68 / 106
第十八話 聖女の動向④
しおりを挟む
「いえ。私も少し深刻に受け止めすぎました。
王立学園は警備も厳重ですし、滅多なことは起こらないでしょう」
「全くそのとおりだ。そうそう、学園といえば、学園生活にはもう慣れたかい?」
「はい。親しい友人もできましたし」
「ほほう。それは結構なことだ。とはいえ、我が家は由緒正しき伯爵家。付き合う人間もきちんと選ばなければいけないよ。
友人というのは、いったいどういった家柄の子だい?」
「特に親しいのはキュロットです。キュロット・アドバリテといって――」
その名を口にした途端、ボイドとマーレーが目を剥き、ずいっと身を乗り出してくる。
「アドバリテというと、あの侯爵家の!」
「すごい方とお友達になったじゃない! 侯爵家のご令嬢に目をかけていただいたら、我が家も安泰よ!」
「そ、そうですね。それと、さっき話に出たヒーシス殿下ともよく一緒に……」
「で、ででで殿下とお友達に!?」
「あらまあ! あらまあどうしましょ!? あなた、どうしましょ!?」
「お父様、お母様。ちょっと落ち着いてください!
あとはブラド・シュターとルフォート・サリバンとも仲良くしていますけど……」
「ああ、シュター伯爵家だね。よい友人を選んだじゃないか」
「サリバン伯爵家ね。いいお付き合いができそうね」
何かごめんなさい。順番間違えました。
王族と侯爵家の後だからすっごい薄味な感じになっちゃいました。
どっちも名家なんですけどね。
私が胸中でブラドとルフォートに詫びていると、マーレーが好奇心いっぱいに訊ねてくる。
「シエザ、学園では皆とどんなことをして過ごしているの? お母さんに教えてちょうだい」
「そうですね。ブラドとルフォートとは……」
「そっちは今度暇なときに聞くわ。王太子殿下や侯爵令嬢とは何をして過ごしているの?」
ほんとごめーん。
ブラドごめーん。ルフォートごめーん。
「ええと、そうですね。まずは授業が始まる前に、キュロットの縦ロールを巻いてあげてますね」
「まあ素敵! お母さんも学生の頃は、仲のいい友達の髪をクシで梳いたりしていたわ。
髪の色艶がいい子からお手入れの方法を教わったりして、とても優雅で充実した時間だったわね」
「クシで梳く? 優雅な時間?」
私はもはや日課となっている、縦ロールを巻く作業を思い返す。
今では大した労苦もなく縦ロールを完成させているが、最初の頃は繊細な魔力操作がうまくいかず、脳が焼き切れるような感覚を幾度となく味わった。
ようやく完成しても精神的に疲れ果て、授業中に失神したように眠り続けることもしばしば。
それは優雅とは程遠い苦行だった。
私が共感できずに煩悶としていることなどつゆ知らず、マーレーが重ねて問いかける。
「他にはどんなことをして過ごしているの? たとえばお昼休みとか」
「昼休みは、そうですね。ここ半月ほどは歌のレッスンのようなことを……」
これに反応したのはボイドだ。
ボイドは口元を緩め、懐かしそうに語る。
「それはいいことだな。お父さんはこう見えて、昔は聖歌隊に入っていてな。
仲間と賛美歌を歌うときは、まるで心が浄化されていくような感覚に満たされたものだ」
「心が浄化されていく……?」
王立学園は警備も厳重ですし、滅多なことは起こらないでしょう」
「全くそのとおりだ。そうそう、学園といえば、学園生活にはもう慣れたかい?」
「はい。親しい友人もできましたし」
「ほほう。それは結構なことだ。とはいえ、我が家は由緒正しき伯爵家。付き合う人間もきちんと選ばなければいけないよ。
友人というのは、いったいどういった家柄の子だい?」
「特に親しいのはキュロットです。キュロット・アドバリテといって――」
その名を口にした途端、ボイドとマーレーが目を剥き、ずいっと身を乗り出してくる。
「アドバリテというと、あの侯爵家の!」
「すごい方とお友達になったじゃない! 侯爵家のご令嬢に目をかけていただいたら、我が家も安泰よ!」
「そ、そうですね。それと、さっき話に出たヒーシス殿下ともよく一緒に……」
「で、ででで殿下とお友達に!?」
「あらまあ! あらまあどうしましょ!? あなた、どうしましょ!?」
「お父様、お母様。ちょっと落ち着いてください!
あとはブラド・シュターとルフォート・サリバンとも仲良くしていますけど……」
「ああ、シュター伯爵家だね。よい友人を選んだじゃないか」
「サリバン伯爵家ね。いいお付き合いができそうね」
何かごめんなさい。順番間違えました。
王族と侯爵家の後だからすっごい薄味な感じになっちゃいました。
どっちも名家なんですけどね。
私が胸中でブラドとルフォートに詫びていると、マーレーが好奇心いっぱいに訊ねてくる。
「シエザ、学園では皆とどんなことをして過ごしているの? お母さんに教えてちょうだい」
「そうですね。ブラドとルフォートとは……」
「そっちは今度暇なときに聞くわ。王太子殿下や侯爵令嬢とは何をして過ごしているの?」
ほんとごめーん。
ブラドごめーん。ルフォートごめーん。
「ええと、そうですね。まずは授業が始まる前に、キュロットの縦ロールを巻いてあげてますね」
「まあ素敵! お母さんも学生の頃は、仲のいい友達の髪をクシで梳いたりしていたわ。
髪の色艶がいい子からお手入れの方法を教わったりして、とても優雅で充実した時間だったわね」
「クシで梳く? 優雅な時間?」
私はもはや日課となっている、縦ロールを巻く作業を思い返す。
今では大した労苦もなく縦ロールを完成させているが、最初の頃は繊細な魔力操作がうまくいかず、脳が焼き切れるような感覚を幾度となく味わった。
ようやく完成しても精神的に疲れ果て、授業中に失神したように眠り続けることもしばしば。
それは優雅とは程遠い苦行だった。
私が共感できずに煩悶としていることなどつゆ知らず、マーレーが重ねて問いかける。
「他にはどんなことをして過ごしているの? たとえばお昼休みとか」
「昼休みは、そうですね。ここ半月ほどは歌のレッスンのようなことを……」
これに反応したのはボイドだ。
ボイドは口元を緩め、懐かしそうに語る。
「それはいいことだな。お父さんはこう見えて、昔は聖歌隊に入っていてな。
仲間と賛美歌を歌うときは、まるで心が浄化されていくような感覚に満たされたものだ」
「心が浄化されていく……?」
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした
黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん!
しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。
ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない!
清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!!
*R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる