538 / 888
13章 いざ尋常に勝負
第538話 使者⑤五分五分
しおりを挟む
「リディアさまはとんだ嘘つきですのね」
にこやかに彼女は言った。
「嘘つきだと思うのなら、話すのは不快ではありませんの? どうせ話しても嘘をつかれるのだから」
「まあ、認めますの?」
「いいえ。メロディーさまが嘘だと思ってないから、話しかけてくるんだと申し上げているだけですわ」
メロディー嬢のまぶたがピクピクしている。一息ついて、彼女は続ける。
「嘘も時には必要なものだと思いますわ。でも世の中にはついてはいけない嘘もございます」
お前が言うかと、わたしは思う。
兄さまを傷つけるためなら、何でもするスタンスのあんたが。
『リディア、冷静になれ』
もふさまに言われて深呼吸をする。そうね、冷静、大事。
「……リディアさまがロサさまの婚約者候補だなんて、知りませんでしたわ」
切なげに、ある程度の大きな声で言った。
内容が内容だけに近くの子たちの興味を引く。
そう、きたか。
「偽の婚約者まで立てて、お辛かったでしょう? 気づいてあげられなくてごめんなさい」
涙目でわたしを見る。
外野がざわついた。
「それはメロディーさまの勘違いですけど、わたしはワーウィッツのジュエル王子殿下とメロディーさまが親密なことに驚きましたわ。もしかして、自分のお心がそうだから、わたしに重ねようとしてますの? わたしの王族との婚姻はあり得ませんわ。メロディー公爵令嬢と違って」
わたしと兄さまの仲がいいのは、わりと知れ渡っていると思うよ。
それに対して、メロディー嬢は今まで息を潜めるようにして過ごしていたから、情報は少ない。
「メロディーさまは辛い恋をなさっているのかしら? 第1王子殿下はお優しくて、なんでもできる力のある方だとおっしゃってましたよね。悩み事があるなら、それでもジュエル殿下と会うべきではないと思いますわ」
わたしが彼女の手を取ると、彼女は払った。
「それこそ誤解ですわ。私はジュエル殿下とではなく、ミーア王女と親しいだけです」
わたしは頑張って切ない目をメロディー嬢にむけた。
わかっているといいたげに。
認めたね、ワーウィッツと親しいと。
第1王子殿下の婚約者が特に外国と親しく、ね。こういうのは憶測が憶測を呼ぶからね。別に王子でも王女でもいいんだよ。キーワードであなたがワーウィッツと親しいとあれば、人々はそれぞれの思惑に合わせて、あなたを作り上げていく。
メロディー家をよく思わない者は、喜んで王子殿下の婚約者がジュエル殿下と親しいと噂を広めていくだろう。
第2王子推し勢力は、こぞって第1王子もワーウィッツと何かあると騒ぎ立てるだろう。……それはごめん、アダム。
「あら、ジュエル殿下と親しいといえば、ジュエル殿下はあなたの家に訪れたのではありませんか!」
ふむ、ちょうどいいか。ワーウィッツが狐の毛皮を乱獲していたことを、少し印象付けておきますかね。
「ええ。ワーウィッツはフォックスの毛皮で有名なんですって。ご存知ですか?ワーウィッツにはバンデスという高くそびえる山があり、そこで取れるフォックスの毛皮が一番上等で王族に献上されるそうです。だから高くつくのですが、そこで狩ろうとするものは少ないのです。その山の狐は、攻撃された時、人のような叫び声をあげるらしく、狩人が嫌がるのですって。わたし、その話を聞いて胸が悪くなりましたの」
オーバーに胸を押さえる。
「毛皮を見てそう話されたことを思い出しまして、過剰に反応していたんですわね。ジュエル殿下がわたしが毛皮に興味があると思い込み、ミーア王女のわたしへの行いを謝るのにちょうどいいと、毛皮を贈ろうと言ってくださったのですよ。
ミーア王女のことも〝誤解〟ですし、その人のような叫び声を上げる狐と言うのも胸にありまして、辞退いたしましたの。でも〝胸が悪くなる〟なんて王族に申し上げにくいでしょう? それをどうしようと憂いでおりましたら、婚約者が第2王子殿下を間に立ててくださったんです」
メロディー嬢の口の端がワナワナしている。
「あの日は、第1王子殿下からもお菓子を所望され、ありがたくも恐れ多くていましたが、婚約者であるメロディーさまが取りにいらしてほっとしましたのよ。それでジュエル殿下と仲がいいので驚きました。第2王子殿下も驚いてらしてましたわ」
メロディー嬢が息を飲んだ。
反応するねぇ、ロサに。
かなり説明っぽいけどと周りを見れば、誰も彼も足を止め、こちらの話に聞き耳を立てている。生徒、わりといた。まあ、それを狙ってメロディー嬢は話しかけてきたんだろうから、噂好きな人たちが周りにいたのは当たり前か。
「あなた、ロサさまに何をおっしゃったの?」
「わたしは、何も?」
「いいですわ。あなたの気持ちがどこに向うと、事実は何も変わりませんものね」
「メロディーさまの指している事実って、なんですの?」
「あなたが誰を慕おうと、ランディラカさまの想い人はあなたってことですわ」
そう言ってニヤリと笑った。
