[R18] 異世界は突然に……

あみにあ

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第三章

最後の逢瀬

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キラキラ光る破片が舞い散る中、私はほっと胸をなでおろすと、その場に崩れ落ちた。
やっと終わったわ……。
これで世界は正しい世界へと導かれるはず……。
グッタリとする私の体をエヴァンは優しく抱きしめると、そっと支えてくれる。

「すみません、遅くなってしまって……」

「ううん、エヴァンが来てくれてよかったわ。私一人だったら絶対に壊せなかったもの……。本当にありがとう」

私は弱弱しく笑みを浮かべると、そっと胸元へ手を忍ばせる。
柔らかい魔力玉をギュッと握りしめると、顔を持ち上げ、エメラルドの瞳をじっと見つめた。

「やっと終わったわ。これで全てが元通りになる」

「なら、すぐに帰りましょう。皆が……待っていますよ。それにあなたには言っていませんでしたが……その首にある呪いも解く方法が見つかったんです。だから戻ったら……あなたの名前を一番に聞かせて下さいね」

エヴァンは優しい笑みを浮かべると、私の体を腕の中へと閉じ込める。

私はこの笑顔が好きだった。

しょっちゅう迷惑を掛けて彼を怒らせていたけど……彼はいつも最後には、その笑みをくれる。

まだまだ一緒に居たかったな……。

この世界でもっと楽しい思い出を作りたかった。

エヴァンに魔法を教えてもらって、ブレイクと一緒に街へ出かけて、レックスに治癒魔法を習って……。

それでネイトと魔女の屋敷へ行って、アーサーと喧嘩もしたわ。

煌びやかなドレスを着て、初めて夜会にも参加させてもらった。

そうやって今まで歩んできた……たくさんの思い出が、走馬灯のように脳裏に甦ってくる。

あぁ……もっとこの世界で、人生を歩んでみたかった。

でも私の人生はあの日、事故で終わりだったのよね。

それでもタクミがこの世界で新しい命を与えてくれた。

まさか結末が、こんな事になるなんて考えもしなかったわ……。

「どうしましたか……?」

動かない私を訝し気に思ったのか……彼は私の顔を覗き込むと、心配そうな表情を見せる。
そんな彼の様子に私は小さく首を横に振ると、そっと彼の胸を押し返した。

もう嘘はつきたくない。

最後に……本当の事を彼に伝えないとね……。

そんな私の様子に、エヴァンは少し不機嫌な表情を浮かべる中、私は大きく息を吸いんだ。

「エヴァン……私ね、言わなければいけないことがあるの」

彼は私の様子に真剣な瞳を浮かべると、澄んだエメラルドの瞳がユラユラと揺れている。

「今……私たちは防御魔法を破ったでしょ。それでね……世界の歪みが消えたのよ。だから……女性が減っていく現象は、これでなくなった。正しい世界の流れに戻すことが出来たから……。でもね……この事でタクミが、私の世界へ来ることもなくなったわ」

語り掛けるようにゆっくりと言葉を紡いでいく中、次第に体がだるくなり、目を開けている事も辛くなると、私はゆっくりと彼の肩に顔を埋めた。

「はぁ、はぁ……何が言いたいかというと……タクミはね、私の世界には来ないの。だから私とも出会う事がないのよね。だってそれが正しい事実だから……。私がこの世界へ召喚されたのも、みんなに出会えたのも、全てはタクミと私が出会ったからこそ生まれた事実。その事実がなくなった今……私はこの世界には必要ない存在なのよ」

私の言葉にエヴァンは大きく目を見開き固まると、私を支える手が小刻みに震え始める。

「どういうことですか?あなたと出会う事がない……。嘘だ……嘘だ!!!そんな事許されるはずがない!!!」

「黙っていてごめんね……でも女性が減るという現象はなくなったのだから、きっとエヴァンも男娼館なんかに売られないと思うわ。それに次、エヴァンが目覚めたときは、もう私の事は覚えていない……きっとね」

だって私はこの正しい世界に存在しない者だから……。

「どうして黙っていたんですか!!!どうして……どうして!!!こんな事なら……あの時……無理やりにでも言わせるべきだった!」

「ははっ、でも言えば、どんなことしても、とめようとしたでしょ?……なら私は絶対に言わなかったわ」

私は彼の胸の中で小さく息を繰り返していると、私の頬にポツポツと水滴が降り注ぐ。

「だからあなたは……私を先に帰らせようとしていたんですね……。自分が居なくなるから……そんな……どうして……どうしていつもあなたは、勝手な事ばかりするのですか!!」

その震える声に私はそっと体を起こすと、辛くなる体に耐えながらも、徐に瞼を持ち上げた。

「エヴァン泣かないで……私はあなたの笑顔が好きよ。……それにエヴァンに……みんなに出会えて幸せだった……。こんな私に、たくさんの事を教えてくれて……色々と助けてくれて……本当にありがとう。あなたが居なかったら……私はここへ辿り着く事すら出来ていなかったわ」

「ダメです!!!そんな……そんな言葉はいらない!!!一緒に帰ると約束したではないですか……帰って私の話を聞いてください……っっ、そうお願いしたではないですか!!!」

ごめんねぇ……そう小さく呟くと、私の意識が少しずつ薄れていく。
彼の顔をじっと眺めていると、エメラルドの瞳から流れる涙は美しく、まるで澄んだ湖の様だった。
そんな彼の涙へそっと手を伸ばすと、雫を指先で掬い上げた。

「エヴァンの話を……聞けなくて……ごめんなさい……っっ。約束を守れなくてごめん……。でもね……彼らをとめた事で……私の呪いも解けたのよ……。エヴァン……私の名前は……」

彼の耳元へそっと唇を寄せると、触れていた彼の温もりが消えていく。
あぁ……もう時間切れなのね……。
私は最後にニッコリと笑みを浮かべながら、彼にそっと手を翳す。
最後の力を振り絞り、胸元から魔力玉を取り出し一気に飲み干すと、魔法で乾いた土の上に、頭の中で描いた魔法陣を映していった。
そうして最後に……補充した魔力を全て集めると、時間移転の魔法を発動させる。

「待ちなさい!!やめろ!!!こんなの許しません……一緒に帰るんです!!!」

彼は私の手を掴もうと手を伸ばすが……温もりを感じることが出来ない、透けていく私の体に彼の手が触れることはない。
悲痛な表情をする彼に笑みを浮かべて見せる中、私の頬には涙が静かに伝っていた。

(今までありがとう、新しい世界で幸せになってね)

そう声をだそうと口を開くが……私の耳にもう何の音は届かない。
次第に彼の姿が霞んでいくと、私は全ての魔力を彼に放った。

「やめてください、いかないで下さい!!!嫌だ、いやだあああああ!!私は、私は……」

私は見えない彼の姿に手を振ると、そのまま意識を手放した。



そうして……

シルバーのリングが一つポツリと、渇いた土の上に残され……。

荒野には、二人の死体が並んでいる。

そんな死体を囲むように、渇いた土の上には美しい緑が芽吹き始めていた。
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