プラス的 異世界の過ごし方

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13章 いざ尋常に勝負

第538話 使者⑤五分五分

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「リディアさまはとんだ嘘つきですのね」

 にこやかに彼女は言った。

「嘘つきだと思うのなら、話すのは不快ではありませんの? どうせ話しても嘘をつかれるのだから」

「まあ、認めますの?」

「いいえ。メロディーさまが嘘だと思ってないから、話しかけてくるんだと申し上げているだけですわ」

 メロディー嬢のまぶたがピクピクしている。一息ついて、彼女は続ける。

「嘘も時には必要なものだと思いますわ。でも世の中にはついてはいけない嘘もございます」

 お前が言うかと、わたしは思う。
 兄さまを傷つけるためなら、何でもするスタンスのあんたが。

『リディア、冷静になれ』

 もふさまに言われて深呼吸をする。そうね、冷静、大事。

「……リディアさまがロサさまの婚約者候補だなんて、知りませんでしたわ」

 切なげに、ある程度の大きな声で言った。
 内容が内容だけに近くの子たちの興味を引く。
 そう、きたか。

「偽の婚約者まで立てて、お辛かったでしょう? 気づいてあげられなくてごめんなさい」

 涙目でわたしを見る。
 外野がざわついた。

「それはメロディーさまの勘違いですけど、わたしはワーウィッツのジュエル王子殿下とメロディーさまが親密なことに驚きましたわ。もしかして、自分のお心がそうだから、わたしに重ねようとしてますの? わたしの王族との婚姻はあり得ませんわ。メロディー公爵令嬢と違って」

 わたしと兄さまの仲がいいのは、わりと知れ渡っていると思うよ。
 それに対して、メロディー嬢は今まで息を潜めるようにして過ごしていたから、情報は少ない。

「メロディーさまは辛い恋をなさっているのかしら? 第1王子殿下はお優しくて、なんでもできる力のある方だとおっしゃってましたよね。悩み事があるなら、それでもジュエル殿下と会うべきではないと思いますわ」

 わたしが彼女の手を取ると、彼女は払った。

「それこそ誤解ですわ。私はジュエル殿下とではなく、ミーア王女と親しいだけです」

 わたしは頑張って切ない目をメロディー嬢にむけた。
 わかっているといいたげに。

 認めたね、ワーウィッツと親しいと。
 第1王子殿下の婚約者が特に外国と親しく、ね。こういうのは憶測が憶測を呼ぶからね。別に王子でも王女でもいいんだよ。キーワードであなたがワーウィッツと親しいとあれば、人々はそれぞれの思惑に合わせて、あなたを作り上げていく。

 メロディー家をよく思わない者は、喜んで王子殿下の婚約者がジュエル殿下と親しいと噂を広めていくだろう。
 第2王子推し勢力は、こぞって第1王子もワーウィッツと何かあると騒ぎ立てるだろう。……それはごめん、アダム。

「あら、ジュエル殿下と親しいといえば、ジュエル殿下はあなたの家に訪れたのではありませんか!」

 ふむ、ちょうどいいか。ワーウィッツが狐の毛皮を乱獲していたことを、少し印象付けておきますかね。

「ええ。ワーウィッツはフォックスの毛皮で有名なんですって。ご存知ですか?ワーウィッツにはバンデスという高くそびえる山があり、そこで取れるフォックスの毛皮が一番上等で王族に献上されるそうです。だから高くつくのですが、そこで狩ろうとするものは少ないのです。その山の狐は、攻撃された時、人のような叫び声をあげるらしく、狩人が嫌がるのですって。わたし、その話を聞いて胸が悪くなりましたの」

 オーバーに胸を押さえる。

「毛皮を見てそう話されたことを思い出しまして、過剰に反応していたんですわね。ジュエル殿下がわたしが毛皮に興味があると思い込み、ミーア王女のわたしへの行いを謝るのにちょうどいいと、毛皮を贈ろうと言ってくださったのですよ。
 ミーア王女のことも〝誤解〟ですし、その人のような叫び声を上げる狐と言うのも胸にありまして、辞退いたしましたの。でも〝胸が悪くなる〟なんて王族に申し上げにくいでしょう? それをどうしようと憂いでおりましたら、婚約者が第2王子殿下を間に立ててくださったんです」

 メロディー嬢の口の端がワナワナしている。

「あの日は、第1王子殿下からもお菓子を所望され、ありがたくも恐れ多くていましたが、婚約者であるメロディーさまが取りにいらしてほっとしましたのよ。それでジュエル殿下と仲がいいので驚きました。第2王子殿下も驚いてらしてましたわ」

 メロディー嬢が息を飲んだ。
 反応するねぇ、ロサに。

 かなり説明っぽいけどと周りを見れば、誰も彼も足を止め、こちらの話に聞き耳を立てている。生徒、わりといた。まあ、それを狙ってメロディー嬢は話しかけてきたんだろうから、噂好きな人たちが周りにいたのは当たり前か。

「あなた、ロサさまに何をおっしゃったの?」

「わたしは、何も?」

「いいですわ。あなたの気持ちがどこに向うと、事実は何も変わりませんものね」

「メロディーさまの指している事実って、なんですの?」

「あなたが誰を慕おうと、ランディラカさまの想い人はあなたってことですわ」

 そう言ってニヤリと笑った。
 そしてたったか歩いて行った。

 チラチラと視線がわたしに突き刺さる。
 五分五分ってとこか。半分ぐらいわたしの変な噂も出るね。
 元々評判良くないからいいけど。
 ロサの婚約者候補は勘弁して欲しい。心から。
 わたしは目で合図をして、もふさまと歩き出した。
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