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48何事も無く
しおりを挟むそれから三日間。
頭を強く打ち熱を出してしまった私は部屋から出る事はなかった。
その間エセルバート様は邸に帰るのは夜で私はその時間は寝ていた。
起きていたけど寝たふりをしていたのだった。
「こんな時、お祖母様だったらどうしたのかしら」
辛い時はお祖母様の言葉を思い出していた。
でもこんな時どうしたら良いか解らない。
お祖母様も嫁に来た時は相当苦労をしたと聞いている。
でもお祖父様がずっと支えてくれていたから耐えることができた。
私が小さい頃に既に病で亡くなっていたけどお祖母様はお祖父様がいたから耐えられたと。
だけど私は…
私達の間に絆はあったのか。
三日間エセルバート様には部屋に訪れる事はなく。
怪我の事も何も言わずにいたけど、気まずそうな顔をするだけで私も何も言わないでいた。
その代わりに。
「奥様、包帯を変えましょう」
「エレナ…」
「傷の治りも良くてようございましたわ。これも団長様のおかげですわ」
「ええ…」
私の世話を率先してくれるエレナは事あるごとにエセルバート様と私が二人きりにならないようにしていた。
「おいお茶は…」
「奥様、ハーブティーをお持ちしました」
「奥様、今日はお天気ですのでバルコニーでお茶に致しましょう」
エセルバート様がお茶のお代わりを言うも言葉を遮るようにマヤや他の使用人も私を囲む。
「お茶のお代わりだ」
「承知しました」
そう言いながらマヤは早々にお茶を用意するも、カップに注ぐのだがかなり乱雑で早かった。
「あっ…美味しい」
「蜂蜜を淹れましたの。今新しく開発中で侯爵夫人から届きましたの」
「おい、何で先に僕に…」
「従者の方に一番最初に奥様にとの事です」
きっぱりと告げるマヤに顔を顰めるが気にも留めない。
「奥様、プリメーラ商会からお手紙が」
「ジョイル、何故僕に見せないんだ」
「いえ…エセルバート様では解らないかと」
「そんなはず…」
奪う様に手紙を受け取るも、手紙は他国から送られてきていた。
「これは…」
「外国語ですので読めないかと思います」
「なっ…」
現在プリメーラ商会は輸入を中心にしており国外にいる。
手紙も母国語ではないので読めないのだ。
「だが…」
「奥様は四か国語ペラペラですものね」
「ええ、ここ最近は帝国の語学も独学で学んでおられますものね」
エセルバート様の留守の間に私は他国の言葉や文化を学んでいた。
ロベスペール侯爵家で色々学ばせてもらっていたのだから。
「女は学問をする必要はない!これから手紙は僕に持ってこい!」
「エセルバート様…」
朝食の時間すら癇癪を起こすようになり、外回りに出かけてしまった。
そんなやりとりが繰り返される中。
邸の空気はギスギスしてしまい私はできるだけエセルバート様の言う通りに振舞う事にした。
けれどそれはエセルバート様の為じゃない。
使用人の皆を守る為だった。
その一方で心の片隅に優しかったエセルバート様を忘れられなかった。
だけど私の思いを踏みにじるようにあの人は私が手掛けた事業を自分の物とした。
その結果事業は傾き家は逆戻りとなり。
その二週間後。
「お義母様…」
「今日からまたここで暮らすわ」
突如お義母様が邸に戻って来た。
お義父様の病気が快復した事により邸に暮らすとの事で私は…
「お前は離れに行きなさい」
母屋から追い出されてしまった。
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