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第十章 黎明
変貌
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奕晨が知らない人みたいだ。私が傷つけたから、変わってしまったのかもしれないと最初仮定した。でも、それとは違う、異質さを感じた。私は彼の何も知らないと思い知らされた。絶望に近い。何を考えているか分からないし、泥沼に足をとられたかのように底の見えない不気味さがある。奕晨は私に優しく私を愛してくれて、全てを受け入れてくれて守ってくれているのに…何かを見透かされているようで怖いのは、私に非があるからかもしれない。
私が脅されたからではなく奕世に惹かれて、彼に嫁いだ事や、堯舜を奕世の子と言ったこと。逃げ出した理由、全て見透かされている気がする。
奕晨に嘘を吐けないのは、出会った時からずっとだったが、今もそれは変わりなかった。嘘が出てこないのだ。出逢ったばかりの頃に陛下に聞いてみたことがある。
皇帝陛下に嘘を吐きますなんて公言する人は勿論いないから、陛下は「そうかもね?分からない」と答えた。ただ、敵対する相手であっても実際に会って話をすれば、味方になってくれるのだと不思議なことを言った。その時はただの不思議な話だったが、奕晨には人を惹きつけ、尽くさせてしまう不思議な能力があるのは確かだと思う。私が宦官として紫琴宮に出入りすることとなり、それを体感することになった。
やはり誰も彼の前で嘘をつけないのだ。そして望むに関わらず、彼の良きに計らうことを無意識に目指している。皇帝陛下だからではない。彼を皇帝にした何かであることは間違いない。血筋によるのか、彼自身の器によるのか分からない。皇帝が竜の子孫と言われ人間とは違うとされる特別な力かもしれないとすら思った。
「今日はずっと一緒にいられてよかった」
月華宮で湯浴みをしながら、奕晨は私に微笑みかける。濡れた髪は艶かしく、唇は湿っている。
「最初からこうすれば良かった」
奕晨の瞳が月の光を反射して爛々と輝いていた。
「もう雲泪を片時も離したりはしない。身体もだし、心もだ。誰にも渡さない」
湯浴みしながら、フルーツの盆に手を伸ばす。葡萄を一粒ちぎる。口に含んで噛み、私に口移しで食べさせてきた。
奕晨は私が他の者と会話することを嫌がった。仕方ない。お付きの宦官のふりとはいえど、会話の相手が男性だからだ。ただ、皇帝陛下が片眉をあげるだけで、相手は察して跪く。皇帝が宦官贔屓なことは珍しくない。美しく若い宦官を好んで侍らせる時代もあったぐらいだ。私がその用途であるという目で周りは見たし、その方が都合が良いから私たちは聞かれもしないが、否定もしない。何しろ、後宮へのお通りが雲貴妃を除いては全くない陛下なのだ。
噂が広がったのか、各家から見目麗しい若者選抜され、陛下に紹介しようとする文官や武官が増えたのは面白かった。
「みな、朕に取り入ろうとする。何度も逃げる鳥は雲泪ぐらいだ」
陛下から鳥と聞いて、私と銀蓮が最後に送った手紙は届いたのだろうか。ふと思った。
「ああ、手紙の話を忘れていた。勿論受け取ったよ」
背筋に冷たいものが落ちた気がした。
「雲泪、なんて顔してるの」
陛下が愉快そうに笑う声だけ、月華宮にこだましていた。
私が脅されたからではなく奕世に惹かれて、彼に嫁いだ事や、堯舜を奕世の子と言ったこと。逃げ出した理由、全て見透かされている気がする。
奕晨に嘘を吐けないのは、出会った時からずっとだったが、今もそれは変わりなかった。嘘が出てこないのだ。出逢ったばかりの頃に陛下に聞いてみたことがある。
皇帝陛下に嘘を吐きますなんて公言する人は勿論いないから、陛下は「そうかもね?分からない」と答えた。ただ、敵対する相手であっても実際に会って話をすれば、味方になってくれるのだと不思議なことを言った。その時はただの不思議な話だったが、奕晨には人を惹きつけ、尽くさせてしまう不思議な能力があるのは確かだと思う。私が宦官として紫琴宮に出入りすることとなり、それを体感することになった。
やはり誰も彼の前で嘘をつけないのだ。そして望むに関わらず、彼の良きに計らうことを無意識に目指している。皇帝陛下だからではない。彼を皇帝にした何かであることは間違いない。血筋によるのか、彼自身の器によるのか分からない。皇帝が竜の子孫と言われ人間とは違うとされる特別な力かもしれないとすら思った。
「今日はずっと一緒にいられてよかった」
月華宮で湯浴みをしながら、奕晨は私に微笑みかける。濡れた髪は艶かしく、唇は湿っている。
「最初からこうすれば良かった」
奕晨の瞳が月の光を反射して爛々と輝いていた。
「もう雲泪を片時も離したりはしない。身体もだし、心もだ。誰にも渡さない」
湯浴みしながら、フルーツの盆に手を伸ばす。葡萄を一粒ちぎる。口に含んで噛み、私に口移しで食べさせてきた。
奕晨は私が他の者と会話することを嫌がった。仕方ない。お付きの宦官のふりとはいえど、会話の相手が男性だからだ。ただ、皇帝陛下が片眉をあげるだけで、相手は察して跪く。皇帝が宦官贔屓なことは珍しくない。美しく若い宦官を好んで侍らせる時代もあったぐらいだ。私がその用途であるという目で周りは見たし、その方が都合が良いから私たちは聞かれもしないが、否定もしない。何しろ、後宮へのお通りが雲貴妃を除いては全くない陛下なのだ。
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「ああ、手紙の話を忘れていた。勿論受け取ったよ」
背筋に冷たいものが落ちた気がした。
「雲泪、なんて顔してるの」
陛下が愉快そうに笑う声だけ、月華宮にこだましていた。
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