寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ

文字の大きさ
上 下
6 / 133

しおりを挟む


この国に私の居場所はない。


泣きたくない。
誰にも涙を見せたくないのだから。


足元を見ないで走っていた私はつまずきこけてしまう。


「やだ…なんてみっともない」

「歩き方も忘れたのかしら」

「一応妃なのに…何所までも無様なの」

「本当に役立たずな妃だな」


私への悪意。
ずっと耐えて来たから平気。


そう、こんなことで傷ついたらりしない。


誰も助けてくれないのだから。


視線が歪みそうになる。
絶対に泣くものかと思った頭にマントを被せられる。


「悪趣味な」

低く良く通る声だった。
微かに薔薇の香りがした私は視界が見えなかった。


マントで前が見えなかったのだ。


「ここでは妃をよってたかって虐めるのか。随分な趣味じゃねぇか」

「不敬だぞ」

「俺は事実を言っただけだ。何ださっきか妃をしかも相手は王太子妃じゃねぇか」


悪口と殺意が一瞬で止まった。

いや、止まったんじゃない。
部屋の中の悪い気が遮断された?


「これは氷の魔力?」

「相変わらずいい目をしてるな姫さん」

姫さん?
かなりフランクな態度だった。

「いでぇ!」

その直後にすごい音がした。

「氷の金棒…」

「おまっ!それで殴るか!いてぇだろう」


普通痛いだけで終わらない。
なのに平然と言ってのけるなんてすごいわ。

「あっ…あの、こちらをお使いください」

「あ?汚れるぞ」

「お気になさらず」

応急処置用のハンカチだ。
冷やしたハンカチを持ち歩いておいて良かった。


「つーかよ。アンタ王太子妃なのに、アナグレス王国は格下の貴族が王族を罵倒しても許されるのか?世も末だな」

「おい、マスクミリアン。いい加減に」

「はぁー…聖騎士の恥だ。頭が痛いな」


聖騎士って…


「皆さまはクラリス聖教国の方でございますか」

「ああ、一応な」


よく見ると聖騎士の紋章が見えた。
どうしてすぐに気づかなかったのか、なんという失態を。


「ご無礼をお許しください」

「いや、どうか頭を」

「そうです。私達は貴女に頭を下げていただくような」


二人は私に困った表情をされるのだけど。

「おいおい姫さん、固くなるなよ。別に俺は気にしねぇぜ?まぁ助けるならも少し胸がでかい姉ちゃんがいいけどよ」


一人かなり毛色の違う人がいる。

言うまでもなく傍にいる二人は殺意を飛ばした。

「そうかマクシミリアン」

「そんなに死にたいか。そうかそうか。猊下には不幸な事故で死んだと告げよう」

「そうだな。騎士の風上にも置けぬ男が」

そして恐ろしい表情で戦闘態勢になる二人に真っ青になる。

でも彼らのおかげで私の心は救われた。

相手方の騎士は噂では恐ろしい方と聞くけど、クラリス聖教皇国の聖騎士の方なのだから。

人の血が通ってないはずはない。
万一心を通わせることができないとしてもせめてお邪魔にならないようにしよう。

まだ見ぬ騎士様に少しの希望を込めることができたのだ。




しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

妹がいらないと言った婚約者は最高でした

朝山みどり
恋愛
わたしは、侯爵家の長女。跡取りとして学院にも行かず、執務をやって来た。婿に来る王子殿下も好きなのは妹。両親も気楽に遊んでいる妹が大事だ。 息詰まる毎日だった。そんなある日、思いがけない事が起こった。 わたしはそれを利用した。大事にしたい人も見つけた。わたしは幸せになる為に精一杯の事をする。

他の人を好きになったあなたを、私は愛することができません

天宮有
恋愛
 公爵令嬢の私シーラの婚約者レヴォク第二王子が、伯爵令嬢ソフィーを好きになった。    第三王子ゼロアから聞いていたけど、私はレヴォクを信じてしまった。  その結果レヴォクに協力した国王に冤罪をかけられて、私は婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。  追放された私は他国に行き、数日後ゼロアと再会する。  ゼロアは私を追放した国王を嫌い、国を捨てたようだ。  私はゼロアと新しい生活を送って――元婚約者レヴォクは、後悔することとなる。

いつまでも甘くないから

朝山みどり
恋愛
エリザベスは王宮で働く文官だ。ある日侯爵位を持つ上司から甥を紹介される。 結婚を前提として紹介であることは明白だった。 しかし、指輪を注文しようと街を歩いている時に友人と出会った。お茶を一緒に誘う友人、自慢しちゃえと思い了承したエリザベス。 この日から彼の様子が変わった。真相に気づいたエリザベスは穏やかに微笑んで二人を祝福する。 目を輝かせて喜んだ二人だったが、エリザベスの次の言葉を聞いた時・・・ 二人は正反対の反応をした。

一年で死ぬなら

朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。 理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。 そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。 そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。 一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・

王子の婚約者を辞めると人生楽になりました!

朝山みどり
恋愛
わたくし、ミランダ・スチュワートは、王子の婚約者として幼いときから、教育を受けていた。わたくしは殿下の事が大好きで将来この方を支えていくのだと努力、努力の日々だった。 やがてわたくしは学院に入学する年になった。二つ年上の殿下は学院の楽しさを語ってくれていたので、わたくしは胸をはずませて学院に入った。登校初日、馬車を降りると殿下がいた。 迎えに来て下さったと喜んだのだが・・・

勝手に召喚して勝手に期待して勝手に捨てたじゃないの。勝手に出て行くわ!

朝山みどり
恋愛
大富豪に生まれたマリカは愛情以外すべて持っていた。そして愛していた結婚相手に裏切られ復讐を始めるが、聖女として召喚された。 怯え警戒していた彼女の心を国王が解きほぐす。共に戦場へ向かうが王宮に反乱が起きたと国王は城に戻る。 マリカはこの機会に敵国の王と面会し、相手の負けで戦争を終わらせる確約を得る。 だが、その功績は王と貴族に奪われる。それどころか、マリカは役立たずと言われるようになる。王はマリカを庇うが貴族の力は強い。やがて王の心は別の女性に移る・・・

今世は好きにできるんだ

朝山みどり
恋愛
誇り高く慈悲深い、公爵令嬢ルイーズ。だが気が付くと粗末な寝台に横たわっているのに気がついた。 鉄の意志で声を押さえ、状況・・・・状況・・・・確か藤棚の下でお茶会・・・・ポットが割れて・・・侍女がその欠片で・・・思わず切られた首を押さえたが・・・・首にさわった手ががさがさ!!!? やがて自分が伯爵家の先妻の娘だと理解した。後妻と義姉にいびられている、いくじなしで魔力なしの役立たずだと・・・・ なるほど・・・今回は遠慮なく敵をいびっていいんですわ。ましてこの境遇やりたい放題って事!! ルイーズは微笑んだ。

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

処理中です...