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13章 いざ尋常に勝負
第537話 使者④ちぐはぐ
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昨日はアダムも学園を休んだという。
そして今日も休みだ。
こうなると、伝達魔法の魔具を没収されたのが地味に痛い。
兄さまに聞きにいくつもりだけど、はぐらかされそうな予感がひしひしとしている。だから、今一番有益なのはアダムの情報だ。
使者から何を聞き出したか、すっごく聞きたい!
「リディー、なにか怒ってる?」
昼休みにやってきた兄さまは、わたしの顔を見るなり言った。
わたしは兄さまににっこりと笑う。
「怒るようなことなんか何もないでしょ?」
そう、怒るようなことなんか起きてない。
わたしには言わない方がいい、そう判断することがあっただけ。
でも、これがね、フォルガードが黒幕っぽいとかそこを隠されたなら、わたしは別に不満はなかったと思うのだ。なんで?とは思うだろうけど。
けれど、メロディー嬢のことだったから。気にかかっている人だから、過剰に反応してしまうのだ、きっと。
「ロサ殿下が、対策を考えてくださった報告書、読んだ?」
「……読んだ」
「すっごく、早いんだよ」
「早い? 何が?」
「ロサが伝令を伝え、施行されるまでが」
「そうなの?」
遅かったら困るけど、早い分には問題ないんじゃないかと兄さまを見上げる。
「まるでロサが考える前に、誰かが準備していたんじゃないかと思えるぐらいにね」
思わずギクッとしてしまう。
「ロサは一国の王子だけあって、情報のよりわけも的確だし、判断も早い。そのロサより早く判断を下し、采配できる方。リディーではないよね。……でもリディーはそう、王都の家だったから、応接室の話を聞くことができた。そしてそれを……相談したのかな? ねぇ、ロサと私には任せられなかった? 不安だった?」
兄さまの顔が悲しそうに歪んだ。
「……わなかった」
「え?」
兄さまに聞き返される。
「メロディー嬢のこと、わたしに言わなかった」
言っていて、わたし駄々っ子かよと思う。
「……そうか、私たちがメロディー嬢が関わっているかもしれないということを、隠したと思ったんだね?」
「違うの?」
「リディー」
あ。差し伸べられた手を振り払っていた。
驚いた兄さまの顔。目を大きく見開いた。
わたしも自分のしたことだけど、そんなつもりはなかったので、自分にびっくりした。
「メロディー嬢のことを言わなかったのは、彼女にリディーが関わってほしくないからだ」
わたしが見上げると、兄さまは続ける。
「フォルガードの使者、あれは偽物だろう。フォルガードの者ではない」
アダムもそう思っているみたいだった。
「なぜそう言い切れるの?」
「フォルガードのような大国が証拠を残すと思う? もしやるなら、徹底的に名が残らないようにするさ。中途半端な印のある書を残したりしない。それにいくら小国のワーウィッツに対してだって、王族に対して爵位も確かではない使者を送ったりしないだろう。秘密裏にといってもどこかちぐはぐだ。それにフォルガードは満たされた国だ。ユオブリアを羨んだりしない」
羨んだりしないというのはどうだかわからないけど、確かにちゃっちい計画な気がするし、証拠を残すのは杜撰《ずさん》だと思える。それじゃあ、本当にフォルガードのしたことじゃないわけ?
「あわよくば、ワーウィッツに神聖国を建て上げさせたくて、失敗しても、ユオブリアとフォルガードの仲が少しでも拗れればいいと思ったんだろう」
えーーーー。
「それじゃあ、メロディー嬢も本当に関係ないの?」
「……今回のことには関係していないかもしれない。でもそんなことに利用されるぐらい、名前が出るくらいの立ち位置にいると推察できる」
「どういうこと?」
「彼女は何かしらに手を出しているということだよ。利用するのにちょうどいいと思われるぐらいにはね」
兄さまが憐んでいる。悲しみを堪えている。
あの妖精みたいに華奢でかわいらしくて、それでいて計算高い彼女を。
「彼女はもう危険だ。だから、リディーには近寄って欲しくない。これを言ったら怒るだろうけど、商会のことからも手を引いて欲しい。ウッドのおじいさまに任せるんだ。彼女が関係していたら、本当に危険だから」
「わたしが負けるって思うの?」
「そうじゃない。〝危険〟なんだよ。精神状態が普通じゃない。自棄《やけ》になっていることが自分でわからないぐらいに」
精神状態が普通じゃないのは、もっと前からわかっていたことじゃん。
自分を傷つけることで、兄さまを傷つけようとするところで、もう病んでいるでしょ?
