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第36話 今さらギルド
しおりを挟む俺のちっぽけな頭ではこの世界の神話のことなんて分かるはずもなく、かと言ってミシェルに動きもないまま、平和な日々をシエルと過ごしていた。
一応俺の使い魔(と言って良いのか分からんが)は無事にリュイを見つけており、監視もばっちりだ。
ああ俺はプライバシーを守る男なので風呂やトイレなどは見てないぞ。
そして俺はいつか来るかもしれないし日のために、魔力を回復するアイテムを大量に買い込もうと外に繰り出した。
以前使った妖精羽の雫の回復量では50本も飲まなければ魔力を補えなかった。もっと回復量が多いアイテムがあれば良いのだが……。後願わくば美味しいと嬉しい。
「うーん、もっと遠くの町に行かなきゃないかなぁ」
辺りに立ち並ぶお店の品揃えを見ながら、俺はそう呟く。
「遠くの町? 行ってみたいです! 」
キラキラと目を輝かせるシエル。
そういえば他の場所に行ったことなかったな。ずっと家と近所をうろつく日々もどうかと思うので今度どこか連れ出してみるか。
「いつかな。ま、取り敢えずは妖精羽の雫で良いか……ないよりはマシだし」
すいませーんと俺は店員に声をかける。
「いらっしゃい。何をお求めで? 」
「妖精羽の雫、99個下さい」
「はいはい、いつもありがとうね」
道具屋のおっちゃんも流石に馴れたようで、淡々と商品を俺に手渡していく。最初の頃は気絶する勢いで驚いていたこの人だが、今はもう当たり前になっているようだ。
「ん、この豪傑の護符ってのはなんだ? 」
「ああそれは、所持者の体力をちょこっとだけ上げてくれるアイテムですよ。微々たるものですがね、まあないよりはマシというレベルです」
持っているだけで体力を上げてくれるアイテムか……努力せずにパラメータが上がるなんて最高じゃないか?
「よしそれも買おう」
「はい毎度。1個5万ゴールドですがおいくつ? 」
「勿論99個だ」
「相変わらず金持ちだね。毎度あり」
「まあな」
流れ作業のようにアイテムをカバンに入れていく。
うーん、確かに心なしか元気になった気がする。
「これ、どのぐらい体力上がるの? 」
「大体1つで+5だね。世の中にはもっと効果の高いアイテムがあるらしいが、俺の店で売ってるのはそのぐらいさ」
「なるほど……つまり俺の今の体力はおおよそ+495ってことか」
そういえば今の俺のステータスってどうなってるんだろう? かなり前にタクトに見てもらって以降調べてないな。興味もないし。
「なあ自分のステータスを見たいときってどうすれば良いんだ? 」
「鑑定スキルを持ってる人に見て貰うか、後はあれだね。ギルドに冒険者として登録するかだね」
「ギルド……? 」
ネトゲでしか聞いたことのない単語だ。
「え? お兄さんあんだけ金持ちでギルドを知らないのかい? まいったね、俺はてっきり名の知れた冒険者かと思っていたよ」
「はは、まだここに来て日が浅いものですから」
「ギルドってのはまあなんだ、冒険者たちを管理する施設みたいなもんさ。ギルドが発行する依頼を冒険者が受ける。そしてそれを達成したらギルドから報酬が貰える。そんな仕組みだ」
「へえ……」
何だかめんどくさそうだな。というのが正直な感想だった。別に俺は冒険したいわけじゃないし、報酬にも特に惹かれない。嫌みな言い方になるが、金はいくらでもあるのだから。
「冒険……? 面白そう! 」
ただシエルは違ったようだ。聞き慣れない単語の数々に興味を持ったようだ。
「ギルドの建物はお城の直ぐ隣だよ。まあ興味があるなら言ってみると良い」
「はい、ありがとうございます」
俺のローブを引っ張りながらシエルがブーブー口を尖らせる。
「ねーねー、行ってみましょうよ! 楽しいかも知れないじゃないですか! 」
「服を引っ張るな。伸びるだろ」
「行ってくれたら引っ張るのやめます! 」
「あのなぁ……」
……どうも俺はシエルには弱い。
渋々彼女に引っ張られるように、ギルドへとつい足を進めてしまうのだ。
「見るだけだからな、良いか? 」
「分かってます! ちょっと見るだけです。本当です! 」
◇◇◇
意を決してギルドに入ってみると、中はごく普通の酒場のようであった。
昼間だからさほど人はいない。だが屈強そうな男たちが端の方で楽しげに酒を飲んでいた。
「へえ~」
シエルが感心したように辺りを見回している。
自宅とは違う雰囲気を面白がっているようだ。
するとシエルに気が付いた男たちの一人がからかうようにこう言った。
「なんだいお嬢ちゃん? ここは子どもの遊び場じゃねえぞ」
「よく見ると可愛い顔してるじゃねえか。がはは、後数年したら一緒に冒険しようや」
「こらシエル。うろちょろするな」
慌てて俺はシエルの手を引く。
「何だ兄ちゃん子連れか? ここは託児所じゃないんだよ」
「は、はあ。すいません」
だから嫌なんだよこういうところは……。
下品で粗雑な人種が集まるような場所では決まってこういうからかいを受ける。
そのとき、ピシャリと小鳥の囀りのように美しい声が響き渡った。
「よしなさいな貴方たち。新人さんをからかうのは。いらっしゃい、初めての方ですね? 」
その声の主を見て俺は思わず心臓が高鳴るのが分かった。
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