上 下
5 / 11

何で来るのよ……

しおりを挟む
ふつふつと怒りがこみ上げると、思わずキッと縦ロールの令嬢を睨みつけ唇をかむ。

「なっ、何なのよその目。本当に生意気だわ。立場をわかっていないようね?」

令嬢は手にしていた扇子を振り上げた刹那、後ろから声が響いた。

「おやめなさい。貴族の恥さらしですわよ」

そこにいたのは、凛とした御令嬢。
ブロンドの長い髪に、透き通るような真っ白な肌。
女性の私でも見惚れてしまいそうな美しいその様に、口が半開きになってしまった。

「スッ、ステイシー様!?あっ、あの……その、これはッッ、みっ、皆さま行きましょう」

この人がステイシー様?
我に返り改めて彼女を見つめると、優し気な瞳にぷっくりとした赤い唇。
キュッと引き締まった腰に、制服の上からでもわかる胸の膨らみ。
想像していたよりも数倍美しい令嬢だった。

こんな非の打ち所がない婚約者がいて……あの王子は何を考えているの?
彼女を呆然と見つめていると、縦ロールの令嬢はじりじりと私から離れ、ステイシーから逃げるように、取り巻きたちと共に校舎の方へと戻っていった。

ステイシーは優雅に近づいてくると、こちらへ手を差し伸べる。

「大丈夫?ケガはない?あら、肩に葉っぱが……」

彼女は手で葉っぱを払うと、私は慌てて飛びのいた。

「だっ、大丈夫です!ステイシー様の手が汚れてしまいます」

彼女は勢いよく跳ねた私の動きに驚いた様子で目を見開いたかと思うと、すぐに優しい笑みを浮かべる。

「ふふふっ、そんなことありませんわ。私の手は別の意味で汚れておりますし……」

別の意味?
寂しげに笑う彼女の姿に首を傾げていると、校庭の方からすごい速さで人影が近づいてきた。

「ステイシー、何をしている!」

良く知る声に顔を向けると、ジェシー王子がこちらへ駆け寄ってきた。
その後ろには彼のお目付け役であるハンク。
ゲームでは彼について詳しく書かれていなかったが、王子に関わったことで知ることが出来た。
どうも彼は宰相の息子で王子の補佐役となった生粋のお貴族様のようだ。
爵位も申し分なし氏、良識があって真面目、見目も王子には劣るが十分整っている。
彼が攻略対象者だったらな……。

チラッと彼へ視線を向けると、プラチナの長い髪を後ろで縛り、切れ長の瞳。
いつも王子の傍に佇み、言葉を発している姿はあまり見たことがない。

「あら、ジェシー」

彼女は振り返ると、スッと私の後ろへ下がった。

「こいつに何をした!」

王子は責めるようにステイシーを睨みつける。
その姿に違うのだと否定しようとすると、その前にステイシーが後ろから私の口を塞いだ。

「ちっ、……むむむんん」

「ふふふ、まだ何も。お早いご到着ですこと」

王子はすかさず私の腕を掴みステイシーから引きはがすと、キッと彼女を睨みつける。

「お前の取り巻きが彼女を連れて行くのをみた、何をしようとしていたんだ!」

「彼女が目障りだったのですわ。だからお灸を据えようと……ですがその前に白馬の王子様が助けにきてしまったようですわね」

彼女の言葉に目を丸くすると、口を半開きのまま固まった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜

水都 ミナト
恋愛
精霊王を信仰する王国で、マナの扱いに長けた侯爵家の娘・ナターシャ。彼女は五歳でレイモンド王太子殿下の婚約者に抜擢された。 だが、レイモンドはアイシャ公爵令嬢と想い合っていた。アイシャはマナの扱いが苦手で王族の婚約者としては相応しくないとされており、叶わない恋であった。 とある事件をきっかけに、ナターシャは二人にある提案を持ち掛けるーーー これはレイモンドとアイシャ、そしてナターシャがそれぞれの幸せを掴むまでのお話。 ※1万字程度のお話です。 ※他サイトでも投稿しております。

