42 / 106
第十二話 バトります①
しおりを挟む
巨大なサソリ型の魔物、スコルピオが私めがけて肉迫してきた。その巨軀に似合わぬ機動力は目を瞠るものがある。
私は即座に掌を地面につき、呪文を詠唱した。
「氷脈よ走れ、彼の者を呪縛せよ! アイスバインド!」
霜柱が毛細血管のように岩肌の上を走り、スコルピオの脚に絡みついた。それは見る間に凍りつき、スコルピオの突進を押し止める。
「ギィ! ギィィ!」
錆びついた扉のような不快な音を発しながら、スコルピオが長大な尻尾を振り上げた。
その動作を視界に捉えた私は、ゲームの記憶を手繰りながら注意を促す。
「尻尾の針には麻痺毒があるから気をつけて! 外殻は硬いけど節はナイフでも通るから!」
「オッケー、任せとけ! 疾風よ、千々に刻め! ウィンドカッター!」
無数の疾風の刃が洞窟内で吹き荒れ、スコルピオに殺到した。尻尾のみならず、巨大なハサミ、そして胴体までもが節に沿って細切れにされ、辺りに緑色の体液が飛び散る。
スコルピオの無力化を悟った私は、すぐさまキュロットの方へと視線を走らせる。彼女のもとにはアンデッドの骸骨兵の群れが迫っていた。
「アンデッド系は炎に弱いから! ブラド、火力に注意して蹴散らして!」
「た、猛き炎よ、灰に還せ! ファイアボルト!」
螺旋を描く炎が骸骨兵へと放たれるが、掲げられた盾に阻まれて霧散してしまう。ブラドはどうやら味方への延焼を気に留めて、魔力をセーブしすぎたらしい。
骸骨兵が獲物をブラドに定め、剣を構えて襲いかかった。
ブラドは「ひっ!」と悲鳴をあげて後退するが、その際に足元の岩に躓き、バランスを崩してしまう。
(やばっ!)
咄嗟に魔法を放とうと身構えるが、キュロットが私よりも迅速に動く。
「思念さえも吸い尽くせ、魂さえも喰らい尽くせ! ソウルイーター!」
キュロットの全身から半透明の黒い触手のようなものが陽炎のごとく立ち昇った。
その触手が骸骨兵の群れへと伸び、風が吹き抜けるようにひと撫でする。
と次の瞬間、骸骨兵の動きが不意に止まり、まるで積み木が倒れるように、乾いた音を立てて崩れ落ちていった。今まさにブラドに振り下ろされようとしていた剣も、持ち主と共に朽ち果て、地面に転がる。
ほっと安堵したのもつかの間。私は再び魔力を熾し、臨戦態勢でヒーシスの方を振り返った。私たちがスコルピオや骸骨兵の相手をしている間、ヒーシスはたった一人でデスワームの群れと対峙していたはず。
デスワームは牙を備えた大ミミズといった風貌で、動きこそ緩慢だが、その牙は岩盤をも噛み砕くほど強靭だ。
「殿下、デスワームとは距離をとって――」
それ以上アドバイスを続ける必要はなかった。ヒーシスの眼前で無数のデスワームの巨体が宙に浮いている。
月の化身とも見紛う優美なヒーシスは、実は凄腕の重力魔法の使い手だ。デスワームの半身に過重力を、もう半身には浮き上がるほどの無重力を付与したのだろう。相反する力によって引き裂かれるように、デスワームの身体がミチミチと不快な音を立て、真ん中からねじ切られていく。
「虫風情に遅れを取るわたしではない。だいたい、虫風情で仲間と群れるだと? ぼっちではないだと……!?」
ミチミチ……ブチッ! ブチブチッ!
(何か私怨こもってません!? 虫風情に嫉妬してません!?)
