67 / 106
第十八話 聖女の動向③
しおりを挟む
私はイベントの詳細を思い返しつつ、ボイドの言葉に耳を傾ける。
「聖女の再来となれば、その存在を悪用しようとする者も必ず出てくる。
そう考えたランド男爵は、用心のため領内で不穏な動きをする者がいないか徹底的に調べてみたらしい。
すると、『影牙』の一員が村外れに潜んでいたことを突き止めたんだ」
「その傭兵はミリシ……ええと、神聖魔法を使う少女を狙っていたんですか?」
「それが、あと一歩のところで取り逃がしてしまって、目的が何だったのかはわからずじまいらしい。
ただ、その傭兵が寝ぐらにしていた山小屋に、王立学園の見取り図が残されていたと言うんだ」
その言葉に私は眉をひそめる。
キュロットはまだミリシアの存在すら認知していない。つまり、学園襲撃は現時点では計画されていないはず。
(単なる偶然? でも、何か引っかかるわね)
私と同様、ボイドがううむと唸り声を上げて頭を悩ませる。
「聖女の件とは無関係だとしても、『影牙』が何か企てていたら大変だ。
学園には王太子殿下も通っておられる。またあのようなことが起きたとしたら……」
そこまで口にしたところで、ボイドはハッとした様子で口を噤んだ。しかし私はボイドが何を言わんとしていたのか見当がつく。
(ブラドが言ってた、ヒーシス王子の暗殺未遂のことね。
箝口令が敷かれたといっても、やっぱり貴族の中には事件のことを知ってる者もいるんだ)
確かに首謀者はまだ捕まっていないというし、ボイドの不安も頷ける。
ただ、学園のように人目のある場所での謀略はリスクが高く、そう簡単には――
そこまで考えたところで、ゾクリと背筋が凍った。
以前行われた、リグルの洞窟探索。ゲームとは違ってやけに魔物の数が多く、私も危うく命を落としかけた。
あの時は単に不運が重なったんだろう、むしろ魔素が多く採れてラッキー、くらいにしか思わなかったが……。
(一緒に探索に出たのヒーシスだし。あの魔物の群れが作為的なものだったとしたら……)
嫌な予感が拭えない。
無事に脱出できたとはいえ、あれは連日の縦ロール作成で魔力操作がかなり上達していた私たちが周りにいたからだ。
パーティーの能力が全員初期値だったとしたら、今頃ヒーシスは命を落としていたかもしれない。
うそ寒い思考に沈んでいると、不意にパンパンと手を叩く音が響いた。
何だろうと顔を上げれば、マーレーがにっこりと微笑んでいる。
マーレーは暗雲を振り払うような、軽快な声で告げる。
「はい、そこまでよ。あなた、物騒な話を家の中でしないでちょうだい。
ほらシエザも、そんな小難しい顔して眉間に皺を寄せないの。せっかくの美人が台無しよ」
マーレーの不満げな、しかしどこか愛嬌のある声に、その場の空気が和らいだ。
ボイドは全くだという風に一つ頷くと相好を崩す。
「ようやく家に帰ってきたというのに、つまらない土産話をしてしまったようだ。許しておくれ」
私も肩の力を抜いて大きく息を吐いた。
ここであれこれ考えても仕方ないことだ。
それに私はこの世界のことをゲーム知識として得ている。そのアドバンテージを使えば、何が起きても臨機応変に対処できるはず。
「聖女の再来となれば、その存在を悪用しようとする者も必ず出てくる。
そう考えたランド男爵は、用心のため領内で不穏な動きをする者がいないか徹底的に調べてみたらしい。
すると、『影牙』の一員が村外れに潜んでいたことを突き止めたんだ」
「その傭兵はミリシ……ええと、神聖魔法を使う少女を狙っていたんですか?」
「それが、あと一歩のところで取り逃がしてしまって、目的が何だったのかはわからずじまいらしい。
ただ、その傭兵が寝ぐらにしていた山小屋に、王立学園の見取り図が残されていたと言うんだ」
その言葉に私は眉をひそめる。
キュロットはまだミリシアの存在すら認知していない。つまり、学園襲撃は現時点では計画されていないはず。
(単なる偶然? でも、何か引っかかるわね)
私と同様、ボイドがううむと唸り声を上げて頭を悩ませる。
「聖女の件とは無関係だとしても、『影牙』が何か企てていたら大変だ。
学園には王太子殿下も通っておられる。またあのようなことが起きたとしたら……」
そこまで口にしたところで、ボイドはハッとした様子で口を噤んだ。しかし私はボイドが何を言わんとしていたのか見当がつく。
(ブラドが言ってた、ヒーシス王子の暗殺未遂のことね。
箝口令が敷かれたといっても、やっぱり貴族の中には事件のことを知ってる者もいるんだ)
確かに首謀者はまだ捕まっていないというし、ボイドの不安も頷ける。
ただ、学園のように人目のある場所での謀略はリスクが高く、そう簡単には――
そこまで考えたところで、ゾクリと背筋が凍った。
以前行われた、リグルの洞窟探索。ゲームとは違ってやけに魔物の数が多く、私も危うく命を落としかけた。
あの時は単に不運が重なったんだろう、むしろ魔素が多く採れてラッキー、くらいにしか思わなかったが……。
(一緒に探索に出たのヒーシスだし。あの魔物の群れが作為的なものだったとしたら……)
嫌な予感が拭えない。
無事に脱出できたとはいえ、あれは連日の縦ロール作成で魔力操作がかなり上達していた私たちが周りにいたからだ。
パーティーの能力が全員初期値だったとしたら、今頃ヒーシスは命を落としていたかもしれない。
うそ寒い思考に沈んでいると、不意にパンパンと手を叩く音が響いた。
何だろうと顔を上げれば、マーレーがにっこりと微笑んでいる。
マーレーは暗雲を振り払うような、軽快な声で告げる。
「はい、そこまでよ。あなた、物騒な話を家の中でしないでちょうだい。
ほらシエザも、そんな小難しい顔して眉間に皺を寄せないの。せっかくの美人が台無しよ」
マーレーの不満げな、しかしどこか愛嬌のある声に、その場の空気が和らいだ。
ボイドは全くだという風に一つ頷くと相好を崩す。
「ようやく家に帰ってきたというのに、つまらない土産話をしてしまったようだ。許しておくれ」
私も肩の力を抜いて大きく息を吐いた。
ここであれこれ考えても仕方ないことだ。
それに私はこの世界のことをゲーム知識として得ている。そのアドバンテージを使えば、何が起きても臨機応変に対処できるはず。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
40
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる