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第九章 出戻り貴妃は皇帝陛下に溺愛されます
躊躇
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皇帝陛下と再会するつもりで、逃げ出して来たわけではなかった。最初は脅されたけれど、その後は奕世を愛し自ら望んで側に身を寄せていたのだから、奕晨に合わせる顔など無い。
けれども、陛下は我が子堯舜を抱き上げて優しい目で見ている。私が奕世に求め、そして最後まで得られなかったものだった。
陛下は私に笑いかけて聞いた。
「朕の子は名をなんという?」
「堯舜といいます」
「お前が名付けたのか」
陛下の問いに私は頷いた。陛下はつるんとした堯舜額を撫でる。
「では、姚彤堯舜。この国をいずれ継ぐのだよ」
部屋にいる誰もが跪き、陛下の言葉を受けた。
「さあ、雲泪」
陛下は私の腕に、堯舜を戻す。そして、立たせる。
「帰ろうではないか」
再び奪われるわけにはいかない、と奕晨は出発を急いだ。片時も離れたくないと、同じ輿にのる。輿に乗り込むと、奕晨は私に口づけをした。
私は不安にかられた。陛下は奕世が異父兄と知らないから、堯舜が自分に似てると感じたかもしれない。私は騙していることにならないだろうか?そして露呈した時、陛下も奕世のように私から離れていくかもしれない。
陛下は心配そうに尋ねた。
「どうした?不安があったら話せ。私は今度こそ、そなたを離したりはしないよ」
言葉に詰まり、顔を上げて彼の目を見る。いつか寵をまた失う不安にかられるくらいなら、今失った方がいい。彼に事実を話そう。やはり、皇帝陛下には嘘がつけないのだ。初めてあった時から、奕晨には全てを話してしまう。
「龔鴑の王、奕世は陛下の兄です。父は違えど、同じお母さまから生まれたの」
陛下は横に座り、私を抱きしめている。堯舜は静かに眠っている。沈黙が輿を包む。
「そうか。母はよく後宮の窓から北を眺めて時折涙を流していた。きっと兄を想っていたのだな」
堯舜をおいて、異国に嫁がされたら、私は耐えられる気がしなかった。再び沈黙を破ったのは奕晨の方だ。
「兄はそなたを愛したか」
後ろから私を抱きしめながら、奕晨は聞く。私は正直に答える。
「奕世は…私を愛しました」
「そなたを愛さぬ男など、この世にはおらぬ」
皇帝陛下は、私が思っているよりも、ずっと深く私を愛してくれている。
「堯舜は私の子で、そなたはここにいる。2度と離さぬ。それが全ての答えなのだよ」
そして、輿は一緒に過ごすべき場所へ戻っていくのだった。
けれども、陛下は我が子堯舜を抱き上げて優しい目で見ている。私が奕世に求め、そして最後まで得られなかったものだった。
陛下は私に笑いかけて聞いた。
「朕の子は名をなんという?」
「堯舜といいます」
「お前が名付けたのか」
陛下の問いに私は頷いた。陛下はつるんとした堯舜額を撫でる。
「では、姚彤堯舜。この国をいずれ継ぐのだよ」
部屋にいる誰もが跪き、陛下の言葉を受けた。
「さあ、雲泪」
陛下は私の腕に、堯舜を戻す。そして、立たせる。
「帰ろうではないか」
再び奪われるわけにはいかない、と奕晨は出発を急いだ。片時も離れたくないと、同じ輿にのる。輿に乗り込むと、奕晨は私に口づけをした。
私は不安にかられた。陛下は奕世が異父兄と知らないから、堯舜が自分に似てると感じたかもしれない。私は騙していることにならないだろうか?そして露呈した時、陛下も奕世のように私から離れていくかもしれない。
陛下は心配そうに尋ねた。
「どうした?不安があったら話せ。私は今度こそ、そなたを離したりはしないよ」
言葉に詰まり、顔を上げて彼の目を見る。いつか寵をまた失う不安にかられるくらいなら、今失った方がいい。彼に事実を話そう。やはり、皇帝陛下には嘘がつけないのだ。初めてあった時から、奕晨には全てを話してしまう。
「龔鴑の王、奕世は陛下の兄です。父は違えど、同じお母さまから生まれたの」
陛下は横に座り、私を抱きしめている。堯舜は静かに眠っている。沈黙が輿を包む。
「そうか。母はよく後宮の窓から北を眺めて時折涙を流していた。きっと兄を想っていたのだな」
堯舜をおいて、異国に嫁がされたら、私は耐えられる気がしなかった。再び沈黙を破ったのは奕晨の方だ。
「兄はそなたを愛したか」
後ろから私を抱きしめながら、奕晨は聞く。私は正直に答える。
「奕世は…私を愛しました」
「そなたを愛さぬ男など、この世にはおらぬ」
皇帝陛下は、私が思っているよりも、ずっと深く私を愛してくれている。
「堯舜は私の子で、そなたはここにいる。2度と離さぬ。それが全ての答えなのだよ」
そして、輿は一緒に過ごすべき場所へ戻っていくのだった。
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