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ミエーレの誘惑3
しおりを挟む呆れて物が言えない、とはこのこと。
でも、巫山戯ているようにも見えない。長年の付き合いから、他人では分かり難いミエーレの真剣な時は不敵な笑みを浮かべる。ミエーレなりにレーヴを助けようとしているのがシェリに伝わる。
「そうね……でも、わたしと殿下の婚約解消を誰も知らないから、逆にわたしもミエーレと浮気してるって思われないかしら?」
「元々おれとシェリは小さい頃から付き合いがあるんだ。狭い貴族社会でそれを知らないのは、噂に疎い奴か引き篭もりくらいだよ」
「それもそうね」
度を越した仲の良さを見せ付けるのは駄目だが、昔馴染みらしい許容範囲でなら周囲も下手な勘繰りはしないだろう。
話し合いはこれで終わり、ミエーレとシェリ、ヴェルデとミルティーで分かれた。
ちらっとシェリはヴェルデとミルティーの後ろ姿を見た。あの2人には適切な距離感しかないが、ミルティーが積極的にヴェルデに話し掛ける光景を見てもしやと抱く。
自分の勘違いのせいで振り回してしまった2人に罪悪感を抱かない日はきっとない。今度、ヴェルデにもミルティーと同様の話をしなければ。
「シェリ」
後ろばかりを気にしていたのでミエーレの声に驚いた。
「どうしたの」
「いえ。ヴェルデ様とミルティー様を見てただけよ」
「気になる?」
「そうでもないわ」
図書室で話し合いを始めて時間が経過しており、残っている生徒は殆どいない。眩しい夕焼けが学院の廊下に注がれる。
「ミエーレは“転換の魔法”を使えるの?」
「使えるよ」
「使えない魔法があるのか疑問だけれど」
「おれにだってあるよ」
高等魔法を使えるアデリッサの従者は、彼女が取り巻きから奪った。ヴェルデが後日令嬢に接触し、結果を聞く段取りとなっている。
校舎を出て、校門へ向かう。シェリは馬車を遠慮したので歩いて帰る。ミエーレはそれを聞き、自分も歩いて帰ると言い出した。
「馬車が待っているでしょう」
「偶には自分の足で帰るのも悪くないかなって」
シェリもそう思っている。これからは月に1度か2度は歩いて帰ることにした。
校門に近付くと誰かいた。夕焼けに照らされ光る青銀の髪を見間違えない。
――レーヴとアデリッサがいた。
「殿下! 今日は失礼しますね!」
「ああ。気を付けてお帰り」
「はい! ……あ」
心の痛みはまだまだ消えてくれない。恋してると一目瞭然の光景なレーヴとアデリッサ。アデリッサがシェリとミエーレに気付くとレーヴも倣った。2人一緒にいるところなど、例え彼が魔法にかけられている被害者だと知りながらも心は悲鳴を上げる。表情は恐怖に怯えながらも、口元はシェリへの嘲笑を忘れないアデリッサに吹き出したのがミエーレだ。
「器用だねナイジェル嬢。口が面白い」
「!」
「口?」
慌てて口元を変えたアデリッサ。レーヴは何のことだと言わんばかりの顔。そして、殿下ぁと声を上げて胸に飛び込んだ。
「ミエーレ様が意地悪をしますっ、それにシェリ様も……怖い顔で……」
怖い顔はしてない。普通と同じ。怖く見えるのは生まれ持ってのもの。ミエーレは真実意地悪である。
本当ならレーヴの隣にいられたのは自分なのに、安心させるように慰められるのは自分だった筈なのに。どす黒い感情が胸に渦巻く。
公爵令嬢として、第2王子の婚約者だった意地がシェリを冷静にと諭す。深呼吸をし、気持ちを落ち着かせると先を行こうとミエーレに促した。
2人の横を過ぎ去る辺りで「殿下。失礼しますわ」と頭を垂れた。
「待て」とレーヴに鋭い声で呼び止められた。
「アデリッサもいるのだぞ。お前は昔から僕のアデリッサを敵視しているが挨拶くらいしたらどうなのだ」
「……」
“転換の魔法”は認識すら転換されるみたいで。レーヴの言うそれは逆。アデリッサが常にシェリを敵視していた。隠れて馬鹿にする笑みを向けるアデリッサを無視し、堂々とレーヴに言い返した。
「そうだとしても殿下には関係ありませんわ。わたしとアデリッサの問題ですので。それに、です。関わるだけ時間の無駄になる相手に割く時間がある程、わたし、暇じゃありませんので」
「なっ!」
直球で相手をする価値がないと言われ、絶句するアデリッサだが見る見る内に顔を赤く染めていく。折角レーヴの心を手に入れて有頂天になっているところだろうが、シェリに容赦をするつもりは一切ない。
レーヴの顔色が険しくなった。
「アデリッサに謝るんだっ」
「嫌ですわ。何でしたら、第2王子殿下が慰められては?」
「っ」
まただ。
殿下、第2王子殿下と他人行儀に呼ぶだけでレーヴは苦しそうに顔を歪める。冷たい態度を取るシェリも辛い。早く立ち去るにはどうするか……すると、ミエーレが「殿下」と前に出た。
「おれとシェリは急いでいるので今日はこの辺で」
「あ、ああ」
「帰ろう。シェリ」
「……ええ」
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