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アデリッサの昏い企み1
しおりを挟むピンク色で統一された可愛らしい部屋にて。役立たず、役立たず、と罵られ、何度もクッションでアデリッサに顔を攻撃される男性がいた。
半年前、アデリッサの従者となったマティアス。サラリとした茶髪に柔らかなクッションで叩かれても痛みはなくても、紡がれる言葉の刃が体に刺さり消えない傷を負っていく。
「あんたが役立たずのせいでミエーレ様やシェリにバレてしまっているじゃない!!」
「っ、お嬢様、あまり大きな声を出されては」
「誰のせいだと思ってるのよっ!!」
大きく振り上げた腕を勢いよく振り下ろした。だが、武器はクッション。大した痛みは与えられてない。
息を荒げ、床に跪くマティアスを見下ろすアデリッサの栗色の瞳から激情が薄まっていく。大声を上げ続けたら、誰かしら駆けつける。此処に第3者が来るのは拙いと理解しているアデリッサはクッションを床に放り投げてソファーに座った。
昼間、シェリの追及から逃れるべく咄嗟に被った熱々のトマトスープで負った火傷は小さく、レーヴに保健室に連れて行かれ治療されると完治した。
落ち着くとシェリにトマトスープを掛けられたと泣き付いた。レーヴに愛される自分が疎ましくて、妬ましくて仕方ないのだと。分かっている、分かっていると怖がるアデリッサの体を労るようにレーヴは何度も撫でてくれた。
この時はレーヴに心配され、更に額にキスを貰ったことで幸福に浸った。
迎えの馬車に乗せられた時、彼は放課後シェリと話し合うと言う。その場にミエーレを同席させるとも。
アデリッサは必死に止めた。
『お願いです殿下! わたくしは大丈夫です、ですからもうシェリ様に関わらないでください……!』
『何を言うんだ。君をこんな目に遭わせたシェリを僕は許せない。きっちりと罪は償ってもらわないと。第一、公爵令嬢だからといってなんでもしていいわけがないんだ』
レーヴは安心させようとアデリッサの額に再びキスをしてくれた。待ち望んだ愛しい人の口付けに蕩けてしまう心に流され、結局止められなかった。
屋敷に戻り、マティアスの顔を見ると焦りと怒りを思い出し気が済むまでクッションで殴り続けた。
「シェリが気付いていたってことは、絶対にミエーレ様の力よっ……ヴァンシュタイン家の天才に気付かれるなんてっ」
「ぼくは最初に言いました。学院にはミエーレ様がいるから、絶対に止めた方がいいと」
「お黙り! 優秀な魔法の才能があるからと聞いて引き抜いてやったのに……!」
親指の爪を噛みながら次の対策を練る。
“魅了の魔法”の解除方法は【聖女】の扱う神聖魔法しかない。ミルティーが未だ未熟といえど、努力家で才能もある彼女ならいずれレーヴにかけた“魅了の魔法”を解いてしまう。危険を冒してまで手に入れたレーヴの恋人の座。絶対に手放したくない。
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