行動あるのみです!

文字の大きさ
上 下
51 / 81

アデリッサの昏い企み1

しおりを挟む


 ピンク色で統一された可愛らしい部屋にて。役立たず、役立たず、と罵られ、何度もクッションでアデリッサに顔を攻撃される男性がいた。
 半年前、アデリッサの従者となったマティアス。サラリとした茶髪に柔らかなクッションで叩かれても痛みはなくても、紡がれる言葉の刃が体に刺さり消えない傷を負っていく。
 
 
「あんたが役立たずのせいでミエーレ様やシェリにバレてしまっているじゃない!!」
「っ、お嬢様、あまり大きな声を出されては」
「誰のせいだと思ってるのよっ!!」
 
 
 大きく振り上げた腕を勢いよく振り下ろした。だが、武器はクッション。大した痛みは与えられてない。
 息を荒げ、床に跪くマティアスを見下ろすアデリッサの栗色の瞳から激情が薄まっていく。大声を上げ続けたら、誰かしら駆けつける。此処に第3者が来るのは拙いと理解しているアデリッサはクッションを床に放り投げてソファーに座った。
 昼間、シェリの追及から逃れるべく咄嗟に被った熱々のトマトスープで負った火傷は小さく、レーヴに保健室に連れて行かれ治療されると完治した。
 落ち着くとシェリにトマトスープを掛けられたと泣き付いた。レーヴに愛される自分が疎ましくて、妬ましくて仕方ないのだと。分かっている、分かっていると怖がるアデリッサの体を労るようにレーヴは何度も撫でてくれた。
 この時はレーヴに心配され、更に額にキスを貰ったことで幸福に浸った。
 迎えの馬車に乗せられた時、彼は放課後シェリと話し合うと言う。その場にミエーレを同席させるとも。
 アデリッサは必死に止めた。
 
 
『お願いです殿下! わたくしは大丈夫です、ですからもうシェリ様に関わらないでください……!』
『何を言うんだ。君をこんな目に遭わせたシェリを僕は許せない。きっちりと罪は償ってもらわないと。第一、公爵令嬢だからといってなんでもしていいわけがないんだ』


 レーヴは安心させようとアデリッサの額に再びキスをしてくれた。待ち望んだ愛しい人の口付けに蕩けてしまう心に流され、結局止められなかった。
 屋敷に戻り、マティアスの顔を見ると焦りと怒りを思い出し気が済むまでクッションで殴り続けた。
 
 
「シェリが気付いていたってことは、絶対にミエーレ様の力よっ……ヴァンシュタイン家の天才に気付かれるなんてっ」
「ぼくは最初に言いました。学院にはミエーレ様がいるから、絶対に止めた方がいいと」
「お黙り! 優秀な魔法の才能があるからと聞いて引き抜いてやったのに……!」
 
  
 親指の爪を噛みながら次の対策を練る。
 “魅了の魔法”の解除方法は【聖女】の扱う神聖魔法しかない。ミルティーが未だ未熟といえど、努力家で才能もある彼女ならいずれレーヴにかけた“魅了の魔法”を解いてしまう。危険を冒してまで手に入れたレーヴの恋人の座。絶対に手放したくない。
  
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

紡織師アネモネは、恋する騎士の心に留まれない

当麻月菜
恋愛
人が持つ記憶や、叶えられなかった願いや祈りをそっくりそのまま他人の心に伝えることができる不思議な術を使うアネモネは、一人立ちしてまだ1年とちょっとの新米紡織師。 今回のお仕事は、とある事情でややこしい家庭で生まれ育った侯爵家当主であるアニスに、お祖父様の記憶を届けること。 けれどアニスはそれを拒み、遠路はるばるやって来たアネモネを屋敷から摘み出す始末。 途方に暮れるアネモネだけれど、ひょんなことからアニスの護衛騎士ソレールに拾われ、これまた成り行きで彼の家に居候させてもらうことに。 同じ時間を共有する二人は、ごく自然に惹かれていく。けれど互いに伝えることができない秘密を抱えているせいで、あと一歩が踏み出せなくて……。 これは新米紡織師のアネモネが、お仕事を通してちょっとだけ落ち込んだり、成長したりするお話。 あるいは期間限定の泡沫のような恋のおはなし。 ※小説家になろう様にも、重複投稿しています。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…

ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。 王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。 それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。 貧しかった少女は番に愛されそして……え?

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

処理中です...