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第五章
新章8:立ちはだかる壁
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《読まれる前に……新章8・9は、会話文が多めになっております。》
**************************************************
向こう側の只ならぬ様子に狼狽する中、私は口を閉ざし彼の言葉をじっと待っていた。
どうしたのかしら……何か問題が……?
「コホッ……すまないね。大人しく待てないようだ。はぁ……僕の話は後にして、先に彼らを紹介するよ」
少し疲れた様子の声が聞こえた瞬間、キキッ……と高い機械音が部屋に響く。
思わず頭に響くその音に身構える中、雑音に交じって、よく知った声がはっきりと耳にとどいた。
「そこに本当にいるのですか?彼女は無事なのですか!?」
無線機から響いた懐かしい声に、胸がジワッと温かくなると、私は前のめりに無線機へと顔をよせた。
「エヴァン!えぇ、無事よ!心配をかけてごめんなさい」
「よかった……元気そうで安心しました。しかし山賊に襲われた、なんて話知りませんでしたよ。怪我はありませんでしたか?どうして言わなかったのですか?はぁ……私がどれほど心配したとわかっているのですか!?……黒蝶はなかなか届かない上、こちらからはどうやっても連絡出来ない。なのにあなたの連絡は端的すぎます。アー……ジジッ、ちょっと何するんですか……ガガッ」
「バカ、余計な事を話すな」
エヴァンの言葉を遮るように、またも懐かしい声に自然と笑みがこぼれると、私は無線機へと話しかける。
「その声、もしかして……アーサー……様?そこにいるの?」
「……ジジッ、よっ、久しぶりだな。見つかって本当によかった。それに元気そうで安心した。だが本当にお前、壁の向こう側へ渡ったんだな。何か覚えている事はないのか?何でもいいんだ」
「いえ、ごめんなさい……。何も覚えてないの。それよりもみんなは元気かしら?」
「あぁ、ブレイクとレックスは東の国へ連れてきては居ないが、元気にやってる。俺もこの通りだ。ネイトは……まぁ、元気だな。後もう一人、一緒に来た奴がいるんだが、あれ……あいつどこへ行ったんだ。たぶんお前はまだ会ったことはないだろう。ずっと東の国へ出払っていたからな。あいつはエヴァンと同じ魔導師で、名前は……タ……ッッ、ムグッ、おぃ、……ジジッ、何すんだ、エヴァン、イテッ……ビビッ……ギギッ」
タ……?
誰かしら?
「どうかしたの?」
「いえ、何でもありません。アーサー殿の事は気にしないで下さい。それよりもどうやってこちらへ戻ってくるのか、考えているのですか?」
「いえ、まだ何も。とりあえず私はまだ壁を間近で見たことがないの。だから壁をこの目で確かめてから、考えようと思っているわ。そうだ、壁には二日後に向かう予定なの」
「わかりました。それなら私も壁へ向かいましょう。あなたが早く戻ってこられるよう、最善を尽くしますよ」
「ありがとう、エヴァンが力になってくれるのなら心強いわ。いつも……助けてもらってばかりね……」
私は熱くなる胸をギュッと掴むと、何とも言えない気持ちが込み上げてくる。
「いえ、あなたを助けられるのなら、何でも致します。言ったでしょ、一緒に戻って……あなたに伝えたい事あると。ちゃんと覚えておりますか?」
「えぇ、もちろんよ。今度は私があなたに会いに行く番よ。あなたの力を借りることになるかもしれない、でも必ず会いに行くから」
脳裏にエヴァンの笑みが浮かぶと、次第に心が穏やかになっていく。
彼が傍にいると感じると、なぜか不安な思いが消え去っていくの。
きっとこの世界で誰よりも一番傍に居たからでしょうね。
私は笑みを浮かべたままに、ゆっくりと息を吐き出す中、クィックィッと服の袖が引かれ視線を向けると、私を覗き込むシナンの瞳が映し出された。
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向こう側の只ならぬ様子に狼狽する中、私は口を閉ざし彼の言葉をじっと待っていた。
どうしたのかしら……何か問題が……?
「コホッ……すまないね。大人しく待てないようだ。はぁ……僕の話は後にして、先に彼らを紹介するよ」
少し疲れた様子の声が聞こえた瞬間、キキッ……と高い機械音が部屋に響く。
思わず頭に響くその音に身構える中、雑音に交じって、よく知った声がはっきりと耳にとどいた。
「そこに本当にいるのですか?彼女は無事なのですか!?」
無線機から響いた懐かしい声に、胸がジワッと温かくなると、私は前のめりに無線機へと顔をよせた。
「エヴァン!えぇ、無事よ!心配をかけてごめんなさい」
「よかった……元気そうで安心しました。しかし山賊に襲われた、なんて話知りませんでしたよ。怪我はありませんでしたか?どうして言わなかったのですか?はぁ……私がどれほど心配したとわかっているのですか!?……黒蝶はなかなか届かない上、こちらからはどうやっても連絡出来ない。なのにあなたの連絡は端的すぎます。アー……ジジッ、ちょっと何するんですか……ガガッ」
「バカ、余計な事を話すな」
エヴァンの言葉を遮るように、またも懐かしい声に自然と笑みがこぼれると、私は無線機へと話しかける。
「その声、もしかして……アーサー……様?そこにいるの?」
「……ジジッ、よっ、久しぶりだな。見つかって本当によかった。それに元気そうで安心した。だが本当にお前、壁の向こう側へ渡ったんだな。何か覚えている事はないのか?何でもいいんだ」
「いえ、ごめんなさい……。何も覚えてないの。それよりもみんなは元気かしら?」
「あぁ、ブレイクとレックスは東の国へ連れてきては居ないが、元気にやってる。俺もこの通りだ。ネイトは……まぁ、元気だな。後もう一人、一緒に来た奴がいるんだが、あれ……あいつどこへ行ったんだ。たぶんお前はまだ会ったことはないだろう。ずっと東の国へ出払っていたからな。あいつはエヴァンと同じ魔導師で、名前は……タ……ッッ、ムグッ、おぃ、……ジジッ、何すんだ、エヴァン、イテッ……ビビッ……ギギッ」
タ……?
誰かしら?
「どうかしたの?」
「いえ、何でもありません。アーサー殿の事は気にしないで下さい。それよりもどうやってこちらへ戻ってくるのか、考えているのですか?」
「いえ、まだ何も。とりあえず私はまだ壁を間近で見たことがないの。だから壁をこの目で確かめてから、考えようと思っているわ。そうだ、壁には二日後に向かう予定なの」
「わかりました。それなら私も壁へ向かいましょう。あなたが早く戻ってこられるよう、最善を尽くしますよ」
「ありがとう、エヴァンが力になってくれるのなら心強いわ。いつも……助けてもらってばかりね……」
私は熱くなる胸をギュッと掴むと、何とも言えない気持ちが込み上げてくる。
「いえ、あなたを助けられるのなら、何でも致します。言ったでしょ、一緒に戻って……あなたに伝えたい事あると。ちゃんと覚えておりますか?」
「えぇ、もちろんよ。今度は私があなたに会いに行く番よ。あなたの力を借りることになるかもしれない、でも必ず会いに行くから」
脳裏にエヴァンの笑みが浮かぶと、次第に心が穏やかになっていく。
彼が傍にいると感じると、なぜか不安な思いが消え去っていくの。
きっとこの世界で誰よりも一番傍に居たからでしょうね。
私は笑みを浮かべたままに、ゆっくりと息を吐き出す中、クィックィッと服の袖が引かれ視線を向けると、私を覗き込むシナンの瞳が映し出された。
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