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第60話 潜入大作戦!
しおりを挟むミシェルの尽力で帝国に行けることになった俺たち!
しかし人数に制限があるらしく、行けるのは俺とシエルの二人だけということだ。
ルーナが瞳を涙で潤ませながら、絶対に帰ってきてね。と何度も何度も言っていた。
俺とシエルはその度に強く頷いたのだった。
「……それで、俺たちは荷物に成り済ませと言う訳か」
「熱いよー」
ミシェルの引く馬車の荷物として紛れ込む俺たち。
「仕方ない、流石の私も二人分の身分証を用意するのは難しいからな」
俺たちのぼやきを聞いたのか、ミシェルが返した。
「いやありがたい。荷物として入った方が自由に動けるからな」
「あんまり目立つことはするなよ、どうなるか分かったもんじゃないからな」
「ああ、探している人を見つけたらすぐに脱出するさ」
すると覆われた幕ごしに、ミシェルがしっと声をあげた。
「……そろそろ門だ。良いか? 声をあげるなよ」
「ああ」
「うん! 」
カラカラという車輪が回る音が止まり、微かに話し声が聞こえてきた。俺たち二人もじっと息を潜め、呼吸音一つ立ててはいけない。
「……何奴だ」
男の声。おそらく門番だろう。
「ガルダシア王国騎士のミシェル=ユグドラスだ。王からの品物を届けに来た」
「王からの……? そんな話は聞いていないが」
「ふむ、極秘の品物だからな。聞いてなくても無理はないだろう」
よくもまあいけしゃあしゃあとこんな嘘が出てくるものだ。ミシェルはすらすらとまるで台本を読むかのように言葉を続ける。
「中身を確認しても? 」
ま、まずい!
カバーを取られたら俺たちの存在がバレてしまう。
流石のミシェルも焦りを見せたのか声が少しだけ震えた。
「それは出来ない。何せ私も品物を見ていないのだ。ただ何かしらの兵器とは聞いている」
「兵器!? 」
男の裏返った声が響いた。
相当驚いたようだ。
「もしかしたらカバーをとることで発動する兵器なのかもしれない。だからそれはご遠慮願いたいな」
「あ、ああ。そうだな。確かにそれはやめておいた方が良さそうだ。よし、良いぞ。通るが良い」
よっしゃ、と小さくガッツポーズをする俺たち。
「ありがたい。それじゃあ失礼するよ」
そして凛とした態度のまま足を進めるミシェルが、これまでにないほど頼もしく見えた。
◇◇◇
「んー! 外だ! 」
荷物として潜入に成功した俺たちは、人気のない路地裏でようやく解放された。
長らく荷台で縮こまっていたからか全身が痛む。
「私に出来るのはこのまでだ。後は頼んだぞ」
ミシェルがふうとため息を吐いた。
「本当にありがとう。ミシェルがいなければ入れなかったよ」
「ふふ、私もこんなスリルを味わったのは初めてだ」
「ありがとう! 」
シエルがぱぁっと笑う。
それを見たミシェルは彼女の頭にぽんと手をあてた。
「シエルちゃんも無理するなよ。君はまだ子どもなのだから、危険なことがあったらすぐに逃げろ」
「うん! 」
「あとあまりその角は晒さない方が良い。帝国で獣人というのはかなり目立つからな」
分かった! と答えたシエルはいそいそとフードをかぶり始めた。……うん、確かにちょっと不自然さはあるがまあ誤魔化せるレベルだろう。
それを確認したミシェルは、俺の方に向き直ると頷いた。
「じゃあ私はもう行く。あまりここに留まると疑われるからな。君たちもしばらくしたらここを離れた方が良い、正直バレるのも時間の問題だ。急いだ方が良い」
「すまない、ありがとう。ミシェルの立場は大丈夫なのか? 」
「ふ、そんなもの気にしない。リュイの病が治すことが出来たからもはや仕事への執着はないさ」
そう答えたミシェルはでは、と短く挨拶をすると、背筋をぴんと伸ばして去っていった。
その姿をしばらく見届けた俺たちは今後どうしようか話し合いを始めた。
「……そもそもここはどこなのだろうな」
「分かんないね。でも何か……この国、変」
おそらく俺たちが下ろされたのはどこかの路地裏だ。ゴミで溢れていて酷く臭い。
しかし王国と違うのはあまりに人気がないことだ。そして野良猫や虫、ネズミすら見かけない。
まるで全ての生命体が死に絶えてしまったような錯覚を覚える。
「俺の予知だと、サクヤは地下牢みたいなところにいたな。そうすると……城か? 」
「牢獄がありそうなのはやっぱりお城ですね」
シエルもうんうんと頷く。
物陰から顔だけ覗かせると、立派なお城が奥の方に見えた。おそらくそこに帝王(とでも言うのだろうか? )がいるのだろう。そうするとその近くか?
「誰だ!! 」
そのとき、鋭い声が響いた。
まずい、もうバレたか!?
咄嗟に振り向くと、そこには兵士のような格好をした男がいた。年齢はおそらく二十歳そこそこだろうか? まだ幼さが残る青年だ。
青年はつかつかと槍のようなものを携えてこちらに向かってくる。
「君たち、見慣れないな? 何者だ? この時間、民は出歩き禁止のはずだ」
「ええ……とその」
何と言えば良いか? いや、下手なことは言わない方が良いか?
そして俺の頭の中に一つの結論が思い浮かんだ。
ーーそうだ、買収だ。
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