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第61話 買収成功
しおりを挟む「あー、その俺たちは……」
「見慣れない服装だな? 侵入者か!? 」
青年の語尾がどんどん強くなっていく。
あー、めんどくさい奴に捕まったな。と俺はため息をつく。そして一つの疑惑が浮かんだ。ここまで愛国心の強いやつのことだ、買収なんて通用するのだろうか?
……まあどちらにしろこのままでは人を呼ばれて捕まって終わりだ。賭けてみるしかない。
俺は愛用のカバンに手を突っ込むと、金属の感触を感じた後、一気に手を引き抜いた。
カツンという高い音を立てて、お金が散らばる。その途端、確かに青年の瞳が揺れたのが分かった。
「……これで黙っていてくれないか? 」
「……なっ!? 」
僅かな沈黙の時間は迷っていたのだろう。青年は少し遅れて返事をした。
「か、か、金で買収されるものか! 俺は帝国に命を捧げた身。姑息な真似は通用しない! 」
「そうか……」
そして俺はもう一つまみ金貨を追加する。
「これでも、駄目か? 」
ごくりと青年が唾を飲み込む音が聞こえた。
そこから先は言わなくても想像がつくだろう。
金の魔力に負けた青年は、俺たちを見逃すことにしたのである。
◇◇◇
青年は一先ず俺たちを自分の家に匿ってくれるらしい。愛国心はどこへやら、ほくほくした顔でお金を数えている。
青年の家は独り暮しらしく、かなり質素な作りだった。いや、というより何も物がないという方が正しいか。
「俺はロッカだ。君たちは? 」
「俺はヨリ。こっちはシエルだ」
シエルがぺこりと小さくお辞儀をする。ロッカを警戒しているのか、俺に張り付いて離れない。
「ヨリとシエルね。親子か? あまりに似てはいないが……」
「まあそんなもんだ」
ふーんとロッカは不思議そうにじろじろと俺たちを見たものの、追及するのも野暮だと思ったのか、すぐに視線を逸らした。
「それにしても、随分と金持ちなんだな。貴族のお忍びかい? 」
「そんなところだな」
いくら匿ってくれたとはいえロッカを全面的に信頼することは出来ない。何かの拍子に密告されることだって考えられるからだ。
「ま、そうほいほい話せないよな。俺のことなんか信用できないだろうし」
ロッカはうんうんと頷く。
俺は少しだけ目を見開いた。まさかロッカがそこまで考えているとは思わなかったのだ。
「悪いな、こっちにも事情があるんだ」
「俺は金さえ貰えれば構わないさ。この国がどうなろうと、帝王がどうなろうと知ったこっちゃない」
そう言うロッカからは先程までの正義の兵士のような雰囲気は消え失せていた。
「それはまあ随分と……あまりこの国が好きではないのか? 」
そりゃそうだよ! と食いぎみに答えるロッカ。
「どんなに働いても貧乏な暮らしは変わらないし、帝王の一言で黒いカラスも白いってことになっちまうような国。かと言って外に出ようにも金のない貧乏人はそれさえ叶わない」
まるで動物園の檻だよここは。とロッカはうんうんと頷く。
「酷いな……王ってのは酷いやつなのか? 」
「今のアルノーヴァ帝かい? 確かに若くして王国と同盟を結んだり有能ではあるね。ただ俺は何を考えているのか分からなくて苦手だな」
「へえ、帝王ってのは若いのか」
「若い若い。多分ヨリさんと同じぐらいじゃないかな? 長い銀髪で……いつも笑顔の薄気味悪いやつだよ」
銀髪……? 笑顔……?
そういえばシエルに触れたとき、一度だけ神眼が発動した。そのときに見たのが確か、そんな特徴を持った男だったような……。
「まずいな……」
そうすると俺は自分からシエルを連れてきてしまった。もし帝王がシエルを狙っているのかもしれない、すると今の状況はかなり危険だ。
「ヨリ……? 顔色が……」
シエルが声をあげる。
「いや、大丈夫だ」
俺はただ笑って誤魔化した。シエルを不安がらせてはいけない。俺が彼女を守らなければいけないのだ。
「もし君たちが帝王の暗殺なんかを企んでるならやめといた方が良いぜ。なんせ怖くて強い護衛が常にくっついてるからな」
「護衛? 」
王の護衛ともなるとそれは相当屈強な男なのだろう。
「ありゃもう狂ってるね。戦うことしか考えてないやばいやつらさ」
「奴等ってことは複数いるのか!? 」
ああ、とロッカが頷く。
「男女一人ずつ。少し前はもう一人いたんだが……最近の姿を見ないな。もしかしたら逃げたのかもしれん」
「そうか……まあ俺たちは別に暗殺がしたい訳じゃないけどな」
「そうかい、それは余計なお世話だったな」
カラカラと笑うロッカ。
しかし裏を返せばこれはロッカの願いなのだろう。
ーー帝王の失脚
きっとそんなことが起きればこの国は変わってしまう。
いや、それほど帝王の力が強いと思った方が正しいか?
俺はロッカの話を聞きながら、深く考えていた。
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