上 下
24 / 51
第3章 運命に抗え!

第23話 キルーイ=ズラーブ

しおりを挟む
「う……」

 眠りから醒めた私はゆっくりと目を開ける。床が冷たい。石床に直に寝かせられたのか。風邪をひいたらどうしてくれる。

「テアちゃん目を醒ました?」
「せん…ぱい?」

 うーん、どうにも頭がすっきりしない。まだ少し眠気が残っている。そのせいか力なくか細い声で返事をしてしまう。

「テアちゃん、どうやら私達騙されたみたいだね……」

 騙された……?
 ゆっくりと身体を起こし、周りを見る。どうやらここは牢屋の中らしい。そして私と先輩以外にも2人の女の子がいた。うん、でじゃぶー。

 牢屋の中は狭いが小さい女の子3人と大人の女性1人であれば余裕のある広さと言える。一応壁の隅に穴があるけど、あれは多分トイレだな。プライバシーの配慮なんて一切ないのか。

 そして少し高いところにある鉄格子からは光が漏れており、この壁の向こうが外であることを教えてくれている。時間は少なくとも夕方にはなってないと思う。

「人さらいに捕まったわけか」

 一度経験しているだけにすぐに状況が理解できた。またですか。思わず私はため息をつく。人身売買の多いことで。

 しかし前とは状況が違う。それは私に戦う力がある、ということだろう。正面からやれば遅れを取るなんてことはそうそうないはずだ。

「テアちゃん随分落ち着いているのね」
「2回目ですから」
「苦労してきたのね……」

 先輩が私を抱きしめる。ふわっといい香りがした。大人の女の香りというやつだ。しかも細いのにそれでいてふくふくであったかい。そんな先輩は結構な美人さんだ。奴隷にされたらいけないことをされるのが目に見えている。

「でも大丈夫ですよ。みんなで逃げちゃえばいいんです」

 私は小声で囁いた。牢屋の外には当然見張りがいるからね。わざわざ警戒させるなんていう舐めプはしない。

「ようお二人さん、目が醒めたかい。自分たちの状況は理解できたか?」

 下卑た口調が後ろから聞こえた。こいつが見張りか。一人ならサクッとぶち倒して逃げればいいかな?

「おじさん、ここどこ? 私達をどうするつもり?」
「ここか? それについては教える気はないな。どうなるかは教えてやるよ。お前達は奴隷として売られることになる。治癒魔法を使える女は高く売れるからな。まぁ使えない女も攫っているが幼女は普通に金になるんでな」

 奴隷……?
 奴隷だと。このままじゃ私原作通りのラスボスにされちゃうかもしれないじゃん。そんなのは断固拒否する。今からでも脱走してやりたいけど私一人じゃないからね。隙を見て脱走してやる。

「……どこに売るつもりよ」
「さぁな。知らない方が幸せかもよ。だが大人しくしていればそれなりの暮らしはさせてもらえるだろうさ」

 こいつの口振り、恐らく原作通り暗殺組織に売るつもりだろう。その組織の名前は確か……。

「ルシフェロン……」

 思わずこの言葉が漏れ出てしまった。
 しまった、これは失敗だ!

「! なんで組織の名前を知っている。お前何者だ?」

 やはり突っ込まれたか。完全に失言だよぉ。答えられない私はそっぽを向き知らない振りをする。

「おい、無視かよ。まぁいい。明日にはこわーい御方が来るからな。覚悟しておけ」

 それだけ吐き捨てると踵を返して見張り用の椅子に再び腰掛ける。

 こわーい御方か。それなりの大物が来るということだろう。暗殺組織ルシフェロンは大きな組織だがゲームの物語ではテアと暗殺組織の首領キルーイ=ズラーブしか出てこない。しかし奴隷を引き連れるのに組織の首領が自ら出張るなど考えにくいか。

 さて、そうなるといつ脱出するかかな。夜でもいいが、ここがどこかわからないのは大問題だ。夜の街に煌々と灯りがあるとは思えないし、それではどこへ逃げればいいかわからなくなる。道に迷って魔物に襲われでもしたら暗闇の中で私一人で戦わなければならないのだ。それではあまりに分が悪いだろう。

