後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり

文字の大きさ
上 下
38 / 41
第十章 黎明

しおりを挟む
高床に寝転がる。心が読まれていると思うと、ビクビクしてしまう。余計な事を考えないようにしなければならない、例えば奕世イースのこととか。私の考えていた事が筒抜けとなっていたのなら、と、過去の事を思い出そうとする。嘘をついていなくても、何度も脳裏に浮かべていた。それらもすべて読まれていたのだろうか。

宮女に寝巻きの長衣を纏わされた陛下は、ゆっくりとこちらへ歩いてきた。

「警戒してるね、雲泪ユンレイ
固まって緊張をしている私を見て、声をかけてくる。私は心頭滅却を目指している。
「大丈夫だ、心が読めるわけじゃない」
「でも、今だって…っ」
見透かされているようで、微笑む陛下に畏怖を感じる。悲しそうな目で彼は続けた。
「一言一句心が読めているわけじゃない、大体何を考えてるかが分かるだけ。それに雲泪ユンレイは正直者で表情が分かりやすいから」
奕晨イーチェンも床へ入ってくる。

「怖い?」
私の身体に甘えるようにひっついてくる。陛下は背後から私を抱きしめて、うなじの匂いをかいでいる。
「怖がってる。小さい頃からなんだ。だから生き残れた」

私は振り返って奕晨イーチェンを見る。子供の時の話をしてくれるのは珍しい。
「これは妖術なんかじゃないよ。ただ相手を観察してるだけ。その時の反応や声色、目の位置、身体の反応で無意識に想像して判断してるだけ」
撫でてくる手はいつものように優しい。
「特にそなたのことは好きだから、知りたくない事を沢山読み取れてしまった。母の時と同じようにね」

奕晨イーチェンのことがもっと知りたい。純粋にそう思った。
「昔、母が代わりに毒を飲んだ話をしたね。あれは重要な部分がぬけている。母は仕掛けられた毒を毒とわかっていながら、自らそれを飲んだのだ」
「…なぜ」
「父に蹂躙され、後宮に閉じ込められる日々に耐えられず、あの草原に帰りたかったかもしれない」
私は奕世イースとかけた青空の下の果てない草原を思い出していた。
雲泪ユンレイ貴妃グイフェイになりたくなかったのと同じ。朕も皇帝になりたかったわけじゃない。生き残る方を選び続けたら最後は玉座しか空いていなかっただけだ」

奕晨イーチェンは自虐的に笑った。泣いているようにもみえた。

銀蓮インリェン小龍シャオロンを幸せに出来なかった。皇帝だというのに、この庭に咲く花ひとつ、自由にすることも儘ならぬ。」
「私も銀蓮インリェンを救えなかった」
銀蓮インリェンとの交換を持ちかけてきたそうだ」

初耳だった。

「子供も馬もいらぬそうだ。銀蓮インリェンとそなたを交換してほしいらしい。占領している北峰ベイフォンも解放するそうだ」
北峰ベイフォンを占領しているの?」
「このままだと蔡北ツァイベイも落ちるだろう」

その事実は騎馬民族の圧倒的な機動力の凄まじさを思わせた。
「我が父は、20年前雲峰ユンフォンと我が母の交換に応じなかった。そのせいでそなたの母も銀蓮インリェンの母も故郷を失った。母は兄や龔鴑ゴンヌの元へ帰りたかったろうに、母は後宮の毒で死に結局父は母を手に入れられなかった」
なぜ、そんな話を始めたのか、正直分からなかった。ただ、もしかしたらという予感があった。

「陛下は私を引き渡すの?」
「ああ、そなたの幸せがあちらにあるなら」

沈黙が部屋を包む。

「沈黙は是だろう」
奕晨イーチェンの射抜くような眼差しが私を貫いていた。

「我が兄がそなたを愛しているのは誠らしいな」
「そんなわけないわ、だって…」
言いかけて私は失言に気がつく。
「誠が否かで、人生に影響が及ぶなら、雲泪ユンレイは彼を愛しているということだ」

皇帝陛下に嘘がつけない。
それは呪いのようなものだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ
ファンタジー
【異世界に召喚されましたが、間違いだったようです】 ノベルアッププラス小説大賞一次選考通過作品です ※自筆挿絵要注意⭐ 表紙はhake様に頂いたファンアートです (Twitter)https://mobile.twitter.com/hake_choco 異世界召喚などというファンタジーな経験しました。 でも、間違いだったようです。 それならさっさと帰してくれればいいのに、聖女じゃないから神殿に置いておけないって放り出されました。 誘拐同然に呼びつけておいてなんて言いぐさなの!? あまりのひどい仕打ち! 私はどうしたらいいの……!?

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

炎華繚乱 ~偽妃は後宮に咲く~

悠井すみれ
キャラ文芸
昊耀国は、天より賜った《力》を持つ者たちが統べる国。後宮である天遊林では名家から選りすぐった姫たちが競い合い、皇子に選ばれるのを待っている。 強い《遠見》の力を持つ朱華は、とある家の姫の身代わりとして天遊林に入る。そしてめでたく第四皇子・炎俊の妃に選ばれるが、皇子は彼女が偽物だと見抜いていた。しかし炎俊は咎めることなく、自身の秘密を打ち明けてきた。「皇子」を名乗って帝位を狙う「彼」は、実は「女」なのだと。 お互いに秘密を握り合う仮初の「夫婦」は、次第に信頼を深めながら陰謀渦巻く後宮を生き抜いていく。 表紙は同人誌表紙メーカーで作成しました。 第6回キャラ文芸大賞応募作品です。

後宮にて、あなたを想う

じじ
キャラ文芸
真国の皇后として後宮に迎え入れられた蔡怜。美しく優しげな容姿と穏やかな物言いで、一見人当たりよく見える彼女だが、実は後宮なんて面倒なところに来たくなかった、という邪魔くさがり屋。 家柄のせいでら渋々嫁がざるを得なかった蔡怜が少しでも、自分の生活を穏やかに暮らすため、嫌々ながらも後宮のトラブルを解決します!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

処理中です...