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4章 飛べない翼
第139話 次世代
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ロサが入っていくと、みんなが立ち上がった。男の子たちは礼を、女の子たちはカーテシー。小さな紳士と淑女がそこにはいた。
「顔をあげてくれ。集まってくれて感謝する。狩りに行った先でシュタイン領に寄ったんだ、その時に仲良くなった。これから発展する領地だと思う。シュタイン領の者だ。一番上のフランツは私たちと同じ7歳だ」
「フランツ・シュタイン・ランディラカです」
兄さまが礼をとった。
「アラン・シュタイン、6歳です」
アラ兄も礼をとる。
「ロビン・シュタイン。アランと双子です」
ロビ兄も礼をとった。
「リディア・シュタインです」
カーテシーを頑張る。
「それと、もふさまだ。とても賢い」
もふさまはそっぽを向いた。
「初めまして。ダニエル・エディスンです。祖父がシュタイン領でお世話になりました」
宰相の孫だ。きれいな礼をして、顔をあげ微笑む。完璧な笑顔だ。7歳にして出来上がっている。宰相の小型化という気がする。茶髪に青い目だ。
「俺はブライ・エイウッド。3人は剣を嗜むと聞いた。ぜひ、俺とも手合わせしてほしい」
燃え盛るような赤髪に、獲物を逃さないような鷹のような鋭い眼差しだ。子供なのに。エイウッド、恐らく伯爵の枠にいた気がする。
「騎士団長が彼のおじいさまなんだ」
ロサが言葉を添えると、騎士団長孫はにししと笑った。
「アイボリー・フリートと申します」
すっごいきれいなカーテシーだ。赤髪は見事な縦巻き。すごい、セットにどれくらいかかるんだろう。フリート侯爵令嬢は優雅に微笑んだ。
「マーヤ・ハバーです」
茶色い髪は肩のラインで切りそろえられている。無表情で仮面をつけているみたいだ。茶髪に青い目。
ハバー、どこかの枠にいた。なんだっけ?
あ、一代貴族だ。功績を認められ、一代だけ姓を名乗ることを許された商家だ。
席を勧められ、兄さまに持ち上げてもらって椅子に座らせてもらった。足元でもふさまが丸くなる。ロサが手をあげるとテーブルにお菓子とお茶が用意される。
マカロンだ。
「リディアお嬢さまはおいくつなのですか?」
フリート侯爵令嬢に声をかけられ、答える。
「5歳です」
メイドさんにお菓子をお取りしましょうかと言われ迷っていると、ロサが一通りとってやってくれと指示を出した。
おお、わたしのお皿に、パウンドケーキと、チョコレート菓子のようなものと、マカロンっぽいものが置かれる。
みんなはまだお菓子に手を出していない。お茶を楽しんでいる。匂いからして紅茶かな?
「気にせず、食べていいぞ」
ロサからゴーサインが出たので遠慮なくお菓子をいただくことにした。
まず、ピンク色のマカロンに手を伸ばし。口の動きが止まる。
マカロンじゃなかった。ただ甘いだけのスハスハした何か。間に挟んでいるのはバタークリームだろうか? 香料と味はついているけど、これも甘さが際立つだけだ。
ちょっと熱いけど、紅茶に手を出す。
ああ、甘かった。甘ったるいのが口から流れていってホッとする。
この紅茶ウチにくれたものと同じ味だ。
「リディアさまはこのお茶、わかります?」
無表情なハバー家の令嬢に尋ねられた。
「南のレミゼト王国の紅茶でしょうか?」
ってホリーさんが言ってた。
「5歳で産地もわかるなんて、さすがですわ」
ウチにもらったお茶と同じで、ホリーさんから聞いただけだけど、ま、いいや笑っておこう。
フォークでパウンドケーキを一口いただく。もぐもぐ。
うん、んんーー? ん? 見かけほどおいしくない。
ではチョコは?と口に放り込むと、素材はいい。いいチョコだ。なのに、なんでこんな暴挙に出た。濃厚なチョコがチョコ味のする何かに変わってしまっている。チョコの味は確かなのに。
「お菓子の味はいかがかな?」
ロサににっこり微笑まれる。
そういえば、お菓子をいっぱい食べたことがありそうなロサがクッキーを頬張って食べていた。ということは、こちらの世界はあまりお菓子が進化していない? つまり、おいしいお菓子は売れる? 人を呼べる?
わたしはゆっくりと飲み込んでからロサに返す。
「おいしゅうございます」
「はは、建前は必要ない。しっかりまずいって顔をしていたよ」
「そんなこと、ありませんわ」
貴族の豆知識。そう思われたくないことは絶対に否定しておくこと。母さまからの教えを守って、にっこり笑う。
「おじいさまから聞きました。リディア嬢の家の食事とお菓子はとてもおいしいと。私も食べてみたいです」
「まあ、そうですの? 殿下は召し上がられたのですよね?」
「アイボリー令嬢、そうなのです。食事も菓子もとても美味でした。リディア嬢は料理もお菓子も作るそうなのです」
侯爵令嬢からの期待の眼差しきたー。
「こんなにお小さいのに、お料理をされますの?」
「お手伝い、するだけです」
「はは、リディア嬢が食事やお菓子を考えると聞いたぞ?」
「それはぜひ食べてみたいですわ」
「リディア嬢、菓子を作ってくれないだろうか?」
策にハマった気がする。悔しいので、拒否しよう。
「申し訳ありませんが、もふさまと離れないよう、言われてます。炊事場に、もふさま、いけません、でしょう? ですので……」
「それは私が許可する」
えーーーーーー。ロサの目がマジだ。ちっ。
「でもそれだけだと旨味がなくてやる気も起きないだろう。何か作ってくれたら、この菓子の元のチョコレートを贈ろう」
え、チョコレートをくれるの?
ロサがクスッと笑う。
「殿下、妹はまだ小さく、家の慣れた環境ならまだしも、違う場所では難しいこともあります。妹の指示通りにしますので、お、私が作らせていただくのでもよろしいでしょうか?」
アラ兄がロサにお伺いをたてた。
「ああ、そうだな。ではよろしく頼む」
執事さんが椅子を引くとアラ兄が椅子からおろしてくれた。もふさまもあくびをしながら立ち上がった。
炊事場に着くと執事さんにここで待つように言われ、中に入って話している。
すぐに中に通された。もふさまも一緒だ。キッチンだからね、料理人たちがすごい目で見ている。
料理長さんも見事に青筋が立っている。でも一応にこやかな顔をする。
材料も用意いたしますので、自分たちも使ってくださいと愛想笑いだ。
すみませんと心の中で謝り、よろしくお願いしますと頭を下げる。
さて、何を作ろうかな?
「顔をあげてくれ。集まってくれて感謝する。狩りに行った先でシュタイン領に寄ったんだ、その時に仲良くなった。これから発展する領地だと思う。シュタイン領の者だ。一番上のフランツは私たちと同じ7歳だ」
「フランツ・シュタイン・ランディラカです」
兄さまが礼をとった。
「アラン・シュタイン、6歳です」
アラ兄も礼をとる。
「ロビン・シュタイン。アランと双子です」
ロビ兄も礼をとった。
「リディア・シュタインです」
カーテシーを頑張る。
「それと、もふさまだ。とても賢い」
もふさまはそっぽを向いた。
「初めまして。ダニエル・エディスンです。祖父がシュタイン領でお世話になりました」
宰相の孫だ。きれいな礼をして、顔をあげ微笑む。完璧な笑顔だ。7歳にして出来上がっている。宰相の小型化という気がする。茶髪に青い目だ。
「俺はブライ・エイウッド。3人は剣を嗜むと聞いた。ぜひ、俺とも手合わせしてほしい」
燃え盛るような赤髪に、獲物を逃さないような鷹のような鋭い眼差しだ。子供なのに。エイウッド、恐らく伯爵の枠にいた気がする。
「騎士団長が彼のおじいさまなんだ」
ロサが言葉を添えると、騎士団長孫はにししと笑った。
「アイボリー・フリートと申します」
すっごいきれいなカーテシーだ。赤髪は見事な縦巻き。すごい、セットにどれくらいかかるんだろう。フリート侯爵令嬢は優雅に微笑んだ。
「マーヤ・ハバーです」
茶色い髪は肩のラインで切りそろえられている。無表情で仮面をつけているみたいだ。茶髪に青い目。
ハバー、どこかの枠にいた。なんだっけ?