そしてたったか歩いて行った。
チラチラと視線がわたしに突き刺さる。
五分五分ってとこか。半分ぐらいわたしの変な噂も出るね。
元々評判良くないからいいけど。
ロサの婚約者候補は勘弁して欲しい。心から。
わたしは目で合図をして、もふさまと歩き出した。
にこやかに彼女は言った。
「嘘つきだと思うのなら、話すのは不快ではありませんの? どうせ話しても嘘をつかれるのだから」
「まあ、認めますの?」
「いいえ。メロディーさまが嘘だと思ってないから、話しかけてくるんだと申し上げているだけですわ」
メロディー嬢のまぶたがピクピクしている。一息ついて、彼女は続ける。
「嘘も時には必要なものだと思いますわ。でも世の中にはついてはいけない嘘もございます」
お前が言うかと、わたしは思う。
兄さまを傷つけるためなら、何でもするスタンスのあんたが。
『リディア、冷静になれ』
もふさまに言われて深呼吸をする。そうね、冷静、大事。
「……リディアさまがロサさまの婚約者候補だなんて、知りませんでしたわ」
切なげに、ある程度の大きな声で言った。
内容が内容だけに近くの子たちの興味を引く。
そう、きたか。
「偽の婚約者まで立てて、お辛かったでしょう? 気づいてあげられなくてごめんなさい」
涙目でわたしを見る。
外野がざわついた。
「それはメロディーさまの勘違いですけど、わたしはワーウィッツのジュエル王子殿下とメロディーさまが親密なことに驚きましたわ。もしかして、自分のお心がそうだから、わたしに重ねようとしてますの? わたしの王族との婚姻はあり得ませんわ。メロディー公爵令嬢と違って」
わたしと兄さまの仲がいいのは、わりと知れ渡っていると思うよ。
それに対して、メロディー嬢は今まで息を潜めるようにして過ごしていたから、情報は少ない。
「メロディーさまは辛い恋をなさっているのかしら? 第1王子殿下はお優しくて、なんでもできる力のある方だとおっしゃってましたよね。悩み事があるなら、それでもジュエル殿下と会うべきではないと思いますわ」
わたしが彼女の手を取ると、彼女は払った。
「それこそ誤解ですわ。私はジュエル殿下とではなく、ミーア王女と親しいだけです」
わたしは頑張って切ない目をメロディー嬢にむけた。
わかっているといいたげに。
認めたね、ワーウィッツと親しいと。
第1王子殿下の婚約者が特に外国と親しく、ね。こういうのは憶測が憶測を呼ぶからね。別に王子でも王女でもいいんだよ。キーワードであなたがワーウィッツと親しいとあれば、人々はそれぞれの思惑に合わせて、あなたを作り上げていく。
メロディー家をよく思わない者は、喜んで王子殿下の婚約者がジュエル殿下と親しいと噂を広めていくだろう。
第2王子推し勢力は、こぞって第1王子もワーウィッツと何かあると騒ぎ立てるだろう。……それはごめん、アダム。
「あら、ジュエル殿下と親しいといえば、ジュエル殿下はあなたの家に訪れたのではありませんか!」
ふむ、ちょうどいいか。ワーウィッツが狐の毛皮を乱獲していたことを、少し印象付けておきますかね。
「ええ。ワーウィッツはフォックスの毛皮で有名なんですって。ご存知ですか?ワーウィッツにはバンデスという高くそびえる山があり、そこで取れるフォックスの毛皮が一番上等で王族に献上されるそうです。だから高くつくのですが、そこで狩ろうとするものは少ないのです。その山の狐は、攻撃された時、人のような叫び声をあげるらしく、狩人が嫌がるのですって。わたし、その話を聞いて胸が悪くなりましたの」
オーバーに胸を押さえる。
「毛皮を見てそう話されたことを思い出しまして、過剰に反応していたんですわね。ジュエル殿下がわたしが毛皮に興味があると思い込み、ミーア王女のわたしへの行いを謝るのにちょうどいいと、毛皮を贈ろうと言ってくださったのですよ。
ミーア王女のことも〝誤解〟ですし、その人のような叫び声を上げる狐と言うのも胸にありまして、辞退いたしましたの。でも〝胸が悪くなる〟なんて王族に申し上げにくいでしょう? それをどうしようと憂いでおりましたら、婚約者が第2王子殿下を間に立ててくださったんです」
メロディー嬢の口の端がワナワナしている。
「あの日は、第1王子殿下からもお菓子を所望され、ありがたくも恐れ多くていましたが、婚約者であるメロディーさまが取りにいらしてほっとしましたのよ。それでジュエル殿下と仲がいいので驚きました。第2王子殿下も驚いてらしてましたわ」
メロディー嬢が息を飲んだ。
反応するねぇ、ロサに。
かなり説明っぽいけどと周りを見れば、誰も彼も足を止め、こちらの話に聞き耳を立てている。生徒、わりといた。まあ、それを狙ってメロディー嬢は話しかけてきたんだろうから、噂好きな人たちが周りにいたのは当たり前か。
「あなた、ロサさまに何をおっしゃったの?」
「わたしは、何も?」
「いいですわ。あなたの気持ちがどこに向うと、事実は何も変わりませんものね」
「メロディーさまの指している事実って、なんですの?」
