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第十三話 フレイムソード①
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岩の窪みに身を伏せつつ、そっと顔を覗かせて辺りの様子を窺う。
目の前をスゥッと通り過ぎていく拳大の青い炎はダークスピリット、日本で言うところの人魂だ。
私は両目に魔力を集中させ、ダークスピリットを凝視した。するとダークスピリットを心臓として抱くように、暗く半透明な人影が浮かび上がる。
騎士の甲冑を身に着け、寄る辺なく彷徨い歩くそれは、ゲームで怨霊騎士と呼称される魔物だ。
その怨霊騎士が数名、私達の周りを行き来している。
(あぁ、やっぱりね。こいつらとエンカウントするっていったら、二層の北側だから、このまま奥に進めば一層に通じる階段があるわね)
この程度の数なら強行突破も可能かもしれないが、怨霊騎士が相手だと私の氷魔法はあまり相性が良くない。
効果的に戦うならヒロインが使う神聖魔法か、あるいは火魔法なのだが……。
私は同じ岩の窪みに身を寄せるブラドの方をちらりと振り返った。
ブラドは怨霊騎士を目の当たりにして、カタカタと歯を鳴らして震えている。
(まあ仕方ないか。一層に出没する骸骨兵の上位種だし。一年生の初の探索で相手するような魔物じゃないものね)
崩落に巻き込まれた際に魔力も消費していることだし、ここは省エネモードでいこう。
そう考えた私はブラドに提案する。
「怨霊騎士もずっとここでウロウロしてるわけじゃないでしょ。しばらく休んで、隙を見て移動しましょ」
「さ、賛成。僕は影が薄いから、敵に気付かれることもないしね。あはは」
「ふふっ、良かった。冗談言えるくらいの余裕は出てきたみたいね」
「それじゃ気配の消し方を教えるね。まずはこうしてね、膝を抱えて丸くなって座るんだ。
そして想像する。世界の片隅の石の下でダンゴムシに居候させてもらいながらひっそりと生きている自分をね」
「うふふ。これアレね。冗談じゃなくて本気で言ってるやつね」
「……あ、ダンゴムシさん。この暗くてジメジメしたとこお借りしますね。決してご迷惑はおかけしませんから、呼吸音も極力立てませんし、掃除だって何だってします。ですからこの僅かなスペースを僕に――
あの、ダンゴムシさん? 聞いてますか? ダンゴムシさ……あぁ、なんだ。ダンゴムシさん、僕の存在に気づいてないや。あはっ、あはははは」
「もう止めて! 精神おかしくなるからもう止めて!」
両耳を塞ぎ、ブンブンと頭を振った直後、けっこう大きな声を出してしまったことに気付いてハッとなった。
私は慌てて口を噤み、怨霊騎士たちの動向を注視するが、こちらに気付いた様子はない。
(えっ、これって影の薄いブラドのおかげ……なわけないか。大声出したの私だし)
恐らく怨霊騎士は魂の存在ということもあって五感が鈍いのだろう。『王立学園の聖女』でも、あの青白い炎に直接触れることでバトル開始という仕様になっていたと思う。
「ふう。とにかく助かったわ。これなら多少はお喋りしてても大丈夫そうだし、退屈はしなさそうね」
私はそう言うと、ブラドの隣に腰を下ろした。
ブラドは少し気恥ずかしげに俯き、身をよじるようにして私から距離を取る。
目の前をスゥッと通り過ぎていく拳大の青い炎はダークスピリット、日本で言うところの人魂だ。
私は両目に魔力を集中させ、ダークスピリットを凝視した。するとダークスピリットを心臓として抱くように、暗く半透明な人影が浮かび上がる。
騎士の甲冑を身に着け、寄る辺なく彷徨い歩くそれは、ゲームで怨霊騎士と呼称される魔物だ。
その怨霊騎士が数名、私達の周りを行き来している。
(あぁ、やっぱりね。こいつらとエンカウントするっていったら、二層の北側だから、このまま奥に進めば一層に通じる階段があるわね)
この程度の数なら強行突破も可能かもしれないが、怨霊騎士が相手だと私の氷魔法はあまり相性が良くない。
効果的に戦うならヒロインが使う神聖魔法か、あるいは火魔法なのだが……。
私は同じ岩の窪みに身を寄せるブラドの方をちらりと振り返った。
ブラドは怨霊騎士を目の当たりにして、カタカタと歯を鳴らして震えている。
(まあ仕方ないか。一層に出没する骸骨兵の上位種だし。一年生の初の探索で相手するような魔物じゃないものね)
崩落に巻き込まれた際に魔力も消費していることだし、ここは省エネモードでいこう。
そう考えた私はブラドに提案する。
「怨霊騎士もずっとここでウロウロしてるわけじゃないでしょ。しばらく休んで、隙を見て移動しましょ」
「さ、賛成。僕は影が薄いから、敵に気付かれることもないしね。あはは」
「ふふっ、良かった。冗談言えるくらいの余裕は出てきたみたいね」
「それじゃ気配の消し方を教えるね。まずはこうしてね、膝を抱えて丸くなって座るんだ。
そして想像する。世界の片隅の石の下でダンゴムシに居候させてもらいながらひっそりと生きている自分をね」
「うふふ。これアレね。冗談じゃなくて本気で言ってるやつね」
「……あ、ダンゴムシさん。この暗くてジメジメしたとこお借りしますね。決してご迷惑はおかけしませんから、呼吸音も極力立てませんし、掃除だって何だってします。ですからこの僅かなスペースを僕に――
あの、ダンゴムシさん? 聞いてますか? ダンゴムシさ……あぁ、なんだ。ダンゴムシさん、僕の存在に気づいてないや。あはっ、あはははは」
「もう止めて! 精神おかしくなるからもう止めて!」
両耳を塞ぎ、ブンブンと頭を振った直後、けっこう大きな声を出してしまったことに気付いてハッとなった。
私は慌てて口を噤み、怨霊騎士たちの動向を注視するが、こちらに気付いた様子はない。
(えっ、これって影の薄いブラドのおかげ……なわけないか。大声出したの私だし)
恐らく怨霊騎士は魂の存在ということもあって五感が鈍いのだろう。『王立学園の聖女』でも、あの青白い炎に直接触れることでバトル開始という仕様になっていたと思う。
「ふう。とにかく助かったわ。これなら多少はお喋りしてても大丈夫そうだし、退屈はしなさそうね」
私はそう言うと、ブラドの隣に腰を下ろした。
ブラドは少し気恥ずかしげに俯き、身をよじるようにして私から距離を取る。
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