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32帰って来た夫
しおりを挟む傾いたカスティージョ家を建て直すのは簡単ではなかった。
でも私は果報者だった。
私には支えてくれる人が沢山いた。
カスティージョ家の使用人にこんな私に力を貸してくれるギルド、プリメーラ商会を初めとして、現在は憎い敵である私をロベルペール侯爵夫人は資金援助を申し出てくれたのだ。
他にも私に援助しても良いと言ってくれる高位貴族の皆さん。
本当に感謝してもしたりない。
留守を任されて三か月。
遠方にいるエセルバート様がようやく戻りようやく再出発ができる事を心から喜んだのだった。
「長らくる留守にしていてすまなかった」
「いいえ、大丈夫です」
「領地から噂を聞いた。ロベルペール家と和解したそうだな。良かった」
「はい」
「しかし良く許して貰えたな。気性の荒い方だと聞いているから無理だと…」
気性の荒い?
ロベスペール家の奥様は厳しさはあれど、根は優しく面倒見の良い方だ。
「使用人も癖が強いからな」
んん?
癖が強いって何だろう?
あんなに優しい人達なのに、真逆の噂が流れているのかな?
「奥様、そろそろお時間です」
「時間?」
「申し訳ありません。これから今から出かけなくてはならなくて」
今日は大事な約束があるのだ。
そろそろ出ないと間に合わなくなるのだ。
「奥様お急ぎならないと大事な商談に遅れます。この商談は」
「解っているわ。エレナ、エセルバート様、申し訳ありません。今日は一日夜まで帰れませんがどうかゆっくりしてくださいませ」
「アリア…」
本来ならエセルバート様と時間を作りたいのだけど、今日の商談は絶対に成功させなくてはならない。
「奥様、今は商談の事をお考え下さい」
「解っているけど、申し訳ないわ」
長旅で疲れている旦那様を邸に残していくなんて。
「ジョイル様もいらっしゃいますから大丈夫ですわ」
「そうね」
今はジョイルの娘さんやお孫さんも邸に呼んでいる。
使用人が足りず、手が足りないので正式に雇う事になったのだけど働きぶりは素晴らしいものだった。
娘さんのジュンナは厨房を任せている。
その息子のジョシュアは執事見習いとしてもしっかり働いてくれている。
そのおかげで邸は他所から新たな使用人を雇わなくて良くなった。
「私の夫もおりますので、何も心配ありませんわ」
「うん、ありがとう」
馬車の中でエセルバート様が不自由なく過ごせることを願っていたが、この時既に私達の間に大きな距離ができており、夫婦生活のカウントダウンが始まったなんて知りもせず私は商会の商談に望んでいた。
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