正しい悪役令嬢の育て方

犬野派閥

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第四話 公式が黙ってないぞ②

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 私が振り返ると、入り口のところに一人の少年の姿がある。
 清爽感のある新緑の髪に、吸い込まれそうなエメラルドグリーンの瞳。一見すれば女の子と間違えてしまいそうな、線の細い美少年である。

「ルフォート・サリバン……」

 私の口から自然と漏れ出したその名は、目の前の少年のものだ。『王立学園の聖女』において攻略対象の一人であり、宮廷魔術士団をまとめるサリバン伯爵家の令息である。

 ゲームでは前髪で目元が半ば隠れていたが、今はオールバックで優しげな瞳がはっきりと見えている。
 ルフォートは柔らかな眼差しでちらりと私を見やったあと、ブラドへと声をかけた。

「いくら人混みが苦手といっても、人酔いで医務室というのは、少し情けないな」

 ブラドが恥じ入るようにベッドに沈み込み、それを見たルフォートは、やれやれと首をすくめる。
 ブラドとルフォートは幼馴染だ。ルフォートは心優しき少年なので、恐らくブラドのお見舞いに来たのだろう。もしかすると、初対面となる私にも、心遣いのある言葉をかけてくれるかもしれない。

(ワンコ系男子の癒やしボイス聞けるかも! ルフォートの上目遣い、めっちゃカワイイんだよな!)

 そんなことを思っていると、期待通り、ルフォートは私の方へと顔を近付けてきた。

「体調は大丈夫?」

 潤んだ瞳でそう問いかけられると確信した、次の瞬間だ。ルフォートの手がスッと伸びてきた。
 額にあてられて熱でもみられるのかと思いきや、その手は私のあご先に触れ、クイッと上を向けられる。
 まるでキスでもするように、至近距離で見つめ合う状態で、ルフォートは悪戯っぽく笑った。

「おや、こんなところに病み上がりの仔猫ちゃんがいる。駄目だよハニー、無理をしては。ちょうどベッドもあることだし、君がきちんと休めるよう、添い寝してあげようか?」
「なっ……!?」

 思わず赤面したあと、私は弾かれるようにルフォートから離れた。
 微かに震える指でブラドとルフォートを交互に差し、動揺しながらも声を上げる。

「ち、ちょっと何やってんの! あんたら二人ともそんなキャラじゃないでしょ!?」

 ブラドとルフォートが顔を見合わせる。
 やがてブラドが戸惑うように眉尻を下げ、私に問いかけてきた。

「あの、君は僕らのこと知ってるの? 初対面だと思うんだけど」
「うっ。それは……」

 口籠る私に、ルフォートがウインクを寄越し、重ねて問いかける。

「それとも、オレたちのことをもっと知りたいって意味かな?」
「なっ……」

 二人の視線が私に注がれる。
 いつも不敵なブラドの、憂うように潤んだ瞳。
 普段は引っ込み思案なルフォートの、妖しく誘う双眸。
 これもギャップ萌えというのか。「これはこれで……」と呟きそうになった私は、慌てて頭を振った。
 そして、

「私が許しても、公式が黙ってないぞバカー!」

 そんな捨て台詞を残し、医務室から脱兎のごとく逃げ出した。
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