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第十章 黎明
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「奕晨はどうしたいの?」
「どうしたいって?」
「私を差し出して、銀蓮と領土…ッ」
奕晨は私に最後まで言わせなかった。唇が私の口を塞いだからだ。苛立っているようだった。
「どうしたいかって?そなたが後宮から逃げることが2度と無いように両の足を切り落としたいし、そしたら足を失ったそなたが絶望して毒など煽らないように両の手も切り落とした方がいいだろうな。そなたの目の動きであの男を想っているのが分かるから一層潰してしまいたいし、そんな事を宣う舌なら切り落としてしまいたい」
私の言葉が奕晨を深く傷つけていることだけは分かった。
「雲泪を守るためなら、この国が滅びたって構わない。ただ、母のように死ぬぐらいなら…」
一旦言葉を切り、目を逸らして続けた。
「愛する男がいる草原に返してやりたいと思っただけだ」
私は奕晨を抱きしめたかった。彼を腕を伸ばしたが、振り払われた。奕晨が私を見上げる。
「後宮に閉じ込められる方が楽か?堯舜の為などと言い訳をするなよ。子をひとり育てる度量は私にもあるし、きっと我が兄にもある。心配ならお前ひとりを行かせてやってもいい」
奕晨の提案は多分そのままの意味で、私は今までの自分の狡さを思い知らされていた。
「最初のように龔鴑に拐われて仕方ないという物語が必要だったか?雲泪、我が兄が大軍を率いて、そなたを取り戻すことで愛を確かめたいか?流石に我が軍も後宮までは来させぬから叶わぬぞ」
泣いて許しを乞うているわけではないのに、ポロポロと涙は溢れて止まらない。
「お前を泣かせてばかりだ。幸せにしたいのに」
奕晨は絹の袖で私の涙を拭う。
「そなたは衣服や宝飾もねだらない。ここに戻ってきて聞いてきたのは馬の事だけだ」
「あれは、黒曜に乗りたかったから…」
「そう、後宮では馬にも自由に乗れない」
悲しそうに微笑む奕晨の綺麗な顔があった…。胸が締め付けられるように痛い。
「そなたは馬に乗り、他の男が贈った宝石を身につけて帰って来たのだった。我が兄がどれほどそなたを気をかけているか首飾りひとつ見ればわかるよ。朕もそなたに勝手に贈れば身につけてくれるかな」
「違うの…あれは…」
「そう、自らそなたが欲する訳がない。贈った宮女の服すら市井ですぐに売り払うぐらいだ。路銀にでも変えるつもりだったのだろう。宝飾品は全てとってある。小青に言わずとも取り出せる。そこの棚にあるから淋しくなったら眺めるといい」
奕晨はただただ無音で涙だけ流し続ける私を見て、端麗な顔を歪めた。
立ち上がると棚の引き出しを開け、奕世の元から持ち出した宝石を持ってきて高床に並べた。
「遠慮しているのも可哀想だ。愛を存分に眺めるがいい。龔鴑はもっと粗野な生き物かと思っていたが、我が兄は良い趣味をしている。この石はそなたの瞳の色だ、分かるよ。朕もそなたに贈るならこの石を選んだだろうから」
口調は穏やかで声色優しいのに、心臓を抉りとるような言葉が次々と形の良い唇から、並びの良い歯列の奥から、艶やかで湿った舌から繰り出される。
「奕晨…もう、やめて…」
力無く懇願する。
「もうダメだな。そなたを泣かせてしまう言葉しか出てこない。朕がいては、貴妃の安息にはならないな。今夜は牡丹坊に泊まる」
追い縋ろうとする私を止めて奕晨は言った。
「大丈夫だ。雲泪を裏切ったりはしない。それがどれほど辛いか良く知っているからね」
「どうしたいって?」
「私を差し出して、銀蓮と領土…ッ」
奕晨は私に最後まで言わせなかった。唇が私の口を塞いだからだ。苛立っているようだった。
「どうしたいかって?そなたが後宮から逃げることが2度と無いように両の足を切り落としたいし、そしたら足を失ったそなたが絶望して毒など煽らないように両の手も切り落とした方がいいだろうな。そなたの目の動きであの男を想っているのが分かるから一層潰してしまいたいし、そんな事を宣う舌なら切り落としてしまいたい」
私の言葉が奕晨を深く傷つけていることだけは分かった。
「雲泪を守るためなら、この国が滅びたって構わない。ただ、母のように死ぬぐらいなら…」
一旦言葉を切り、目を逸らして続けた。
「愛する男がいる草原に返してやりたいと思っただけだ」
私は奕晨を抱きしめたかった。彼を腕を伸ばしたが、振り払われた。奕晨が私を見上げる。
「後宮に閉じ込められる方が楽か?堯舜の為などと言い訳をするなよ。子をひとり育てる度量は私にもあるし、きっと我が兄にもある。心配ならお前ひとりを行かせてやってもいい」
奕晨の提案は多分そのままの意味で、私は今までの自分の狡さを思い知らされていた。
「最初のように龔鴑に拐われて仕方ないという物語が必要だったか?雲泪、我が兄が大軍を率いて、そなたを取り戻すことで愛を確かめたいか?流石に我が軍も後宮までは来させぬから叶わぬぞ」
泣いて許しを乞うているわけではないのに、ポロポロと涙は溢れて止まらない。
「お前を泣かせてばかりだ。幸せにしたいのに」
奕晨は絹の袖で私の涙を拭う。
「そなたは衣服や宝飾もねだらない。ここに戻ってきて聞いてきたのは馬の事だけだ」
「あれは、黒曜に乗りたかったから…」
「そう、後宮では馬にも自由に乗れない」
悲しそうに微笑む奕晨の綺麗な顔があった…。胸が締め付けられるように痛い。
「そなたは馬に乗り、他の男が贈った宝石を身につけて帰って来たのだった。我が兄がどれほどそなたを気をかけているか首飾りひとつ見ればわかるよ。朕もそなたに勝手に贈れば身につけてくれるかな」
「違うの…あれは…」
「そう、自らそなたが欲する訳がない。贈った宮女の服すら市井ですぐに売り払うぐらいだ。路銀にでも変えるつもりだったのだろう。宝飾品は全てとってある。小青に言わずとも取り出せる。そこの棚にあるから淋しくなったら眺めるといい」
奕晨はただただ無音で涙だけ流し続ける私を見て、端麗な顔を歪めた。
立ち上がると棚の引き出しを開け、奕世の元から持ち出した宝石を持ってきて高床に並べた。
「遠慮しているのも可哀想だ。愛を存分に眺めるがいい。龔鴑はもっと粗野な生き物かと思っていたが、我が兄は良い趣味をしている。この石はそなたの瞳の色だ、分かるよ。朕もそなたに贈るならこの石を選んだだろうから」
口調は穏やかで声色優しいのに、心臓を抉りとるような言葉が次々と形の良い唇から、並びの良い歯列の奥から、艶やかで湿った舌から繰り出される。
「奕晨…もう、やめて…」
力無く懇願する。
「もうダメだな。そなたを泣かせてしまう言葉しか出てこない。朕がいては、貴妃の安息にはならないな。今夜は牡丹坊に泊まる」
追い縋ろうとする私を止めて奕晨は言った。
「大丈夫だ。雲泪を裏切ったりはしない。それがどれほど辛いか良く知っているからね」
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