あ、一代貴族だ。功績を認められ、一代だけ姓を名乗ることを許された商家だ。
席を勧められ、兄さまに持ち上げてもらって椅子に座らせてもらった。足元でもふさまが丸くなる。ロサが手をあげるとテーブルにお菓子とお茶が用意される。
マカロンだ。
「リディアお嬢さまはおいくつなのですか?」
フリート侯爵令嬢に声をかけられ、答える。
「5歳です」
メイドさんにお菓子をお取りしましょうかと言われ迷っていると、ロサが一通りとってやってくれと指示を出した。
おお、わたしのお皿に、パウンドケーキと、チョコレート菓子のようなものと、マカロンっぽいものが置かれる。
みんなはまだお菓子に手を出していない。お茶を楽しんでいる。匂いからして紅茶かな?
「気にせず、食べていいぞ」
ロサからゴーサインが出たので遠慮なくお菓子をいただくことにした。
まず、ピンク色のマカロンに手を伸ばし。口の動きが止まる。
マカロンじゃなかった。ただ甘いだけのスハスハした何か。間に挟んでいるのはバタークリームだろうか? 香料と味はついているけど、これも甘さが際立つだけだ。
ちょっと熱いけど、紅茶に手を出す。
ああ、甘かった。甘ったるいのが口から流れていってホッとする。
この紅茶ウチにくれたものと同じ味だ。
「リディアさまはこのお茶、わかります?」
無表情なハバー家の令嬢に尋ねられた。
「南のレミゼト王国の紅茶でしょうか?」
ってホリーさんが言ってた。
「5歳で産地もわかるなんて、さすがですわ」
ウチにもらったお茶と同じで、ホリーさんから聞いただけだけど、ま、いいや笑っておこう。
フォークでパウンドケーキを一口いただく。もぐもぐ。
うん、んんーー? ん? 見かけほどおいしくない。
ではチョコは?と口に放り込むと、素材はいい。いいチョコだ。なのに、なんでこんな暴挙に出た。濃厚なチョコがチョコ味のする何かに変わってしまっている。チョコの味は確かなのに。
「お菓子の味はいかがかな?」
ロサににっこり微笑まれる。
そういえば、お菓子をいっぱい食べたことがありそうなロサがクッキーを頬張って食べていた。ということは、こちらの世界はあまりお菓子が進化していない? つまり、おいしいお菓子は売れる? 人を呼べる?
わたしはゆっくりと飲み込んでからロサに返す。
「おいしゅうございます」
「はは、建前は必要ない。しっかりまずいって顔をしていたよ」
「そんなこと、ありませんわ」
貴族の豆知識。そう思われたくないことは絶対に否定しておくこと。母さまからの教えを守って、にっこり笑う。
「おじいさまから聞きました。リディア嬢の家の食事とお菓子はとてもおいしいと。私も食べてみたいです」
「まあ、そうですの? 殿下は召し上がられたのですよね?」
「アイボリー令嬢、そうなのです。食事も菓子もとても美味でした。リディア嬢は料理もお菓子も作るそうなのです」
侯爵令嬢からの期待の眼差しきたー。
「こんなにお小さいのに、お料理をされますの?」
「お手伝い、するだけです」
「はは、リディア嬢が食事やお菓子を考えると聞いたぞ?」
「それはぜひ食べてみたいですわ」
「リディア嬢、菓子を作ってくれないだろうか?」
策にハマった気がする。悔しいので、拒否しよう。
「申し訳ありませんが、もふさまと離れないよう、言われてます。炊事場に、もふさま、いけません、でしょう? ですので……」
「それは私が許可する」
えーーーーーー。ロサの目がマジだ。ちっ。
「でもそれだけだと旨味がなくてやる気も起きないだろう。何か作ってくれたら、この菓子の元のチョコレートを贈ろう」
え、チョコレートをくれるの?
ロサがクスッと笑う。
「殿下、妹はまだ小さく、家の慣れた環境ならまだしも、違う場所では難しいこともあります。妹の指示通りにしますので、お、私が作らせていただくのでもよろしいでしょうか?」
アラ兄がロサにお伺いをたてた。
「ああ、そうだな。ではよろしく頼む」
執事さんが椅子を引くとアラ兄が椅子からおろしてくれた。もふさまもあくびをしながら立ち上がった。
炊事場に着くと執事さんにここで待つように言われ、中に入って話している。
すぐに中に通された。もふさまも一緒だ。キッチンだからね、料理人たちがすごい目で見ている。
料理長さんも見事に青筋が立っている。でも一応にこやかな顔をする。
材料も用意いたしますので、自分たちも使ってくださいと愛想笑いだ。
すみませんと心の中で謝り、よろしくお願いしますと頭を下げる。
さて、何を作ろうかな?
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