「裁判にも出ないで欲しい。リディーたちがきっと勝つ。でも奴らはリディーに報復をしてくるだろう。お願いだから君は表に出ないでくれ」
「兄さま、前、わたしに自信持てって言ってくれた。表に出ろって。わたし嬉しかったのに! 認めてもらえたって思ったのに!」
「リディー!」
風が冷たい。頬がすっごく冷たい。
もふさまがわたしと並走する。
『リディア、泣いているのか?』
ああ、そうか。濡れて冷たいのか。
中庭まできていた。
何人かでグループ同士、生徒たちが固まっている。
『リディア、大丈夫か?』
声に出すわけにいかないので、わたしは頷いた。
その時、わたしの肩に青い鳥がとまった。
手を出すとわたしの掌でゴージャスな封筒になる。
誰もわたしのことを見ていない。
風のカッターで封を開ける。
アダムからだ。
使者はユオブリアの者と判明。そして刺客にやられた、と。最後まで口を割らなかったのでメロディー嬢との関係は不明。セイン国とホッテリヤは世界議会からの監査が入る。シュシュ族のことも、順を追って明らかにされ、ロサの思い描いたシナリオ通りに、ことは運んでいるとあった。
「リディアさま」
声でわかったけれど、振り返れば……。
「……ご機嫌よう」
わたしは気持ちを込めないカーテシーをした。
相も変わらず、儚げで砂糖菓子でできているようなメロディー嬢に。
そして今日も休みだ。
こうなると、伝達魔法の魔具を没収されたのが地味に痛い。
兄さまに聞きにいくつもりだけど、はぐらかされそうな予感がひしひしとしている。だから、今一番有益なのはアダムの情報だ。
使者から何を聞き出したか、すっごく聞きたい!
「リディー、なにか怒ってる?」
昼休みにやってきた兄さまは、わたしの顔を見るなり言った。
わたしは兄さまににっこりと笑う。
「怒るようなことなんか何もないでしょ?」
そう、怒るようなことなんか起きてない。
わたしには言わない方がいい、そう判断することがあっただけ。
でも、これがね、フォルガードが黒幕っぽいとかそこを隠されたなら、わたしは別に不満はなかったと思うのだ。なんで?とは思うだろうけど。
けれど、メロディー嬢のことだったから。気にかかっている人だから、過剰に反応してしまうのだ、きっと。
「ロサ殿下が、対策を考えてくださった報告書、読んだ?」
「……読んだ」
「すっごく、早いんだよ」
「早い? 何が?」
「ロサが伝令を伝え、施行されるまでが」
「そうなの?」
遅かったら困るけど、早い分には問題ないんじゃないかと兄さまを見上げる。
「まるでロサが考える前に、誰かが準備していたんじゃないかと思えるぐらいにね」
思わずギクッとしてしまう。
「ロサは一国の王子だけあって、情報のよりわけも的確だし、判断も早い。そのロサより早く判断を下し、采配できる方。リディーではないよね。……でもリディーはそう、王都の家だったから、応接室の話を聞くことができた。そしてそれを……相談したのかな? ねぇ、ロサと私には任せられなかった? 不安だった?」
兄さまの顔が悲しそうに歪んだ。
「……わなかった」
「え?」
兄さまに聞き返される。
「メロディー嬢のこと、わたしに言わなかった」
言っていて、わたし駄々っ子かよと思う。
「……そうか、私たちがメロディー嬢が関わっているかもしれないということを、隠したと思ったんだね?」
「違うの?」
「リディー」
あ。差し伸べられた手を振り払っていた。
驚いた兄さまの顔。目を大きく見開いた。
わたしも自分のしたことだけど、そんなつもりはなかったので、自分にびっくりした。
