11 / 106
第四話 公式が黙ってないぞ①
しおりを挟む
「う……んん」
自分の口から漏れた声がきっかけとなり、私は静かに覚醒した。
ゆっくりと瞼を開くと、どこかで見た覚えのある、緩やかなカーブを描く天井が目に映る。
(ここは確か……そうそう。ゲームで見たわ。学園にある医務室ね)
その推察は正しかったようで、私は簡素なベッドで横になっていた。講堂で気を失った後、ここに運ばれたのだろう。
とりあえず身を起こそうとすると、軽い目眩に襲われる。思わず小さな呻き声を漏らすと、不意に横から声をかけられた。
「も、もう少し横になっていた方がいいよ。魔法による昏倒は、自然な入眠とは違うから」
どうやらカーテンで仕切られた隣のベッドにも休んでいる人がいるようだ。
普通ならお礼だけ返して大人しくしている場面だろうが、かけられた声に聞き覚えのあった私は、反射的にカーテンを開いた。
カーテンの向こうにいたのは、燃えるような赤髪が印象的な少年だった。精悍な顔立ちに、横になっていてもそうとわかる、無駄のないスラリとした長身。
ゲームと違ってツンツン頭ではなく髪を寝かしているが、間違いない。『王立学園の聖女』で攻略対象の一人となっている、ブラド・シュターである。
(うわ、生ブラドだ! 実物やっぱイケメンだ!)
私は黄色い歓声が漏れそうになるのをグッと堪え、代わりにブラドの凛々しい顔をまじまじと見やる。
かなり露骨な視線になっていたのだろう。ブラドが気後れした様子で、何か言おうと口を開く。
(お! くるか俺様発言!)
『王立学園の聖女』でブラドのキャラを熟知している私は、期待に瞳を輝かせた。
ブラド・シュターは代々近衛騎士団の団長を務めるシュター伯爵家の令息であり、騎士道精神を重んじる人物だ。
幼少期から剣の修行に明け暮れ、ゲーム内でも近接戦闘においては魔族相手にも引けを取らないほどの実力者。
その自負があるからか、ゲームでは「俺様キャラ」として躍動しており、随所で見られる俺様発言は、プレイヤーの心を鷲掴みにするのだ。
さてどんな言葉が発せられるのかと心待ちにしている私に対して、ブラドは気弱げな様子でこう言った。
「ぼ、僕の顔に何かついてる? そんなにジロジロ見ないで、恥ずかしい」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。台詞の一言一句を噛み砕くように咀嚼し、ようやく理解できたところで、私は素っ頓狂な声を上げる。
「はぁ!?」
魔法の後遺症など吹っ飛んだ。私はベッドから跳ね起きると、ブラドに覆いかぶさるような格好で詰め寄る。
「ちょっと、今のなに!? 噛んだの!? 『おいおい、俺様に見惚れてんなよ』って言おうとして噛んだの!?」
「か、噛んだとしてもそうはならないよね? 台詞が別物だよね?」
「じゃあどういうつもりで言ったのよ! いつもは『世界の中心は俺様だ』みたいな発言してるでしょ!」
「そんな滅相もない! 僕なんて世界の片隅の石の下でダンゴムシに居候させてもらいながらひっそりと生きてくくらいがお似合いの人間だから……」
「卑屈すぎんだろ!?」
ブラドは決してこんなキャラではなかったはず。いったい何があったのかと混乱していると、医務室に誰かが入ってくる気配があった。
自分の口から漏れた声がきっかけとなり、私は静かに覚醒した。
ゆっくりと瞼を開くと、どこかで見た覚えのある、緩やかなカーブを描く天井が目に映る。
(ここは確か……そうそう。ゲームで見たわ。学園にある医務室ね)
その推察は正しかったようで、私は簡素なベッドで横になっていた。講堂で気を失った後、ここに運ばれたのだろう。
とりあえず身を起こそうとすると、軽い目眩に襲われる。思わず小さな呻き声を漏らすと、不意に横から声をかけられた。
「も、もう少し横になっていた方がいいよ。魔法による昏倒は、自然な入眠とは違うから」
どうやらカーテンで仕切られた隣のベッドにも休んでいる人がいるようだ。
普通ならお礼だけ返して大人しくしている場面だろうが、かけられた声に聞き覚えのあった私は、反射的にカーテンを開いた。
カーテンの向こうにいたのは、燃えるような赤髪が印象的な少年だった。精悍な顔立ちに、横になっていてもそうとわかる、無駄のないスラリとした長身。
ゲームと違ってツンツン頭ではなく髪を寝かしているが、間違いない。『王立学園の聖女』で攻略対象の一人となっている、ブラド・シュターである。
(うわ、生ブラドだ! 実物やっぱイケメンだ!)
私は黄色い歓声が漏れそうになるのをグッと堪え、代わりにブラドの凛々しい顔をまじまじと見やる。
かなり露骨な視線になっていたのだろう。ブラドが気後れした様子で、何か言おうと口を開く。
(お! くるか俺様発言!)
『王立学園の聖女』でブラドのキャラを熟知している私は、期待に瞳を輝かせた。
ブラド・シュターは代々近衛騎士団の団長を務めるシュター伯爵家の令息であり、騎士道精神を重んじる人物だ。
幼少期から剣の修行に明け暮れ、ゲーム内でも近接戦闘においては魔族相手にも引けを取らないほどの実力者。
その自負があるからか、ゲームでは「俺様キャラ」として躍動しており、随所で見られる俺様発言は、プレイヤーの心を鷲掴みにするのだ。
さてどんな言葉が発せられるのかと心待ちにしている私に対して、ブラドは気弱げな様子でこう言った。
「ぼ、僕の顔に何かついてる? そんなにジロジロ見ないで、恥ずかしい」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。台詞の一言一句を噛み砕くように咀嚼し、ようやく理解できたところで、私は素っ頓狂な声を上げる。
「はぁ!?」
魔法の後遺症など吹っ飛んだ。私はベッドから跳ね起きると、ブラドに覆いかぶさるような格好で詰め寄る。
「ちょっと、今のなに!? 噛んだの!? 『おいおい、俺様に見惚れてんなよ』って言おうとして噛んだの!?」
「か、噛んだとしてもそうはならないよね? 台詞が別物だよね?」
「じゃあどういうつもりで言ったのよ! いつもは『世界の中心は俺様だ』みたいな発言してるでしょ!」
「そんな滅相もない! 僕なんて世界の片隅の石の下でダンゴムシに居候させてもらいながらひっそりと生きてくくらいがお似合いの人間だから……」
「卑屈すぎんだろ!?」
ブラドは決してこんなキャラではなかったはず。いったい何があったのかと混乱していると、医務室に誰かが入ってくる気配があった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
40
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる