対的に見れば決してそうではない。なにせ、名将と呼ばれる国の兵士ですら最大レベルが5のこの世界だ。子供ながらに皆、一流の兵士と同じレベルに仕上がってしまっていたのである。
さすが、ホンモノの勇者は鍛える力も凄いらしい。
「特にヤコブが一番強いかもね」
「……そ、そうか」
シモンがドヤ顔で俺を見下ろしてくる。確かに、シモンと子供達が手合わせをしている所を何度も見てきたが、一番年下の筈のヤコブが最も実力が付いていた。
最初に出会った頃は「しよー」と、師匠すらまともに発音出来ていなかったヤコブは、今や見る影もない。
まぁ、未だに性格はボヤボヤだが。
「ヤコブは、お前に一番憧れてるからなぁ」
「そう?」
「そうだよ」
やはり、強さの原動力は「憧れ」だ。まさに、シモン自身が身をもってそれを証明してくれた。
「ま、そういうワケだから。俺も師匠と一緒に聖王国に……」
「ダ、ダメダメダメ!聖王国には俺一人で行くから!」
「はぁ!?なんで、そんなに一人で行きたがるんだよ!師匠、もしかして俺以外にも弟子を作る気じゃないだろうな!?」
なんだ、この浮気を疑う嫉妬深い彼女みたいな言い草は……!
「作らねぇよ!俺にはお前しか居ないっていつも言ってるだろ!?」
そして、俺の返事も何だ!これはバカップルの会話ですか?いいえ、これは師弟の会話です!
「じゃあいいじゃん!俺も連れて行ってよ!」
「だーかーらっ!」
しかし、いつもの一撃必殺「お前だけしか居ないよ」を使っても、シモンは未だに納得した様子は見られない。そんなシモンの姿に、俺は作戦を変える事にした。最近はどちらかと言えば“こちら”の方がシモンにはよく利く。
「シモン、頼むよ。いくら強くなったって、まだ皆子供だ。お前が、アイツらと一緒に居てくれると思うから、俺も一人で安心して出かけられる……」
------お前だけが、頼りなんだよ。
その俺の言葉にシモンの目が大きく見開かれる。そして、その表情は徐々に隠し切れない程の喜色に満ち、そして――。
「俺だけ?」
「そうだよ。アイツらだけじゃ、何かあったんじゃないかって心配になるんだよ。シモンが居てくれるから、俺も安心して出かけられる」
「……ふーん」
満更でもなさそうなシモンの顔。シモンは昔から真っ直ぐで単純だ。
もう十七歳になるシモンからすれば「師匠から頼りにして貰える」というのは、そりゃあもう嬉しいらしい。
「それに、聖王国に行くのはお前の新しい武器を買う為でもあるから」
「新しい武器?」
「そうそう。帰って少ししたら、そろそろ二人で魔王討伐の旅に出ようかと思ってるんだよ。今回の聖王国行きはその準備でもある」
「っ!」
息を呑むシモンに、俺は横目に「レベル90」というシモンのステータスを見た。うん、この調子なら、後一年……いや、もしかするとここ数か月の間に、シモンのレベルは魔王と同じ「レベル100」に到達するだろう。
「……師匠と二人だけで旅?ほんとに?二人だけで?」
「さすがに子供達は連れてけねーよ」
「っしゃ!」
「おう、お前にピッタリの武器を買って来てやるから、お前はしっかり修行してろ!」
「やったーー!」
大きな体で、幼い子供のように飛び上がるシモンに俺は、内心「可愛い奴め」と遥か高見にあるその頭を、めいっぱい腕を伸ばして撫でてやった。シモンのヤツ、また身長が伸びた気がする。
「師匠と二人で旅。やっとだ……」
「おうおう、楽しみだな」
さて、ひとまずシモンという出発前のラスボスはどうにか出来た。
次は、本チャンのラスボス。国王様をどう説得して機嫌を直して貰うかが問題だ。どうにかしてあと少しは魔王討伐を待ってもらわなければ。
そう、俺が頭の片隅で色々と作戦を練っている時だった。
「ねぇ、師匠」
俺に頭をグリグリと押し付けていたシモンがなんとも嬉しそうな顔で俺に言った。
「師匠が帰ってきたらさ……もう俺、成人だし。一緒にお酒飲もうよ」
「へ?」
「ね、お願い。俺、師匠と酒が飲みたい」
「あ、あぁ」
言いながら、シモンは俺の手を流れるように動作で掴むと、そのまま手の甲に小さく口付けを落とした。
「早く、帰って来てね」
まるで、王子様のような優雅さを纏いながらそんな事を言うシモンに、俺は照れるより先に、何故か前世の弟の言葉を思い出してしまっていた。
------二度と帰ってくんな!バァァカ!
それは、俺が弟から送られた最後の言葉だ。その言葉に、俺はあの時同様、思ってしまった。
「なんか……死亡フラグ立った気がする」
まるで真逆の言葉の筈なのに、ゲームや物語上ではこの手の台詞はご法度だ。特に「主人公目線」で放たれる死亡フラグの強制力ときたら……。
「あぁ。師匠、早く帰って来て」
いや、俺。まだ目の前に居るんですけど。
そう、まるで俺が居なくなった後のモノローグのようなセリフを口にし始めたシモンに対し、俺はふと目にしたシモンのステータス画面に息を呑んだ。
------
名前:シモン Lv:90
クラス:勇者
------
シモンの【クラス】から余計な装飾後が消えた。
あ。なんか、マジで死んだかも。俺。
「え、聖王国に行く?なんで?」
その夜、俺はいつものダンジョン攻略の帰り、シモンに聖王国へ行く事を告げた。
「ちょっとアッチじゃないと買えない武器があってさ」
「じゃあ、俺も一緒に行く」
「ダメだ。子供達はどうするんだよ。危ないだろうが」
「アイツら、もうその辺のゴロツキにも負けないよ」
シモンから返された言葉に、俺は「確かに」と内心苦虫を噛み潰したような気分になった。そうなのだ。教会に居る、シモン以外の十一人の子供達は、いつの間にかシモンの手によって鍛え直され、子供ながらに皆「レベル5」にされてしまっていた。
レベル5。
確かに、数字だけ見ると大した事はないが、相対的に見れば決してそうではない。なにせ、名将と呼ばれる国の兵士ですら最大レベルが5のこの世界だ。子供ながらに皆、一流の兵士と同じレベルに仕上がってしまっていたのである。
さすが、ホンモノの勇者は鍛える力も凄いらしい。
「特にヤコブが一番強いかもね」
「……そ、そうか」
シモンがドヤ顔で俺を見下ろしてくる。確かに、シモンと子供達が手合わせをしている所を何度も見てきたが、一番年下の筈のヤコブが最も実力が付いていた。
最初に出会った頃は「しよー」と、師匠すらまともに発音出来ていなかったヤコブは、今や見る影もない。
まぁ、未だに性格はボヤボヤだが。
「ヤコブは、お前に一番憧れてるからなぁ」
「そう?」
「そうだよ」
やはり、強さの原動力は「憧れ」だ。まさに、シモン自身が身をもってそれを証明してくれた。
「ま、そういうワケだから。俺も師匠と一緒に聖王国に……」
「ダ、ダメダメダメ!聖王国には俺一人で行くから!」
「はぁ!?なんで、そんなに一人で行きたがるんだよ!師匠、もしかして俺以外にも弟子を作る気じゃないだろうな!?」
なんだ、この浮気を疑う嫉妬深い彼女みたいな言い草は……!
「作らねぇよ!俺にはお前しか居ないっていつも言ってるだろ!?」
そして、俺の返事も何だ!これはバカップルの会話ですか?いいえ、これは師弟の会話です!