「あなたが誰を慕おうと、ランディラカさまの想い人はあなたってことですわ」
そう言ってニヤリと笑った。
そしてたったか歩いて行った。
チラチラと視線がわたしに突き刺さる。
五分五分ってとこか。半分ぐらいわたしの変な噂も出るね。
元々評判良くないからいいけど。
ロサの婚約者候補は勘弁して欲しい。心から。
わたしは目で合図をして、もふさまと歩き出した。
101
お気に入りに追加
1,301
あなたにおすすめの小説

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活
ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。
「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」
そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢!
そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。
「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」
しかも相手は名門貴族の旦那様。
「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。
◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用!
◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化!
◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!?
「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」
そんな中、旦那様から突然の告白――
「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」
えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!?
「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、
「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。
お互いの本当の気持ちに気づいたとき、
気づけば 最強夫婦 になっていました――!
のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

野草から始まる異世界スローライフ
深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。
私ーーエルバはスクスク育ち。
ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。
(このスキル使える)
エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。
エブリスタ様にて掲載中です。
表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。
プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。
物語は変わっておりません。
一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。
よろしくお願いします。

転生した愛し子は幸せを知る
ひつ
ファンタジー
【連載再開】
長らくお待たせしました!休載状態でしたが今月より復帰できそうです(手術後でまだリハビリ中のため不定期になります)。これからもどうぞ宜しくお願いします(^^)
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
宮月 華(みやつき はな) は死んだ。華は死に間際に「誰でもいいから私を愛して欲しかったな…」と願った。
次の瞬間、華は白い空間に!!すると、目の前に男の人(?)が現れ、「新たな世界で愛される幸せを知って欲しい!」と新たな名を貰い、過保護な神(パパ)にスキルやアイテムを貰って旅立つことに!
転生した女の子が周りから愛され、幸せになるお話です。
結構ご都合主義です。作者は語彙力ないです。
第13回ファンタジー大賞 176位
第14回ファンタジー大賞 76位
第15回ファンタジー大賞 70位
ありがとうございます(●´ω`●)

誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる