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試練
乗り越えるべき壁
しおりを挟む気付けば夏休みも残り1週間…なのに私は宿題も終わらず部屋に引き篭っていた。始めはバイト先にも顔を出していたが、スバル先輩の死を見てからは失敗やボーッとする事が増え、レグリーが休業を与えてくれた。
それからは誰の連絡も返す気にならなくて、健人の方が辛い筈なのに私はレグリーにすら会う事を拒んでいた。
「私…何をしたら良かったの?」
そんな問いを電源の切れた携帯に問い掛けたところで答えは返ってこない。
締めっきりのカーテンと少し埃っぽい部屋にはコンビニパンの袋が散らかり、まともな食事も摂っていない私は今日もベッドの中で丸くなり、携帯の電源を入れてみる。
するとレグリーや隼人達から多くのメールや着信の通知が届き、未だに心配してくれているらしい…正直に言えばウザイ。そんな事を思ってると見過ごせない通知を目にした。
【莉緒、明日祭り行くよ!明日の15時までにに返信無かったら家に押入るからね!】
という葵からのメール。
私が仕事も行かず引き篭ってる事で、父親の機嫌は最悪だってのに…家に来られるのはマズイ。そう思った私は仕方なく「行く」と返信を返した。
翌日。
私はドタキャンするつもりだった。
最低なのは分かってるけど、誰かと話す気分にもなれない。今まで居た人が…笑って話していた人がこの世界の何処にもいない。もっとしてあげれた事は沢山あったのに…
そんな事を考え、今日も布団に潜り込んでいるとレグリーは私を迎えに来てしまう。
「莉緒、入るぞ」
ノックもせず声掛けと同時にドアが開いた。私がムクっと身体を起こすと、レグリーは締め切っていたカーテンを開け始める。
「眩しっ…もう入ってるじゃん」
「返信くらいしろよ。心配すんだろ」
「……」
「またコンビニ飯か…せっかく肉ついたのにまたガリガリじゃねぇか。また倒れんぞ?」
「…ほっといて」
「放っておけねぇだろ、水分は摂ってんのか?」
「関係ないじゃん…」
…最悪。
こんな事言いたいんじゃないのに私…絶対に酷い顔してる。私が布団を抱き締めていると、レグリーは手作り弁当を机の上に広げて「とりあえず飯を食え」って大きな手で私の頭を撫でてくれた。
「…レグリーは、綾城は辛くないの?」
「あ?」
「だって教え子だったでしょ?仲も良かったのに、何で平気なの?レグリーが綾城だって話してたの私聞いたよ…教えてよ。隼人と葵も健人も…何で笑えるの?」
「…お前、あの時起きてたのか」
「うん」
「そうか…」
「…私、先輩に何も出来なかった」
「そんな事ねェだろ。少なくともアイツは、話が出来る奴が、お前が居て雰囲気変わった。前向きになったの莉緒のおかげだ」
え?私のおかげ?
「お前と話してた時のアイツは、いつも目を輝かせていた。俺が面会言った時も莉緒は来ないのかって話多かったぞ。まぁ正直妬けたがな」
「え、1人でも面会行ってたの?」
「まぁな」
「そっか…でもなら何で平気なの?」
「誰も平気なんかじゃねぇよ…けど俺らは生きてる。前を進まなきゃならない…それに今のお前を見てスバルは喜ぶと思うか?莉緒がアイツにしてやれる事は、ちゃんと前向いて生きてやる事だ」
生きる…そっか。私は自分の事ばっかりで皆に気を使わせて、スバル先輩ならきっとこんな時でも明るくて…みんな乗越える為に前を向いて生きてるんだ。逃げてたのは…先輩の為にとか言って、1番分かってなかったのは私なんだ…。
「ねェレグリー…」
「ん?」
「ハグしたい…」
「ん」
私の言葉にレグリーは短く返事をしてベッドに腰かけた。そして逞しい身体で私を包み込めば、何も言わず抱き締めて居てくれた。その温もりに私は声を出して泣いてしまう。
暫くして泣き止めば、レグリーから離れ机の上に置かれた私の好きな手作りハンバーグに目を向けた。
「冷めちまったが飯食うか?」
「うん…いい匂いする」
「まぁこの俺が手間隙かけたからな」
「実は面倒臭い?」
「当たり前ェだろ、誰が好き好んで朝から手の込んだもん作りたがんだよ」
「へへっ流石、世界一面倒くさがり綾城…じゃあちゃんと食べてあげるね?ありがとう」
「おう」
少し冷めたハンバーグでも、凄く柔らかくて…久しぶりにまともな食事をした私は、やっぱりレグリーの手作りご飯が1番好きだと身に染みた。
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