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アデリッサの昏い企み2
しおりを挟む良案が浮かんだアデリッサが両手を叩いた。
「マティアス。“魅了の魔法”をもう1度作りなさい」
「一体誰を……」
「決まっているじゃない。シェリに使うのよ」
シナリオはこう。
“魅了の魔法”をかけたシェリが好きになる相手をレーヴに設定する。蛇蝎の如く嫌われている今のシェリが擦り寄れば、愛しいアデリッサを傷付けた相手を許さないレーヴが足蹴りにする。拒否され続けたシェリは最後心を壊し、真っ当に暮らせなくなる。
「そんな……」
シナリオを聞かされたマティアスは顔を青ざめる。残酷な計画を苦労せず思い付くアデリッサに得体の知れない恐怖を抱いた。
第2王子に魅了を使えと命令された時は冗談じゃないと反対した。バレれば、魔法使用者であるマティアスも無事では済まない。禁忌指定される魔法は使用しようとした時点で重罪だ。
父である公爵に溺愛され、大変我儘に育ったアデリッサから暴力と暴言の嵐を受け、渋々引き受けた。
自身に魔法の才能があって良かったと感謝した日はない。
極めて緻密な魔力操作を必要とする“転換の魔法”は、相手の気持ちの方向を変える。対象はレーヴとシェリ。長年婚約している2人の仲の悪さは毎日アデリッサから聞かされていた。レーヴのシェリへの嫌いな感情をアデリッサに向けさせ、更に性質“増幅”を付加することで世界で最も第2王子に嫌われる女が誕生する。
……筈だったのに、思惑は木っ端微塵となった。
前提だったレーヴのシェリへの気持ち。嫌いどころか、人が変わる熱愛を秘めていたと誰が想像する。魔法実行日、戻ったアデリッサに凄まじい罵倒と暴力を覚悟していたマティアスは恋する乙女の顔で褒められ鳥肌が立った。
シェリへの愛情は“転換の魔法”によってアデリッサへと向けられ、効果を“増幅”させたせいで初日から恋人同士になってしまった……。
――ああ……ぼくは……なんてことを……
“転換の魔法”に解除方法はない。
レーヴがアデリッサを嫌う日は来ない。
レーヴがシェリを再び好きになる日は来ない。
遠目でしか見たことのないシェリ・オーンジュ。亡きオーンジュ公爵夫人譲りの波打つシルバーブロンドに妖艶な紫水晶の瞳の、美の女神が創り上げた最高傑作の美少女。
「……わかり、ました。お嬢様の命に従います」
「ふん、最初から素直に従っていればいいのよ」
力なく項垂れるマティアスを見下ろす栗色の瞳に激情はもう宿っていない。下がりなさい、と命じられ退室した。力ない足取りでマティアスは願う。遠くない日に必ず露見する。あのヴァンシュタインの秘宝を目に宿すミエーレが逃す筈がない。
そうなったら抵抗はせず、積極的に捜査に協力する。命令されたといえど、魔法の使用者は自分なのだから。
――ごめん……マリー……
犯罪者の烙印を押されるであろうマティアスには、もう最愛の人と会える機会は……訪れないだろう。
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