 となると明るいうちに逃げるのがいい。明日になればこわーい御方が来る。そんなこわーい御方が一人で来る、なんていうのはあまりに楽観視しすぎだろう。数人は増えるだろうからその前に逃げるべきだ。

 よし、今から逃げる算段をしよう。

 私の神と悪魔の手なら牢屋の石壁を破壊して外へ出ることが可能だ。この壁の向こうが外なのは間違いないからね。壁を壊して逃げれば鉄格子が時間を稼いでくれる。

 そしてここの場所はどこだろう。いくら運ぶのが女とはいえそこまで遠くに運べるとは考えにくい。わざわざ外に誘い出したのだからアジトから近いほうがいいはずだ。

 であれば空からなら街が見えるかもしれない。私の神と悪魔の手を使えば3人くらい運んで空を飛ぶことは十分できる。その間私は戦闘をこなせないけど、空にいるなら大丈夫でしょ。うん、十分上手くいきそうだ。

「みんな、ちょっと集まって」

 私は小声で皆を集める。そしてひそひそと話し合った。もちろん内容はここから逃げる話だ。

「そんなことできるの?」
「大丈夫、任せて。私にはちょっと人とは違う力があるから」
「本当なのテアちゃん。でもそうね、確かにテアちゃんは何らかのスキルを持っているもんね」
「わかりました、お願いします」
「うん、とにかく私に任せて」

 よし、話はまとまった。じゃあ早速実行に移すとしますか。先ずはあの見張りをのしてしまいましょうかね。

「おい、そこで何をひそひそと話している」

 ちょうど見張りが近づいて来た。死なない程度に加減しないとね。殺しちゃったら女の子の教育に悪いし。

「あ、気にしないでください。そんなことよりお兄さん」

 私はニコニコと笑顔を浮かべ、鉄格子を挟んで見張りと向き合う。

「なんだ?」
「ごめーんね」 

 私はニッコリ微笑むと、見えざる手を見張りの傍に喚び出しそのまま殴りつけた。

「ぎゃぶぅっ!?」

 しかし気を失っていない。手加減しすぎたかな?
 ならもういっちょ!
 と思って追撃をかまそうとすると、奥の扉が音を立てて開かれた。

「ほほう、これはなかなか面白い能力を持っているな」

 そして立派なヒゲを蓄えた男が姿を見せる。その軍人のような衣装と鋭い目つきに威厳のある顔立ち。うん、見覚えがある。

 こいつ、暗殺組織ルシフェロン首領のキルーイ=ズラーブだ。
 なんでこんなとこにいるのよ!?

 いや、それよりこいつ、私の神と悪魔の手が視えている!?

「視えるんだ……」

 キルーイはニヤリと口を歪ませた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

はぁ?とりあえず寝てていい?

夕凪
ファンタジー
嫌いな両親と同級生から逃げて、アメリカ留学をした帰り道。帰国中の飛行機が事故を起こし、日本の女子高生だった私は墜落死した。特に未練もなかったが、強いて言えば、大好きなもふもふと一緒に暮らしたかった。しかし何故か、剣と魔法の異世界で、貴族の子として転生していた。しかも男の子で。今世の両親はとてもやさしくいい人たちで、さらには前世にはいなかった兄弟がいた。せっかくだから思いっきり、もふもふと戯れたい!惰眠を貪りたい!のんびり自由に生きたい!そう思っていたが、5歳の時に行われる判定の儀という、魔法属性を調べた日を境に、幸せな日常が崩れ去っていった・・・。その後、名を変え別の人物として、相棒のもふもふと共に旅に出る。相棒のもふもふであるズィーリオスの為の旅が、次第に自分自身の未来に深く関わっていき、仲間と共に逃れられない運命の荒波に飲み込まれていく。 ※第二章は全体的に説明回が多いです。 <<<小説家になろうにて先行投稿しています>>>

処理中です...