「じゃあいいじゃん!俺も連れて行ってよ!」
「だーかーらっ!」
しかし、いつもの一撃必殺「お前だけしか居ないよ」を使っても、シモンは未だに納得した様子は見られない。そんなシモンの姿に、俺は作戦を変える事にした。最近はどちらかと言えば“こちら”の方がシモンにはよく利く。
「シモン、頼むよ。いくら強くなったって、まだ皆子供だ。お前が、アイツらと一緒に居てくれると思うから、俺も一人で安心して出かけられる……」
------お前だけが、頼りなんだよ。
その俺の言葉にシモンの目が大きく見開かれる。そして、その表情は徐々に隠し切れない程の喜色に満ち、そして――。
「俺だけ?」
「そうだよ。アイツらだけじゃ、何かあったんじゃないかって心配になるんだよ。シモンが居てくれるから、俺も安心して出かけられる」
「……ふーん」
満更でもなさそうなシモンの顔。シモンは昔から真っ直ぐで単純だ。
もう十七歳になるシモンからすれば「師匠から頼りにして貰える」というのは、そりゃあもう嬉しいらしい。
「それに、聖王国に行くのはお前の新しい武器を買う為でもあるから」
「新しい武器?」
「そうそう。帰って少ししたら、そろそろ二人で魔王討伐の旅に出ようかと思ってるんだよ。今回の聖王国行きはその準備でもある」
「っ!」
息を呑むシモンに、俺は横目に「レベル90」というシモンのステータスを見た。うん、この調子なら、後一年……いや、もしかするとここ数か月の間に、シモンのレベルは魔王と同じ「レベル100」に到達するだろう。
「……師匠と二人だけで旅?ほんとに?二人だけで?」
「さすがに子供達は連れてけねーよ」
「っしゃ!」
「おう、お前にピッタリの武器を買って来てやるから、お前はしっかり修行してろ!」
「やったーー!」
大きな体で、幼い子供のように飛び上がるシモンに俺は、内心「可愛い奴め」と遥か高見にあるその頭を、めいっぱい腕を伸ばして撫でてやった。シモンのヤツ、また身長が伸びた気がする。
「師匠と二人で旅。やっとだ……」
「おうおう、楽しみだな」
さて、ひとまずシモンという出発前のラスボスはどうにか出来た。
次は、本チャンのラスボス。国王様をどう説得して機嫌を直して貰うかが問題だ。どうにかしてあと少しは魔王討伐を待ってもらわなければ。
そう、俺が頭の片隅で色々と作戦を練っている時だった。
「ねぇ、師匠」
俺に頭をグリグリと押し付けていたシモンがなんとも嬉しそうな顔で俺に言った。
「師匠が帰ってきたらさ……もう俺、成人だし。一緒にお酒飲もうよ」
「へ?」
「ね、お願い。俺、師匠と酒が飲みたい」
「あ、あぁ」
言いながら、シモンは俺の手を流れるように動作で掴むと、そのまま手の甲に小さく口付けを落とした。
「早く、帰って来てね」
まるで、王子様のような優雅さを纏いながらそんな事を言うシモンに、俺は照れるより先に、何故か前世の弟の言葉を思い出してしまっていた。
------二度と帰ってくんな!バァァカ!
それは、俺が弟から送られた最後の言葉だ。その言葉に、俺はあの時同様、思ってしまった。
「なんか……死亡フラグ立った気がする」
まるで真逆の言葉の筈なのに、ゲームや物語上ではこの手の台詞はご法度だ。特に「主人公目線」で放たれる死亡フラグの強制力ときたら……。
「あぁ。師匠、早く帰って来て」
いや、俺。まだ目の前に居るんですけど。
そう、まるで俺が居なくなった後のモノローグのようなセリフを口にし始めたシモンに対し、俺はふと目にしたシモンのステータス画面に息を呑んだ。
------
名前:シモン Lv:90
クラス:勇者
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シモンの【クラス】から余計な装飾後が消えた。
あ。なんか、マジで死んだかも。俺。
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