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第一話 ゲーマー女神③
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しばし呆気にとられていた私だったが、唯一の趣味であるゲームの話題が呼び水になったのか、この非現実的な状況に、不意に実感が伴ってきた。それとともにじんわりと理解していく、先程のセレーヌの宣告。
「そっか。私、死んじゃったのか……」
私の呟きを耳にしたセレーヌは、はしゃいでしまったことを悔いるように眉尻を下げた。
「ええ、残念ながら。でも奏さん、あまり取り乱したりはなさらないんですね。何か予感でもあったのですか?」
「予感ってほどのもんじゃないわよ。私はウイルスの陽性反応出てたし、急に病状が悪化したんでしょ。
それに私はブラック企業勤務で、年中睡眠不足だったから。いつ過労死してもおかしくないなって漠然と思ってたし、そっちが原因でも別に驚きはしないわ」
私は納得尽くでそう伝えたのだが、セレーヌは、
「ウイルス? 過労死?」
と、怪訝そうに小首を傾げてみせる。
私はその様子に眉をひそめた。
寝落ちするまでの記憶はぼんやりと残っているので、事故死や、衝動的に自ら命を絶ったという線はないはずだ。
知らぬ間に泥棒が侵入した可能性もなくはないが、盗みが目的なら、熟睡している人間をわざわざ殺したりはしないだろう。
物問いげな視線をセレーヌに送ると、彼女は私の疑問を解消すべく口を開きかけるが、ふと思い至ったように唇を結んだ。
セレーヌはどこから取り出したのか、レントゲン写真でも収まっていそうなファイル片手に、穏やかに語りかけてくる。
「さて、これからあなたの状況を説明します」
「いや、MGSⅤの下りはもういいんで……」
「あなたはウイルスのため亡くなったのではありません。死因はエコノミークラス症候群です」
「……は?」
「長時間同じ姿勢でいたために血栓ができ、肺の血管が詰まったのです。ここ数日のご自身の行動を思い返せば、もうおわかりいただけますよね?」
セレーヌはベッドに横たわったままの私に対し、先程と同じように身を乗り出してきた。
そうして、満を持してといった様子で、衝撃的な真実を告げる。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。
あなたの死因は人類の天敵であるウイルスでもなければ、過労死なんていう現代社会の闇でもありません。あなたの死因は、そう。
乙女ゲーム『王立学園の聖女』のやり過ぎです」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ぅうう、嘘だああぁぁぁっ!!」
ベッドで暴れ出した私の身体をセレーヌがひしと押さえつけた。その表情は喜色に満ちている。
「あぁっ、いい感じです! MGSⅤのオープニングぽいです!」
「あんたこの反応待ってたわね!? 何が女神よクズゲーマーじゃないの!」
「シッ! 忘れたんですか、スネークはこの段階ではろくに喋れないんですよ!?」
「とりあえずお前が黙れやぁ!!」
ひとしきり喚いた私は、やがてガクリと脱力した。胸に去来するのは、何とも言えないやるせなさだ。
自宅待機をしてる間のゲーム三昧が死因だというならば、身を粉にして働いていたブラック企業勤めは、むしろ私の生命維持装置だったというのか。そんな人生、あんまりではないか。
「ああ、人生やり直したい……」
悲嘆に暮れて深い溜息をついたその時。セレーヌが拍手でもするようにポンと手を打ち鳴らし、あっけらかんとこう言った。
「あ、それは好都合です。やり直せますよ、人生」
「……は?」
「そっか。私、死んじゃったのか……」
私の呟きを耳にしたセレーヌは、はしゃいでしまったことを悔いるように眉尻を下げた。
「ええ、残念ながら。でも奏さん、あまり取り乱したりはなさらないんですね。何か予感でもあったのですか?」
「予感ってほどのもんじゃないわよ。私はウイルスの陽性反応出てたし、急に病状が悪化したんでしょ。
それに私はブラック企業勤務で、年中睡眠不足だったから。いつ過労死してもおかしくないなって漠然と思ってたし、そっちが原因でも別に驚きはしないわ」
私は納得尽くでそう伝えたのだが、セレーヌは、
「ウイルス? 過労死?」
と、怪訝そうに小首を傾げてみせる。
私はその様子に眉をひそめた。
寝落ちするまでの記憶はぼんやりと残っているので、事故死や、衝動的に自ら命を絶ったという線はないはずだ。
知らぬ間に泥棒が侵入した可能性もなくはないが、盗みが目的なら、熟睡している人間をわざわざ殺したりはしないだろう。
物問いげな視線をセレーヌに送ると、彼女は私の疑問を解消すべく口を開きかけるが、ふと思い至ったように唇を結んだ。
セレーヌはどこから取り出したのか、レントゲン写真でも収まっていそうなファイル片手に、穏やかに語りかけてくる。
「さて、これからあなたの状況を説明します」
「いや、MGSⅤの下りはもういいんで……」
「あなたはウイルスのため亡くなったのではありません。死因はエコノミークラス症候群です」
「……は?」
「長時間同じ姿勢でいたために血栓ができ、肺の血管が詰まったのです。ここ数日のご自身の行動を思い返せば、もうおわかりいただけますよね?」
セレーヌはベッドに横たわったままの私に対し、先程と同じように身を乗り出してきた。
そうして、満を持してといった様子で、衝撃的な真実を告げる。
「いいですか、落ち着いて聞いてください。
あなたの死因は人類の天敵であるウイルスでもなければ、過労死なんていう現代社会の闇でもありません。あなたの死因は、そう。
乙女ゲーム『王立学園の聖女』のやり過ぎです」
「…………」
「…………」
「…………」
「……ぅうう、嘘だああぁぁぁっ!!」
ベッドで暴れ出した私の身体をセレーヌがひしと押さえつけた。その表情は喜色に満ちている。
「あぁっ、いい感じです! MGSⅤのオープニングぽいです!」
「あんたこの反応待ってたわね!? 何が女神よクズゲーマーじゃないの!」
「シッ! 忘れたんですか、スネークはこの段階ではろくに喋れないんですよ!?」
「とりあえずお前が黙れやぁ!!」
ひとしきり喚いた私は、やがてガクリと脱力した。胸に去来するのは、何とも言えないやるせなさだ。
自宅待機をしてる間のゲーム三昧が死因だというならば、身を粉にして働いていたブラック企業勤めは、むしろ私の生命維持装置だったというのか。そんな人生、あんまりではないか。
「ああ、人生やり直したい……」
悲嘆に暮れて深い溜息をついたその時。セレーヌが拍手でもするようにポンと手を打ち鳴らし、あっけらかんとこう言った。
「あ、それは好都合です。やり直せますよ、人生」
「……は?」
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