ラスボス廃棄少女は幸せになりたい

まにゅまにゅ

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第3章 運命に抗え!

第23話 キルーイ=ズラーブ

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「う……」

 眠りから醒めた私はゆっくりと目を開ける。床が冷たい。石床に直に寝かせられたのか。風邪をひいたらどうしてくれる。

「テアちゃん目を醒ました?」
「せん…ぱい?」

 うーん、どうにも頭がすっきりしない。まだ少し眠気が残っている。そのせいか力なくか細い声で返事をしてしまう。

「テアちゃん、どうやら私達騙されたみたいだね……」

 騙された……?
 ゆっくりと身体を起こし、周りを見る。どうやらここは牢屋の中らしい。そして私と先輩以外にも2人の女の子がいた。うん、でじゃぶー。

 牢屋の中は狭いが小さい女の子3人と大人の女性1人であれば余裕のある広さと言える。一応壁の隅に穴があるけど、あれは多分トイレだな。プライバシーの配慮なんて一切ないのか。

 そして少し高いところにある鉄格子からは光が漏れており、この壁の向こうが外であることを教えてくれている。時間は少なくとも夕方にはなってないと思う。

「人さらいに捕まったわけか」

 一度経験しているだけにすぐに状況が理解できた。またですか。思わず私はため息をつく。人身売買の多いことで。

 しかし前とは状況が違う。それは私に戦う力がある、ということだろう。正面からやれば遅れを取るなんてことはそうそうないはずだ。

「テアちゃん随分落ち着いているのね」
「2回目ですから」
「苦労してきたのね……」

 先輩が私を抱きしめる。ふわっといい香りがした。大人の女の香りというやつだ。しかも細いのにそれでいてふくふくであったかい。そんな先輩は結構な美人さんだ。奴隷にされたらいけないことをされるのが目に見えている。

「でも大丈夫ですよ。みんなで逃げちゃえばいいんです」

 私は小声で囁いた。牢屋の外には当然見張りがいるからね。わざわざ警戒させるなんていう舐めプはしない。

「ようお二人さん、目が醒めたかい。自分たちの状況は理解できたか?」

 下卑た口調が後ろから聞こえた。こいつが見張りか。一人ならサクッとぶち倒して逃げればいいかな?

「おじさん、ここどこ? 私達をどうするつもり?」
「ここか? それについては教える気はないな。どうなるかは教えてやるよ。お前達は奴隷として売られることになる。治癒魔法を使える女は高く売れるからな。まぁ使えない女も攫っているが幼女は普通に金になるんでな」

 奴隷……?
 奴隷だと。このままじゃ私原作通りのラスボスにされちゃうかもしれないじゃん。そんなのは断固拒否する。今からでも脱走してやりたいけど私一人じゃないからね。隙を見て脱走してやる。

「……どこに売るつもりよ」
「さぁな。知らない方が幸せかもよ。だが大人しくしていればそれなりの暮らしはさせてもらえるだろうさ」

 こいつの口振り、恐らく原作通り暗殺組織に売るつもりだろう。その組織の名前は確か……。

「ルシフェロン……」

 思わずこの言葉が漏れ出てしまった。
 しまった、これは失敗だ!

「! なんで組織の名前を知っている。お前何者だ?」

 やはり突っ込まれたか。完全に失言だよぉ。答えられない私はそっぽを向き知らない振りをする。

「おい、無視かよ。まぁいい。明日にはこわーい御方が来るからな。覚悟しておけ」

 それだけ吐き捨てると踵を返して見張り用の椅子に再び腰掛ける。

 こわーい御方か。それなりの大物が来るということだろう。暗殺組織ルシフェロンは大きな組織だがゲームの物語ではテアと暗殺組織の首領キルーイ=ズラーブしか出てこない。しかし奴隷を引き連れるのに組織の首領が自ら出張るなど考えにくいか。

 さて、そうなるといつ脱出するかかな。夜でもいいが、ここがどこかわからないのは大問題だ。夜の街に煌々と灯りがあるとは思えないし、それではどこへ逃げればいいかわからなくなる。道に迷って魔物に襲われでもしたら暗闇の中で私一人で戦わなければならないのだ。それではあまりに分が悪いだろう。

 となると明るいうちに逃げるのがいい。明日になればこわーい御方が来る。そんなこわーい御方が一人で来る、なんていうのはあまりに楽観視しすぎだろう。数人は増えるだろうからその前に逃げるべきだ。

 よし、今から逃げる算段をしよう。

 私の神と悪魔の手なら牢屋の石壁を破壊して外へ出ることが可能だ。この壁の向こうが外なのは間違いないからね。壁を壊して逃げれば鉄格子が時間を稼いでくれる。

 そしてここの場所はどこだろう。いくら運ぶのが女とはいえそこまで遠くに運べるとは考えにくい。わざわざ外に誘い出したのだからアジトから近いほうがいいはずだ。

 であれば空からなら街が見えるかもしれない。私の神と悪魔の手を使えば3人くらい運んで空を飛ぶことは十分できる。その間私は戦闘をこなせないけど、空にいるなら大丈夫でしょ。うん、十分上手くいきそうだ。

「みんな、ちょっと集まって」

 私は小声で皆を集める。そしてひそひそと話し合った。もちろん内容はここから逃げる話だ。

「そんなことできるの?」
「大丈夫、任せて。私にはちょっと人とは違う力があるから」
「本当なのテアちゃん。でもそうね、確かにテアちゃんは何らかのスキルを持っているもんね」
「わかりました、お願いします」
「うん、とにかく私に任せて」

 よし、話はまとまった。じゃあ早速実行に移すとしますか。先ずはあの見張りをのしてしまいましょうかね。

「おい、そこで何をひそひそと話している」

 ちょうど見張りが近づいて来た。死なない程度に加減しないとね。殺しちゃったら女の子の教育に悪いし。

「あ、気にしないでください。そんなことよりお兄さん」

 私はニコニコと笑顔を浮かべ、鉄格子を挟んで見張りと向き合う。

「なんだ?」
「ごめーんね」 

 私はニッコリ微笑むと、見えざる手を見張りの傍に喚び出しそのまま殴りつけた。

「ぎゃぶぅっ!?」

 しかし気を失っていない。手加減しすぎたかな?
 ならもういっちょ!
 と思って追撃をかまそうとすると、奥の扉が音を立てて開かれた。

「ほほう、これはなかなか面白い能力を持っているな」

 そして立派なヒゲを蓄えた男が姿を見せる。その軍人のような衣装と鋭い目つきに威厳のある顔立ち。うん、見覚えがある。

 こいつ、暗殺組織ルシフェロン首領のキルーイ=ズラーブだ。
 なんでこんなとこにいるのよ!?

 いや、それよりこいつ、私の神と悪魔の手が視えている!?

「視えるんだ……」

 キルーイはニヤリと口を歪ませた。

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