[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第五章

新章9:立ちはだかる壁

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不安気にクリクリとしたグレーの瞳が静かに揺れると、私はどうしたのと首を傾げた。

「ねぇ、ねぇ、お姉さん。どこかへ行っちゃうの?僕も一緒に行っていい?」

シナンは甘えるように私の背に手を回すと、そのまま引き寄せる。
胸に顔を埋めギュッと抱きしめると、彼の熱が伝わってきた。

「ッッ、シナン、コラッ、だめよ。ふふっ、くすぐったいわ。コラッ、離しなさい」

「嫌です、僕も一緒に連れてって。おいていかないで……」

低く不安げなその声に私はそっと視線を落とすと、彼の髪を優しく撫でる。

「シナン……でもあなたは」

「お姉さん、僕の事好きだって言ってくれましたよね。それに一緒にお風呂も入ってくれて、一緒のベッドで眠ってくれて……僕はもうお姉さんなしじゃ生きていけない」

シナンはウルウルと潤んだ瞳で私を見上げると、抱きしめる力を強めた。

「ちょっ、えぇっ、シナン、その言い方は誤解を……ッッ」

「……今のはどういう事ですか?」

無線機から静かに聞こえた声に、自然と肩が跳ねると、私は体を固くした。
声色から彼の怒りがビシビシ伝わってくると、脳裏に不機嫌なエヴァンの姿が霞める。
懐かしいエメラルドの瞳が細められ、こちらをじっと見つめるその姿に、小さく体が震えた。

「えっ、いえ、その……これは、違うの。えーと、その、色々と訳が……」

「それなら俺もついていこう。あんたと一夜を共にして、他の女を抱けなくなくった。責任はとってくれるだろう?」

カミールは徐に私の肩へ手を回すと、グッと腕に力を入れ私の体を引き寄せる。

「へぇっ!?ちょっと、あなたまで、何を言い出すのよ!あれは……違うでしょ!」

「違わないだろう。俺の腕の中で目覚めた事を覚えていないのか?」

カミールの言葉にベッドを共にした彼の記憶が蘇ると、一気に顔に熱が集まった。

「いえ、その……、そうだけど。あれはだから……ッッ」

「腕の中で目覚めた……?どういう事ですか?またあなたは……そうやって……ッッ」

不機嫌な彼の声に弁解しようするが、カミールはそれを阻止するように私の唇を手で覆う。
何事かと彼を見上げるように視線を向けると、彼は楽しむ様子でニタニタと笑みを浮かべていた。
この男……ッッ、楽しんでいるだけじゃない。
彼のその姿にキッと強く睨みつけると、私は彼の腕から逃れるように身をよじらせる。

「んうぅ……ッッ、あぁ、もう……ッッ、ちょっと……ッッ」

私は必死に彼の手を外すと、慌てて無線機へと手を伸ばした。

ガタンッ、ガジャガラララッ

無線機をガッチリと掴んだその刹那、突然鈍い大きな音が部屋に響くと、私は無線機を持ったままに固まった。

「……ジジッ……。あなたが居なくなって、私はずっと心配しておりました。ですが……あなたには楽しそうな、お仲間が出来たようですね。よかったです」

無線機から響く声は落ち着いてはいるが……ひどく冷たく、体の熱が一気に冷めていく。

「えっ、ちょっと、待って、その、違うのよ!聞いて、エヴァン!!!」

「何が違うと言うのですか?……とりあえず、早々に壁を越え、私に理解できるよう、ちゃんと説明してもらいますからね」

その言葉を最後に、ブチッ、と音と共に無線機から魔力が消えていくと、私は只々じっと無線機を見つめていた。
あれは相当怒っているわね……。
まずいわ……。

「エヴァン……」

そう力なくつぶやくと、向かいに座っていた女王は、パンパンッと仕切りなおすかのように手を鳴らした。

「ふふっ、あなたたち魔法使いさんを解放して、さっさと席へ戻りなさい」

その声にカミールとシナンは言われた通りに私から体を離すと、ようやく解放された事に、ほっと胸をなでおろす。
そんな私の様子に女王は肩を震わせて笑うと、ニッコリと妖麗な笑みを浮かべて見せた。

「ふふっ、ははっ、……魔法使いさん、とっても面白い話が聞けて楽しかったわ。コクチョウ、新しい単語ね。あなたはすでに彼らと連絡を取り合っていたのね~。まぁ、でもこれであなたが本当に壁の向こう側から来たことは証明された。そしてあなたは早急に、あの壁をどうにかして越えなければいけないようね。ふふっ、彼とっても怒っていたわ。ふふふふっ」

はぁ……女王の前で、私は一体何をしているのかしら……。
恥ずかしい……。
私は女王の視線から隠れるように頭を垂れると、また深く息を吐き出した。

あぁ……それよりも、エヴァン……とても怒っているわよね。
また軽蔑されてしまったかしら……。
先ほどの彼の声が頭を掠める中、胸がズキッと小さく痛み始める。

「ふふっ、そんな顔しないでね。ほら、元気を出して魔法使いさん。今すぐには出来ないけれど、また話す機会があるわ。それよりも今は同じ目的者同士、改めて協力しあいましょう」

彼女が握手を求めるように手を差し出すと、私は慌てて立ち上がり、その手に応えるように強く握りしめる。

「はい、これから宜しくお願いいたします」

そう深く頭を下げると、彼女は妖麗な笑みを浮かべていた。
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