「メロディー嬢のことを言わなかったのは、彼女にリディーが関わってほしくないからだ」
わたしが見上げると、兄さまは続ける。
「フォルガードの使者、あれは偽物だろう。フォルガードの者ではない」
アダムもそう思っているみたいだった。
「なぜそう言い切れるの?」
「フォルガードのような大国が証拠を残すと思う? もしやるなら、徹底的に名が残らないようにするさ。中途半端な印のある書を残したりしない。それにいくら小国のワーウィッツに対してだって、王族に対して爵位も確かではない使者を送ったりしないだろう。秘密裏にといってもどこかちぐはぐだ。それにフォルガードは満たされた国だ。ユオブリアを羨んだりしない」
羨んだりしないというのはどうだかわからないけど、確かにちゃっちい計画な気がするし、証拠を残すのは杜撰《ずさん》だと思える。それじゃあ、本当にフォルガードのしたことじゃないわけ?
「あわよくば、ワーウィッツに神聖国を建て上げさせたくて、失敗しても、ユオブリアとフォルガードの仲が少しでも拗れればいいと思ったんだろう」
えーーーー。
「それじゃあ、メロディー嬢も本当に関係ないの?」
「……今回のことには関係していないかもしれない。でもそんなことに利用されるぐらい、名前が出るくらいの立ち位置にいると推察できる」
「どういうこと?」
「彼女は何かしらに手を出しているということだよ。利用するのにちょうどいいと思われるぐらいにはね」
兄さまが憐んでいる。悲しみを堪えている。
あの妖精みたいに華奢でかわいらしくて、それでいて計算高い彼女を。
「彼女はもう危険だ。だから、リディーには近寄って欲しくない。これを言ったら怒るだろうけど、商会のことからも手を引いて欲しい。ウッドのおじいさまに任せるんだ。彼女が関係していたら、本当に危険だから」
「わたしが負けるって思うの?」
「そうじゃない。〝危険〟なんだよ。精神状態が普通じゃない。自棄《やけ》になっていることが自分でわからないぐらいに」
精神状態が普通じゃないのは、もっと前からわかっていたことじゃん。
自分を傷つけることで、兄さまを傷つけようとするところで、もう病んでいるでしょ?
「裁判にも出ないで欲しい。リディーたちがきっと勝つ。でも奴らはリディーに報復をしてくるだろう。お願いだから君は表に出ないでくれ」
「兄さま、前、わたしに自信持てって言ってくれた。表に出ろって。わたし嬉しかったのに! 認めてもらえたって思ったのに!」
「リディー!」
風が冷たい。頬がすっごく冷たい。
もふさまがわたしと並走する。
『リディア、泣いているのか?』
ああ、そうか。濡れて冷たいのか。
中庭まできていた。
何人かでグループ同士、生徒たちが固まっている。
『リディア、大丈夫か?』
声に出すわけにいかないので、わたしは頷いた。
その時、わたしの肩に青い鳥がとまった。
手を出すとわたしの掌でゴージャスな封筒になる。
誰もわたしのことを見ていない。
風のカッターで封を開ける。
アダムからだ。
使者はユオブリアの者と判明。そして刺客にやられた、と。最後まで口を割らなかったのでメロディー嬢との関係は不明。セイン国とホッテリヤは世界議会からの監査が入る。シュシュ族のことも、順を追って明らかにされ、ロサの思い描いたシナリオ通りに、ことは運んでいるとあった。
「リディアさま」
声でわかったけれど、振り返れば……。
「……ご機嫌よう」
わたしは気持ちを込めないカーテシーをした。
相も変わらず、儚げで砂糖菓子でできているようなメロディー嬢に。
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