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第3章 運命に抗え!

第24話 大脱走

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「の、能力ってなんだ!?」
「ふむ、君には視えていないのか。素晴らしい、実に暗殺向きの能力じゃないか!」

 やっぱりこいつ視えてる!
 まずいな、神と悪魔の手の最大の強みは見えないことだ。その前提が崩れた状態ではこいつをどうにかするのは多分無理。戦いに生きる暗殺者なんかと渡り合えるわけがない。

「気に入ったぞ。その表情から見て使っているのは檻に一番近い女だな。お前を奴隷として引き取ろう。この私が一人前の暗殺者として育ててやるからな」

 キルーイは目を見開いて歓喜の笑顔を向ける。勘弁してほしい。それだと原作通りのラスボスにされちゃうじゃんか!

 能力があるとわかれば脱走は警戒されるだろう。奴は今から私を引き取るはずだ。つまり逃げるなら今しかない!
 私は急いで手を引っ込め、もう一度召喚し直す。そして壁に向かって複数の悪魔の手で全力で殴りつけた。

 派手な音を立て、壁が崩れる。壁の半分近くが瓦礫と化して大穴が空く。これなら全員で逃げられるだろう。私はすぐさま神と悪魔の手で囚われていた2人の少女と治癒院の先輩を担ぎ、残る手で私を運ばせた。

「わわっ、なになに!?」
「う、浮いてるぅっ!?」
「喋らないで、舌噛むよ!」

 注意を一言で済ませ、私達は壊した壁から外へ出た。ちらりと後ろを見ると、キルーイの奴はそこにいない。牢屋を開けるより回り込んだ方が早いと判断したな。

「飛ぶよ!」
「えええええええ!?」

 ふわりと3人を浮かせ、私も浮かび上がる。空へ逃げれば簡単には追ってこれまい。上空へ上がり、街の方角を確認する。一応見えたけど思ったより遠いな。とにかく街へ逃げ込めばなんとかなるだろう。

「急ぐから暴れないでよ!?」
「は、はい~!」

 皆に再度注意喚起し、街へ向かって飛ぶ。とはいえ、私込みで四人での飛行は気を使う。一応安定した持ち方はできてると思うけど、あまり速度を出すと落としてしまうかもしれない。体感時速50キロかな?

 これが限界だろう。高度もなんとか森の木の上を通れるくらいだ。これ以上は厳しい。

「ムハハハハハ! 空も飛べるとはますます気に入ったぞ」

 うげ、キルーイの奴も空飛んでやがる。なんで飛べるのかわからんないけど、もしかしてそういう魔法があるのかもしれない。

 速度は微妙に向こうの方が上か?
 どうする、速度を上げるか?
 というかそれしか選択肢がないかもしれない。だが問題はある。それは既にキルーイに私達の顔を覚えられているだろうということだ。

 たとえ逃げのびたとしても狙われる危険性がある。深夜に寝込みを襲われたら?
 人質を取られたら?
 私は為すすべもなく捕まり、逃げることもできないだろう。戦うというなら1人じゃ絶対に無理だ。

 今飛んでいるのは森の上だから森に入ってキルーイをまくか?
 いや、それこそ捕まるリスクを増やすだけだろう。森の中に入ってしまえば高速飛行は難しい。速度を落とせば即座に捕まり制圧されてしまうだろう。

「フハハハハハ、そーらもうじき追いつくぞぉ。貴様さえ大人しくするなら他は見逃してやってもいいんだぞ?」

 どうする、ここは従う振りをするべきか。いやダメだ、リスクが高すぎる。そんなもん早々に奴隷にさせられてラスボス待ったなしじゃんか。かといって先輩達を逃さないわけにもいかないし。

 などと思案していると、森を出た平原の道に人影が見えた。ちょっと遠目だがあの鎧の色に男二人、女一人の編成。多分冒険者パーティー風の旅人だ。彼らは確かAランク冒険者だ。彼らと組めばキルーイに対抗できるかもしれない。

 少々浅慮な考えなんだろうけど他にいい考えも浮かばない。こいつを何とかしたいなら逃げるより倒すことを選択した方がベターだろう。なにせ相手は暗殺組織の首領。顔を見られた先輩達を生かしておくとは思えないからだ。

「お断り!」

 一か八か私は速度を上げる。そして風の旅人達の近くを通り過ぎる前に速度を落とし始め、彼らの結構後ろで静止した。うん、人違いじゃなくて良かった。これなら助けを求めやすい。

「先輩達は逃げてください。カインさんお願いします、彼女達を街へ」

 先輩達を降ろし、風の旅人達に助けを求める。アーネスさんとアルスターさんは何ごとかと私に目を向けた。そしてカインさんは迫るもう一つの気配に視線を送っている。

「テアちゃん? こんなところでどうしたの。何かあったのね?」
「説明は後で! ちょっとヤバい奴に追われているの。とにかく彼女達の保護を!」

 アーネスさんが私に気づいて声をかける。申し訳ないけど説明している余裕がない。そうこうしているうちにキルーイの奴も追いつきカインさんと対峙した。

「追いかけっこは終わりかね? あまり手を煩わせないでもらいたいんだがねぇ」
「おいおい、なかなか面倒なものを押し付けてくれるじゃないか……」

 キルーイは余裕のある口調だが目が釣り上がっている。その鋭い眼光に私は怖気おぞけを覚え身震いした。カインさんもキルーイが只者じゃないと感じているようだ。

「そこの冒険者諸君、彼女の知り合いかね? 彼女を差し出せば見逃してやろう。さぁ、彼女の身柄をよこしたまえ」
「お前が何者か知らないけどさ、身柄を差し出せとか明らかに犯罪者だろ。俺は別に正義の味方ってわけじゃねーけど女子供を売り渡す外道になる気はねぇな」

 カインさんが背負っていたリュックを降ろし、剣を抜いて構える。キルーイも腰にぶら下げていた短剣を抜いた。

「アーネス、アルスター。彼女達を街まで護衛してやれ。俺はこいつを抑える」
「わかったわ、死ぬんじゃないわよ。さぁ行きましょテアちゃん」
「いえ、私も戦います。こいつはそれほどにヤバい奴ですから。だから行ってください」

 カインさんの指示でアーネスさんとアルスターが街まで送り届けてくれるらしい。でもそのせいでカインさんに何かあっては困る。それにこれは私の戦いでもあるのだ。戦う力があるのにカインさんに押し付けるわけにはいかない。

「アーネス行こう。今は議論している余裕などないだろう」
「そ、そうね。さ、行くわよあなた達」
「は、はい!」
「テアちゃん絶対に帰って来るのよ」

 先輩達はアーネスさん達と一緒に街へ駆け出す。と同時にキルーイが動いた。

「逃さんよ」
「させねぇよ!」

 キルーイが通り抜けようとするとカインさんがそれを阻止する。カインさんの振った剣は空を切ったが、キルーイが後ろに跳んで回避したことで阻止に成功した。

「なるほど、いい腕だ。久しぶりに戦いを楽しむのも一興か」

 キルーイの奴がニヤリとほくそ笑んだ。
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