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Prolog
しおりを挟むーーーーーーピピピピッ
カーテンの隙間から日差しが差し込む朝6時。
最大音量で鳴り響く目覚ましは、白で統一されたシンプルなベットに眠る私の耳と脳に激しい刺激を与え、重たい瞼を擦りながら手探りでその耳障りな時計を掴んだ。
「んぅ…もう6時か…」
音を止めると部屋の中はシーンっと静まり、時計の針を確認した私は大きな欠伸をしながらベットから降り、小さなテーブルの上に置かれたレジ袋の中からガサゴソと昨日買ってあった菓子パンと牛乳を1つ取り出した。
4畳半の小さな部屋。
ベットのおかげで狭く感じるが、必要最低限しか物を置かなければ不便を感じない。
女の子らしいものなど無く綺麗に片付いた部屋で朝食の菓子パンを齧っていると、目の前のドアに掛けられた高校の制服が目に止まる。
「今日から高校か…」
華の高校デビューなんて、私には縁遠い話だ。
そもそも上手くやれる自信もない。
世間からは不良と呼ばれる部類だと自覚してるし、そもそもコミュニケーションが大の苦手だ…。“クール”なんて言葉で片付けられては居るけど、正直言えば私が固まってぶっきらぼうになってしまうだけ。
愛想なんてものは、幼い頃に死んだ母親の腹の中に忘れて来たのかもしれない。
食事を終えれば、小さなテーブル横に置かれたボックスからメイクポーチを取り出し顔面偏差値を上げる努力をする。これは別に誰かにモテたい訳ではなく、ただの趣味だ。
気分に合わせて様々な色や形になるのは、とても楽しく結果も出やすくて好き。
一通りメイクを終えると、制服の袖を通して誰に挨拶する事も無く、新しい高校生活に不安を抱いたまま玄関の扉を開けた。
「おはよ莉緒!って制服で走るのか?」
家の前で私を待っていたのは、幼馴染の坂島 隼人。
中学で隼人がサッカー部へ入った日から、毎朝6時半にジャージ姿で迎えに来て一緒にランニングしている。
何かと私を気にかけてくれる良い奴だ。
入学式の今日も変わらずジャージ姿で私に笑顔を向けているが…入学式にジャージ登校とは聞いた事がないぞ。
「入学式あるし、体操服で登校ってどうだろって思ったんだけど…」
「まぁ確かに、それもそうだな」
明るく笑って答えた隼人だけど、自分がジャージ姿な事は特に気にもしてないみたい。
私はそんな彼と共に走り始めれば、いつもの様に片耳にイヤホンをして、いつも通り決まったラジオニュースを流し始める。
この、何気ない時間が好きだ。
気兼ねない友人と会話も無く過ごす一時。
人の少ないこの時間の空気はとても綺麗で、気持ち良くて私の癒しの一つになってるんだ。
しばらく隼人と走っていると、もうすぐ学校という所でイヤホンから女性アナウンサーの甲高い声が聞こえて来た。
【今日のゲストは、なんとッ!!
元世界的大スター“レオ・グリシヤ”さんの妹
“ミア・グリシヤ”さんです~どうぞ!】
「……ねぇ、隼人」
「ん~ッ?何?」
少し前を走っていた彼は、私の呼び掛けに気づくとスピードを緩め私の隣へとやって来る。
「レオ・グリシヤって誰?」
隼人は大の映画ファン…いや、オタクだ。
芸能に全く興味のなかった私と正反対…けどら彼までは行かずとも、クラスに馴染むためには先ず芸能情報は理解しとく必要があるかもしれない。
私が問い掛けると、彼は一気に目を輝かせ長々と饒舌に答え始める。
「あッその人、大ファンだった!世界で活躍する映画俳優だったんだけど、一昨年くらいかな?引退しちゃった大スターだよ。凄い実力俳優だったのに突然引退して、今は日本に居るんだってさ。まだ30代でこれからなのに勿体ないよな?え?何で?ラジオ出てるの?」
食い付きが凄い…
さすが映画オタク……
「ううん、妹だって」
そう答えると隼人は、その妹について熱く語り始めたが、私は着いて行けない細かい情報より、単純に話題に成りやすいラジオの方へ耳を傾ける事にする。
【では、レオとは連絡取ってないの?】
【はい。兄が成人して直ぐに離れたので、今何してるのかも分かりません】
【そうなんですね!えぇ、では今回の出演映画についてですがーーーーーーー】
音信不通の兄妹か…
どんなに輝いたスターでも、家庭事情は色々ある物なのね…。
応援ありがとうございます!
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