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噂とは出回るのが恐ろしい程に早い。
他人の不幸は蜜の味とはよく言ったもので良い噂よりも悪い噂の方が出回るのが早い。


私の故郷が焼かれてしまった時も第三者が面白おかしく騒ぎ手てていた。
今回も下賜される妃を噂して楽しむ悪趣味な輩がいる。


「ねぇ聞きまして」

「ええ、他国に妃が下賜されるそうですわ…なんて事かしら」

「王族ならまだしも相手は聖騎士とは言えど平民ではありませんか」

「このような屈辱ありませんわ」


王家の姫君やそれにつらなる令嬢が下賜される場合はある程度の身分が絶対条件だったけど今回は領土とお金を出し渋った陛下が妃を一人下賜するとしたが、それ以上は何も出さないということだ。

下賜するなら相応の準備をするのだが、身一つでというのはあまりにも酷い。

「誰が下賜されますの?」

「聖女様はありえませんわ。だってあの方はねぇ?」

「王妃となる方を下賜なんて…ねぇ?」


それだけ赤字だった。
なのに節約をすることなく贅沢ばかりしている。

最近では騎士団も予算を削られているのに、貴族達の贅沢ぶりは変わらない。
戦争時もそうだけど戦後の後始末に駆り出される騎士団や焼け野原となった領地には救援、救助が必要なのを理化しているのか怪しいのだから。




私は令嬢達のおしゃべりを聞きながらこの場をすぐに立ち去りたかった。

だけど周りが許してくれなかった。


「この戦争が終わればエルバート殿下は国王となられるでしょうしね」

「ええ、未だに妃候補はいますが正式な妃はね?」

「そうなれば不要な妃を切り捨てるべきではありませんか?いつまでたっても妃の座にしがみつくなど愚かですわ」


視線の先は私に向けらられている。
正式なは発表無いけれど、売られるのは誰かなんて明白だ。



国王陛下はご自分の花を手放すことはない。
聖女であるアラグネ妃は正式な正妃に迎えることになれば私の存在が邪魔だわ。



もしただの側妃だったなら問題ないけど。
亡国と言えど私は王女だったのだから扱いが面倒だったか、もしくはより利益を得る方法で降嫁したかったのだろう。


財政難の為に差し出されるなんて思わなかったけど。



「お相手は敵将も恐れる程の毒薔薇の騎士だそうで」

「人の身ながら魔物すら触れれば骨まで溶かすとか」

「まぁ、恐ろしい。建前だけで妃をあてがうというなら…ねぇ」


それは死ねということと同じだ。
私を出家させないというのは最初から殿下は私を国の為に差し出し殺すため。


昨日今日で決まったわけではない。
最初からそのつもりだったのかと思うと私は涙も流れない。


「やはりあの方は私の為と言いながら自分の為だったのね」


悲しいのは愛されていなかったからではない。
ずっと冷めきった関係だったから。


涙が流れそうになるのは…


『エリーゼ、私と一緒にこの国で民も貴族も飢えることのないようにしよう』


『はい…』


『私は皆が幸福になれる王になりたい』



幼かったあの方がここまで変わってしまったことだ。
国の為に嫁いでくれと。


一言でもそういってくれれば私は笑顔で答えただろう。


誠意を持ってくれていたのなら私は――。


なのにそれ程に憎まれたのかと思うと悲しかった。


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