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第三章
そうして世界は……
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そうして世界は変わった。
ターキィーミは父と母に会った事実を手に入れたのだ。
歪みはなくなり、世界は元のあるべき道へと進んでいく。
世界が人間を排除することをやめ、男性ばかりだった街は……元の姿へと戻った。
街は賑わい、男女が仲良く歩く、それこそが正しい世界。
だがこの事で彼女はターキィーミに会う事はなく、世界によって彼女自身は世界の外へとはじき出された。
そうして皆から彼女が居たという証明を、きれいさっぱり消していく。
彼女が出会った人々、そしてもちろん……元の世界へ戻ったエヴァンも……彼女の事は覚えていない。
そんな彼女はというと……何もない暗闇の中を只々彷徨っていた。
遠くを見渡してみても、先が見えないほどに。
どこまでも広がるその果てしない空間は、まるで宇宙の様だった。
何かしら……このふわふわと宙に浮くような感覚。
あっ、でもこの感覚を……知っているわ。
時空移転魔法を使った時に……同じ事を思った。
意識が次第に回復し、そっと瞼を持ち上げてみると、そこは深い深い暗闇だった。
ここは……時空移転魔法の時に来た場所かしら?
私はその場で呆然としていると、突然に女性が目の前に現れた。
「おかえり、待ってたで」
「あなたはあの時の……。ねぇ、あの時、聞くことが出来なかったけれど、どうしてあなたは最初に出会った時と言葉使いが違うの?」
女性は小さく笑うと私の傍へとやってくる。
「こっちが素なんや。最初の話し方は……あの見目やと似合わんやろう、だから作ったんや」
「……よくわからないけれど、私は今話しているあなたの方が好きよ」
ふふと笑いあい和やかな雰囲気が包む中、彼女はゴソゴソと服のポケットの中を漁り始める。
私が渡したスマホをポケットの中から取り出すと、ニッコリと笑みを浮かべてみせた。
「なぁ、あんたが戻した世界、見てみたない?」
彼女はスマホへ魔力を流すと、画面がパッと白く光る。
私は覗き込むように画面を見つめていると、そこには懐かしい……ブレイクと出かけた街の風景が映し出された。
賑わう街中に、以前男ばかりだった大通りには、女性の姿が溢れている。
ブレイク訪れた噴水前には、男女が寄り添うようにベンチへ腰かけ、笑顔が溢れていた。
よかった……、私はちゃんと正しい世界へ修正することが出来たのね。
じっと画面を眺める中、写真はゆっくりと切り替わっていくと、懐かしい彼らの姿が現れる。
画面に映し出された写真は、タクミとセーフィロが広場で抱き合う姿。
次に、セーフィロが王となり、アーサーが兄を支える姿。
その隣には、タクミとエヴァンが二人を守るように佇んでいた。
また写真が切り替わり、ブレイクが兄弟の世話をしながら、騎士になる為の鍛錬に励む姿。
レックスは医者になり、美しい女性と寄り添う姿。
ネイトは……相も変わらずひっそりと森の中で暮らしている姿。
彼らの幸せな姿に心が温まると、私はほっと胸をなでおろす。
正しい世界へ戻して、正解だったわね。
タクミもきっと、この世界で充実した日々を過ごしているに違いない。
「みんな幸せそうでよかったわ……」
彼らの笑顔に、思わず涙腺が緩むと、頬に水滴が流れ落ちていく。
視界が涙で滲む中、頬が自然と緩んでいくと、スマホから目が逸らせなくなった。
そのままスマホの画面を食い入るように見つめていると、突然にスマホの電源が落ちる。
画面が真っ暗になり、自分の顔が映し出されると、私はそっと視線を反らせた。
「ところで……私は元の世界へ飛ばされてしまうの?」
「それは無い。あなたの人生はあの時すで終わっている。本来であればすぐに死の世界へ行くんやけど、あんたはこの世界と別の世界の住人。別の世界では死んで、その後にこの世界から消えた。まぁ……特例やな。だからあんたは一度この場所へきたんや。……迷い人としてな」
迷い人?
キョトンと首をかしげながらに視線を向けると、彼女はスマホをいそいそとポケットへとなおしていた。
「迷い人ちゅうんわ、死んだあと行く場所がない者の事や」
元の世界で私はトラックにひかれて死んだ。
元居た世界に、私の居場所はない。
こちらの世界も同じ、私の居場所はどこにもない。
死んだわけではなく、存在自体が消えた私は一体どうなるのかしら……。
「まぁ、あんたをこのまま、向こうの死後の世界へ案内するべきなんやけど……。死の世界へ行くまで、少し時間をあげるわ。実はな……うちが見せた世界と別に、もう一つ世界があんねん。詳しくは話してあげられへんけど、あんたにはまだ生き返るチャンスがある。そのあんたのリングが消えるまで、時間はあるんや」
彼女は私の手へと視線を向けると、左手の薬指にはタクミから貰ったシルバーのリングが光っていた。
「……私は生き返ることができるの?」
「せやっ、あんたが消える前に願ったやろう?《この世界でもう少し生きたかった》って。あんたには十分な働きをしてもうたしなぁ。でもな、そのリングが消えてしまえば、それはゲームオーバーや。その時は死後の世界まで、きっちり案内しちゃる」
意味深な言葉に首をかしげる中、女性はニッコリ笑みを深め私の前からスッと姿を消すと、辺りはまた無音の暗闇へと戻った。
生き返るチャンスか……。
ただここで待っているだけいいと言っていたけれど……。
それよりもリングが消えるのは……一体いつなのかしら。
私はどれぐらいこの場所に居なければいけないのかしら……。
はぁ……とりあえず何だか疲れたわ……このまま眠ろう。
皆が幸せなら……私はそれで充分幸せなんだから。
私は徐に瞳を閉じると、暗闇の中へと静かに身を預けていった。
********************
ここまでお読みいただきありがとうございました。
長くなりましたが、第三章を無事完結させることが出来ました。
次回は第四章となります。
まだまだ未熟者ですが、最後までお読み頂けると幸いです。
宜しくお願い致します。
ご意見、ご感想等ございましたらお気軽にご連絡下さい。
ターキィーミは父と母に会った事実を手に入れたのだ。
歪みはなくなり、世界は元のあるべき道へと進んでいく。
世界が人間を排除することをやめ、男性ばかりだった街は……元の姿へと戻った。
街は賑わい、男女が仲良く歩く、それこそが正しい世界。
だがこの事で彼女はターキィーミに会う事はなく、世界によって彼女自身は世界の外へとはじき出された。
そうして皆から彼女が居たという証明を、きれいさっぱり消していく。
彼女が出会った人々、そしてもちろん……元の世界へ戻ったエヴァンも……彼女の事は覚えていない。
そんな彼女はというと……何もない暗闇の中を只々彷徨っていた。
遠くを見渡してみても、先が見えないほどに。
どこまでも広がるその果てしない空間は、まるで宇宙の様だった。
何かしら……このふわふわと宙に浮くような感覚。
あっ、でもこの感覚を……知っているわ。
時空移転魔法を使った時に……同じ事を思った。
意識が次第に回復し、そっと瞼を持ち上げてみると、そこは深い深い暗闇だった。
ここは……時空移転魔法の時に来た場所かしら?
私はその場で呆然としていると、突然に女性が目の前に現れた。
「おかえり、待ってたで」
「あなたはあの時の……。ねぇ、あの時、聞くことが出来なかったけれど、どうしてあなたは最初に出会った時と言葉使いが違うの?」
女性は小さく笑うと私の傍へとやってくる。
「こっちが素なんや。最初の話し方は……あの見目やと似合わんやろう、だから作ったんや」
「……よくわからないけれど、私は今話しているあなたの方が好きよ」
ふふと笑いあい和やかな雰囲気が包む中、彼女はゴソゴソと服のポケットの中を漁り始める。
私が渡したスマホをポケットの中から取り出すと、ニッコリと笑みを浮かべてみせた。
「なぁ、あんたが戻した世界、見てみたない?」
彼女はスマホへ魔力を流すと、画面がパッと白く光る。
私は覗き込むように画面を見つめていると、そこには懐かしい……ブレイクと出かけた街の風景が映し出された。
賑わう街中に、以前男ばかりだった大通りには、女性の姿が溢れている。
ブレイク訪れた噴水前には、男女が寄り添うようにベンチへ腰かけ、笑顔が溢れていた。
よかった……、私はちゃんと正しい世界へ修正することが出来たのね。
じっと画面を眺める中、写真はゆっくりと切り替わっていくと、懐かしい彼らの姿が現れる。
画面に映し出された写真は、タクミとセーフィロが広場で抱き合う姿。
次に、セーフィロが王となり、アーサーが兄を支える姿。
その隣には、タクミとエヴァンが二人を守るように佇んでいた。
また写真が切り替わり、ブレイクが兄弟の世話をしながら、騎士になる為の鍛錬に励む姿。
レックスは医者になり、美しい女性と寄り添う姿。
ネイトは……相も変わらずひっそりと森の中で暮らしている姿。
彼らの幸せな姿に心が温まると、私はほっと胸をなでおろす。
正しい世界へ戻して、正解だったわね。
タクミもきっと、この世界で充実した日々を過ごしているに違いない。
「みんな幸せそうでよかったわ……」
彼らの笑顔に、思わず涙腺が緩むと、頬に水滴が流れ落ちていく。
視界が涙で滲む中、頬が自然と緩んでいくと、スマホから目が逸らせなくなった。
そのままスマホの画面を食い入るように見つめていると、突然にスマホの電源が落ちる。
画面が真っ暗になり、自分の顔が映し出されると、私はそっと視線を反らせた。
「ところで……私は元の世界へ飛ばされてしまうの?」
「それは無い。あなたの人生はあの時すで終わっている。本来であればすぐに死の世界へ行くんやけど、あんたはこの世界と別の世界の住人。別の世界では死んで、その後にこの世界から消えた。まぁ……特例やな。だからあんたは一度この場所へきたんや。……迷い人としてな」
迷い人?
キョトンと首をかしげながらに視線を向けると、彼女はスマホをいそいそとポケットへとなおしていた。
「迷い人ちゅうんわ、死んだあと行く場所がない者の事や」
元の世界で私はトラックにひかれて死んだ。
元居た世界に、私の居場所はない。
こちらの世界も同じ、私の居場所はどこにもない。
死んだわけではなく、存在自体が消えた私は一体どうなるのかしら……。
「まぁ、あんたをこのまま、向こうの死後の世界へ案内するべきなんやけど……。死の世界へ行くまで、少し時間をあげるわ。実はな……うちが見せた世界と別に、もう一つ世界があんねん。詳しくは話してあげられへんけど、あんたにはまだ生き返るチャンスがある。そのあんたのリングが消えるまで、時間はあるんや」
彼女は私の手へと視線を向けると、左手の薬指にはタクミから貰ったシルバーのリングが光っていた。
「……私は生き返ることができるの?」
「せやっ、あんたが消える前に願ったやろう?《この世界でもう少し生きたかった》って。あんたには十分な働きをしてもうたしなぁ。でもな、そのリングが消えてしまえば、それはゲームオーバーや。その時は死後の世界まで、きっちり案内しちゃる」
意味深な言葉に首をかしげる中、女性はニッコリ笑みを深め私の前からスッと姿を消すと、辺りはまた無音の暗闇へと戻った。
生き返るチャンスか……。
ただここで待っているだけいいと言っていたけれど……。
それよりもリングが消えるのは……一体いつなのかしら。
私はどれぐらいこの場所に居なければいけないのかしら……。
はぁ……とりあえず何だか疲れたわ……このまま眠ろう。
皆が幸せなら……私はそれで充分幸せなんだから。
私は徐に瞳を閉じると、暗闇の中へと静かに身を預けていった。
********************
ここまでお読みいただきありがとうございました。
長くなりましたが、第三章を無事完結させることが出来ました。
次回は第四章となります。
まだまだ未熟者ですが、最後までお読み頂けると幸いです。
宜しくお願い致します。
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