何にせよ、これで危地は乗り切れたようだ。デスワームが掘ったと思しき無数の横穴から魔物たちが湧き出て、退路を塞がれた戦闘に陥っていたのである。
私は即座に掌を地面につき、呪文を詠唱した。
「氷脈よ走れ、彼の者を呪縛せよ! アイスバインド!」
霜柱が毛細血管のように岩肌の上を走り、スコルピオの脚に絡みついた。それは見る間に凍りつき、スコルピオの突進を押し止める。
「ギィ! ギィィ!」
錆びついた扉のような不快な音を発しながら、スコルピオが長大な尻尾を振り上げた。
その動作を視界に捉えた私は、ゲームの記憶を手繰りながら注意を促す。
「尻尾の針には麻痺毒があるから気をつけて! 外殻は硬いけど節はナイフでも通るから!」
「オッケー、任せとけ! 疾風よ、千々に刻め! ウィンドカッター!」
無数の疾風の刃が洞窟内で吹き荒れ、スコルピオに殺到した。尻尾のみならず、巨大なハサミ、そして胴体までもが節に沿って細切れにされ、辺りに緑色の体液が飛び散る。
スコルピオの無力化を悟った私は、すぐさまキュロットの方へと視線を走らせる。彼女のもとにはアンデッドの骸骨兵の群れが迫っていた。
「アンデッド系は炎に弱いから! ブラド、火力に注意して蹴散らして!」
「た、猛き炎よ、灰に還せ! ファイアボルト!」
螺旋を描く炎が骸骨兵へと放たれるが、掲げられた盾に阻まれて霧散してしまう。ブラドはどうやら味方への延焼を気に留めて、魔力をセーブしすぎたらしい。
骸骨兵が獲物をブラドに定め、剣を構えて襲いかかった。
ブラドは「ひっ!」と悲鳴をあげて後退するが、その際に足元の岩に躓き、バランスを崩してしまう。
(やばっ!)
咄嗟に魔法を放とうと身構えるが、キュロットが私よりも迅速に動く。
「思念さえも吸い尽くせ、魂さえも喰らい尽くせ! ソウルイーター!」
キュロットの全身から半透明の黒い触手のようなものが陽炎のごとく立ち昇った。
その触手が骸骨兵の群れへと伸び、風が吹き抜けるようにひと撫でする。
と次の瞬間、骸骨兵の動きが不意に止まり、まるで積み木が倒れるように、乾いた音を立てて崩れ落ちていった。今まさにブラドに振り下ろされようとしていた剣も、持ち主と共に朽ち果て、地面に転がる。
ほっと安堵したのもつかの間。私は再び魔力を熾し、臨戦態勢でヒーシスの方を振り返った。私たちがスコルピオや骸骨兵の相手をしている間、ヒーシスはたった一人でデスワームの群れと対峙していたはず。
デスワームは牙を備えた大ミミズといった風貌で、動きこそ緩慢だが、その牙は岩盤をも噛み砕くほど強靭だ。
「殿下、デスワームとは距離をとって――」
それ以上アドバイスを続ける必要はなかった。ヒーシスの眼前で無数のデスワームの巨体が宙に浮いている。
月の化身とも見紛う優美なヒーシスは、実は凄腕の重力魔法の使い手だ。デスワームの半身に過重力を、もう半身には浮き上がるほどの無重力を付与したのだろう。相反する力によって引き裂かれるように、デスワームの身体がミチミチと不快な音を立て、真ん中からねじ切られていく。
「虫風情に遅れを取るわたしではない。だいたい、虫風情で仲間と群れるだと? ぼっちではないだと……!?」
ミチミチ……ブチッ! ブチブチッ!
(何か私怨こもってません!? 虫風情に嫉妬してません!?)
何にせよ、これで危地は乗り切れたようだ。デスワームが掘ったと思しき無数の横穴から魔物たちが湧き出て、退路を塞がれた戦闘に陥っていたのである。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後
有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。
だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。
それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。
王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!?
けれど、そこには……。
※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
転生したら攻略対象者の母親(王妃)でした
黒木寿々
恋愛
我儘な公爵令嬢リザベル・フォリス、7歳。弟が産まれたことで前世の記憶を思い出したけど、この世界って前世でハマっていた乙女ゲームの世界!?私の未来って物凄く性悪な王妃様じゃん!
しかもゲーム本編が始まる時点ですでに亡くなってるし・・・。
ゲームの中ではことごとく酷いことをしていたみたいだけど、私はそんなことしない!
清く正しい心で、未来の息子(攻略対象者)を愛でまくるぞ!!!
*R15は保険です。小説家になろう様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる