41 / 111
第二章南の島開拓
18.負債
しおりを挟む土木作業は事故が付き物だった。
特に鉱山で宝石を発掘するのも同じで事前調査と、事故が起きた時の対策をきっちりしなくてはならない。
アーデルハイドは、事故が起きた時には怪我をした時の対策をしていた。
職人の中には貧しく子供を抱えて生活がギリギリな者も多かったので、危ない仕事を請け負う代わりに見返りとして色々保証していた。
事故がなくても命の危険を伴う仕事なので、現場で事故がないように注意したり、その場に看護師等、怪我の手当てをできる者を派遣していた。
しかし、グフタスはそんなのは経費の無駄だと切った。
他にも朝から夜まで働く彼らが仮眠を取れる場所も用意していたアーデルハイドとは反対にアイシャは、ギルドや職人にそこまでする必要はないと言って食料やテントすら用意せず放置した。
その結果が招いたのが今回の事件だった。
「この度の責任はどうしてくださるのかしらねぇ?」
ギルドマスターの妻が笑みを浮かべながらも冷たい視線で射貫く。
「この度の事故は…」
「事故ですって?まともな調査もせずに、ギルドに無理な労働を強いて…あげくの果て救援もしないで何が事故ですか!私は何度も忠告しましたが…貴方は絶対に事故がないようにすると押し切ったのですよ!」
グフタスの言葉についにブチ切れたギルドマスターの妻事、ゾフィーは書類を叩きつける。
「なんてずさんな調査ですの?通常ならばありえませんわ」
「ランドール侯爵、私の大事な部下をただの消耗品と思われていたのですか…ご息女は奴隷と申したそうですな」
「なっ…そのような」
「証拠もあります。現場を記録する為に映像が記録されておりました…ご覧になりますか」
「なっ…無礼な!」
勝手に映像を記録されていたことを怒るが、ゾフィーが書類を見せる。
「何を言っているのかしら?契約書には書かれてましてよ…現場で事故が起きた時の為に映像、記録は残すと。まさか、契約書をちゃんと目を通しておられなかったのですか?」
「そっ…それは」
「では、事前調査にも貴方は立ち会わなかったのは本当のようですわね。アーデルハイド嬢はこういった事故を防ぐために念入りに調査をして、事故が起きないように何度も足をお運びくださいましたわ」
「そっ…それは」
グフタスは言い訳を考えるも、何も言えない。
そんな面倒なことをする必要もないと思っていたし、ここ数年は土砂崩れが起きてもたいした被害になることもなく、怪我人が出ても問題は起きなかった。
だから大丈夫だと思ったのだ。
「そして、現場で働く者にはテントすら用意してくださらなかったとか?」
「は?」
「アイシャ嬢が、そんな無駄な経費は必要ないと…現場に立ち会った私の部下から報告がありました。実際現場に向かうと、彼らが休憩する場所は設けられておらず食料すら与えていなかったようですわね」
「そんなはずは!」
グフタスは焦った。
確かに事前調査はあまりしていなかったが、初耳だった。
そこで気づく。
事業を手伝いたいと言ってきた二人は現場の指揮は任せてほしいと言っていたことを。
「この度の火元責任者は侯爵様ですわ。事故が貴方達の責任であれば鉱山は差し押さえになり、損害場賞金は支払っていただきます。生き残った方も重傷を負っておりますので治療費も負担していただきますが、当然ですわね」
「待て…そんな!」
「医師や看護師を派遣していれば少なくとも、不幸な事故としてで調査されたでしょうが…アイシャ嬢は現場でギルド達が死んでもいいとまで言われてましたわ。記録にしっかり残っております」
逃げ場がないグフタスは頭を抱えた。
「裁判ではこの証拠も提出させていただきますので」
「待ってくれ…頼む!」
「残念ですよ、侯爵…私達との関係はこれっきりです」
静観していたゾフィーの夫は冷たく言い放ちさらに契約書を見せる。
「アーデルハイド嬢ならばこんな失態を犯さなかった…いいえ、これは天罰でしょうな」
「これから、天罰が降りかかるでしょうが…自業自得ですわね」
追い打ちをかけるように告げ二人はそのまま去っていくのを止めるも、空しく扉が閉まる音が聞こえた。
残ったのは契約書と損害賠償の請求が書かれた書類だけだった。
応援ありがとうございます!
16
お気に入りに追加
5,446
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる