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第一章婚約破棄と国外追放
3.妹の身代わり
しおりを挟む冷たく見下ろすのはエリーゼの両親だった。
「ユフィの好意を、無下にする気?」
「それでも姉か!聖女だと偽った罪を許して下さる殿下に感謝しろ」
エリーゼは反論する気もなかった。
何を言っても無駄で、人の話を聞こうともしない。
「優秀なユフィは敵国になんて行かせるわけにはいかないわ。危険すぎるし」
「それに引き換えお前ならば問題ない…」
遠回しに死んでもいいと言われているようだった。
特に母親がエリーゼを見る目は我が子に向けるモノとは到底思えなかった。
「異論は認めん」
「はい…」
「三日後、敵国に向かう。それまでに準備しておけ」
他国に嫁ぐ準備は通常一年を要するのだが、この婚姻はずっと前から決まっていた。
ただ、帝国側に猶予期間を貰っていたのか。
それとも、両親が最後まで反対していたのかもしれない。
(帝国側の方は紳士ね)
言い方は悪いが、マリンフェスタ帝国の力を持ってすれば従わざるを得ないのだから。
レスティア王国とマリンフェスタ帝国では国の規模が違う。
強い軍事力を持つ帝国に攻められてしまえば一環の終わりだろうし、レスティア王国は大国ではあるが歴史の長さはマリンフェスタ帝国に到底敵わないのだから。
王族も強く言えなかったのは、トビアスが浮気をしていたことが原因だった。
「本来なら明日にでも貴方を帝国に行かせたいけど…そうはいかないみたいですし」
クスっと笑みを浮かべる母に何も言う気は無い。
ここで泣いて縋っても無駄だと解っているし、ユーフェミアが王太子妃になれるのが嬉しくて仕方ないようだった。
「国の為妹の為に死ねるのだから光栄に思いなさい」
「これぐらいしか役に立たないのだからな」
もう二度と会えなくなる娘に対してあまりにも酷い言葉を浴びせられ。
三日後、誰にも見送られることなくお粗末な馬車で隣国に向かうことになった。
「結局一人だったわね」
最後に見た邸になんの未練もない。
この家を出て他国に行く方がいいかも知れない。
覚悟を決めたエリーゼは気持ちを切り替え馬車に乗り込む。
(どうせこれ以上酷くならないわ)
敵国に妹の身代わりとして高齢の公爵に嫁ぐ。
しかも側妃として嫁ぐのならば祖国では笑いものにされるだろうが二度と帰るつもりはない。
(そうよ、今までだって耐えて来たんだから)
日陰でひっそりと生きるのもいいかもしれない。
愛妾として召し抱えられるわけでもないし、向こうは義務感として迎えるならば問題ない。
「悪い話じゃないわよね…」
辛い王妃教育から解放され、仕事も満足にできないトビアスに代わって毎日のように激務をこなすこともなく。
両親に罵倒を浴びせられるのに比べればずっといい。
「うん、そうよ」
悪い方に考えるのではなく前向きに考えながら馬車から景色を眺めていた。
「出来れば領地に犬がいたらいいわね」
早くも祖国の事はきれいさっぱり忘れようとしていたエリーゼだったが、彼女の不幸はまだまだ続いてることを知らなかった。
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