悪役令嬢は、あの日にかえりたい

桃千あかり
恋愛
婚約破棄され、冤罪により断頭台へ乗せられた侯爵令嬢シルヴィアーナ。死を目前に、彼女は願う。「あの日にかえりたい」と。 ■別名で小説家になろうへ投稿しています。 ■恋愛色は薄め。失恋+家族愛。胸糞やメリバが平気な読者様向け。 ■逆行転生の悪役令嬢もの。ざまぁ亜種。厳密にはざまぁじゃないです。王国全体に地獄を見せたりする系統の話ではありません。 ■覚悟完了済みシルヴィアーナ様のハイスピード解決法は、ひとによっては本当に胸糞なので、苦手な方は読まないでください。苛烈なざまぁが平気な読者様だと、わりとスッとするらしいです。メリバ好きだと、モヤり具合がナイスっぽいです。 ■悪役令嬢の逆行転生テンプレを使用した、オチがすべてのイロモノ短編につき、設定はゆるゆるですし続きません。文章外の出来事については、各自のご想像にお任せします。 ※表紙イラストはフリーアイコンをお借りしました。 ■あままつ様(https://ama-mt.tumblr.com/about)

悪役令嬢より取り巻き令嬢の方が問題あると思います

恋愛
両親と死別し、孤児院暮らしの平民だったシャーリーはクリフォード男爵家の養女として引き取られた。丁度その頃市井では男爵家など貴族に引き取られた少女が王子や公爵令息など、高貴な身分の男性と恋に落ちて幸せになる小説が流行っていた。シャーリーは自分もそうなるのではないかとつい夢見てしまう。しかし、夜会でコンプトン侯爵令嬢ベアトリスと出会う。シャーリーはベアトリスにマナーや所作など色々と注意されてしまう。シャーリーは彼女を小説に出て来る悪役令嬢みたいだと思った。しかし、それが違うということにシャーリーはすぐに気付く。ベアトリスはシャーリーが嘲笑の的にならないようマナーや所作を教えてくれていたのだ。 (あれ? ベアトリス様って実はもしかして良い人?) シャーリーはそう思い、ベアトリスと交流を深めることにしてみた。 しかしそんな中、シャーリーはあるベアトリスの取り巻きであるチェスター伯爵令嬢カレンからネチネチと嫌味を言われるようになる。カレンは平民だったシャーリーを気に入らないらしい。更に、他の令嬢への嫌がらせの罪をベアトリスに着せて彼女を社交界から追放しようともしていた。彼女はベアトリスも気に入らないらしい。それに気付いたシャーリーは怒り狂う。 「私に色々良くしてくださったベアトリス様に冤罪をかけようとするなんて許せない!」 シャーリーは仲良くなったテヴァルー子爵令息ヴィンセント、ベアトリスの婚約者であるモールバラ公爵令息アイザック、ベアトリスの弟であるキースと共に、ベアトリスを救う計画を立て始めた。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。 ジャンルは恋愛メインではありませんが、アルファポリスでは当てはまるジャンルが恋愛しかありませんでした。

婚約破棄の『めでたしめでたし』物語

サイトウさん
恋愛
必ず『その後は、国は栄え、2人は平和に暮らしました。めでたし、めでたし』で終わる乙女ゲームの世界に転生した主人公。 この物語は本当に『めでたしめでたし』で終わるのか!? プロローグ、前編、中篇、後編の4話構成です。 貴族社会の恋愛話の為、恋愛要素は薄めです。ご期待している方はご注意下さい。

農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~

可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。

転生した悪役令嬢はシナリオ通りに王子に婚約破棄されることを望む

双葉葵
恋愛
悪役令嬢メリッサ・ローランドは、卒業式のパーティで断罪され追放されることを望んでいる。 幼い頃から見てきた王子が此方を見てくれないということは“運命”であり決して変えられない“シナリオ”通りである。 定刻を過ぎても予定通り迎えに来ない王子に一人でパーティに参加して、訪れる断罪の時を待っていたけれど。険しい顔をして現れた婚約者の様子が何やら変で困惑する。【こんなの“シナリオ”になかったわ】 【隣にいるはずの“ローズ”(ヒロイン)はどこなの?】 *以前、『小説家になろう』であげていたものの再掲になります。

断罪されて婚約破棄される予定のラスボス公爵令嬢ですけど、先手必勝で目にもの見せて差し上げましょう!

ありあんと
恋愛
ベアトリクスは突然自分が前世は日本人で、もうすぐ婚約破棄されて断罪される予定の悪役令嬢に生まれ変わっていることに気がついた。 気がついてしまったからには、自分の敵になる奴全部酷い目に合わせてやるしか無いでしょう。

モブ公爵令嬢は婚約破棄を抗えない

家紋武範
恋愛
公爵令嬢であるモブ・ギャラリーは、王太子クロード・フォーンより婚約破棄をされてしまった。 夜会の注目は一斉にモブ嬢へと向かうがモブ嬢には心当たりがない。 王太子の後ろに控えるのは美貌麗しいピンクブロンドの男爵令嬢。 モブ嬢は自分が陥れられたことに気づいた──。

処理中です...