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第35話 よいこのしんわ
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「え、ヨリ魔法が使えるようになったんですか? 」
俺の分のハンバーグを喜んで食べながら、シエルが目を丸くする。
「使えるようになったというか、無理やり使ったと言った方が正しいかな……」
まあともあれ荒療治をすれば俺のステータスでも魔法が使えそうだぞ、ということが分かった。
そのためには魔力を回復するアイテムをたくさん買い込んでおかねば……。
ただもう死にかけたくはないのでなるべくならこの手は使いたくないというのが本音だ。
「よく分からないですけど……凄いですね。それが探していた本なのですか? 」
「いや……たまたま見つけただけだ。どうも本がごちゃごちゃしていてな、欲しい本が見つけられそうにないんだ」
すると途端にシエルの目が光る。
「それなら食べ終わったら私が手伝ってあげますよ! 」
「え、良いよ」
「一人より二人で探した方が絶対に早いです。ね! 」
まあシエルがそう言うなら手伝って貰うか……。
「じゃあ食べ終わったらやるか。本捜索大作戦だ」
「はい! 」
「ああ、でもがっつかなくて良いぞ。お、おい大丈夫か!? 」
気管に食べ物が詰まったらしいシエルがごほごほと咳き込む。俺は少女に水を渡しながらよく噛んで食べろ! とシエルの頭にポンと手を置いた。
◇◇◇
「うわぁ……凄いですね。これ全部本ですか? 」
「そうだ」
俺が引っ張り出したせいもあり、あたりには一面本が散らばっている。足の踏み場もないぐらいだ。
「この世界の神話についての本を探せば良いんですね! 分かりました! 」
やる気を見せるシエル。
「あ、でもシエル、文字は読めるのか?」
「読めますよ。これは……恋愛指南書でこれは育児の本でしょうか? 」
……正解だ。
シエルを舐めていた訳ではないが、奴隷生活が長かったらしい彼女が文字を読めるというのは意外だ。
「これはファッション誌……? あ、これは禁呪の本ですね」
な、なんとここまで文字が読めるとは。何とも心強い。
「助かる。じゃあ片っ端から神話について書かれてそうな本を探してくれるか? 」
「分かりました! 」
元気良く返事をするシエル。
こうして俺たちは夜も深い時間に、本探しに奔走することになったのである。
………
「ないな……。なんでだ? まさかルーナの父は関係ない人物だったのか? 」
一しきり探しては見たものの、出てくるのは神話とは関係のない本ばかり。
育児に関する本が気持ち多い気がする。
ああ、あの禁呪が書かれた本はいざというときのために俺が持っておくことにした。もしかしたら使うときが来るかもしれないし。
「シエルの方はどうだー? 」
「はーい」
あたりに舞い散った埃に咳き込みながら、シエルが返事をした。
そして彼女もあまり良い成果は得られなかったのか、顔を曇らせている。
「微妙です……強いていうならこの絵本でしょうか」
「絵本? 」
シエルが俺に手渡したのは子ども向けに書かれた絵本だ。タイトルには『かみさまのおはなし』と記されている。
「なるほど、でもこれはでかいぞ。少しでもこの世界のことが分かるかもしれない」
「私もお話聞きたいです! 読んでください」
キラキラとした目で俺を見るシエル。
「えー……」
絵本の読み聞かせなんてしたことがない俺。
何だか気恥ずかしくなりシエルから目を逸らすが、彼女の期待に満ちた視線が刺さる。
「……分かったよ」
「やった! 」
俺はシエルを引き寄せると、1ページ目をめくる。
絵本の読み聞かせってどんな風にすれば良いんだ?? 少々演技がかった方が良いのか?
いやでもシエルは幼児というには大きいよな……。
「ヨリ早く! 」
「あー、はいはい」
シエルに急かされ、俺はたどたどしいながらもその本を読み始めたのである。
むかしむかし天よりあらわれた女神様がこの世界に希望をもたらしました
この世界の生き物たちは女神様をたたえ 女神様も生き物たちを守るということを約束しました
しかしあるとき現れた悪い魔王が仲良しな女神様と生き物たちにしっとし 女神様を氷の地に封印してしまいました
するとどうしたことか世界からは光が失われ 希望や夢をなくした 星に変わり果ててしまいました
それを悲しく思った女神様は 僅かな力を振りしぼり 異界から時空の勇者様を呼びました
時空の勇者様は女神様から奇跡の力をもらい この世界の絶望をはらすために魔王に戦いをいどみます
見事魔王を倒した勇者様は 女神様を魔王の手から解放することに成功しました
こうして再び世界に光が取り戻されたのです
「……めでたしめでたしっと」
子ども向けの絵本ながら、どうも俺たちの状況と似たところが多い。この絵本に出てくる女神様というのがおそらくテゼス様。そして時空の勇者というのが俺を除く三人のこと。奇跡の力というのはギフトのことだろう。
「魔王は倒してるんだね! じゃあどうしてヨリは呼ばれたんだろう? 」
首をかしげるシエル。
そうだ、確かにこの絵本の通りなら魔王はもう別の勇者に倒されているはず。
なのになぜ俺たちが召喚された?
「まああくまでも子どもだましの絵本だしな。フィクションなんだろう」
「そっか……でも、そうするとこの世界は絶望に満ちてるんですかね……? 」
「うーん、そんな気はしないよな」
この国に住んではいるが特に魔物の軍勢が襲ってきたとか、魔王軍が攻めてきた。なんて話は聞いたことない。
平和と言えば平和な世界だ。
するとシエルがふわぁと欠伸を一つ。時計を見るといつの間にか真夜中だ。
「シエルもう寝ろ。片付けば俺がしとくから」
「でも……」
「子どもは夜更かし厳禁だ」
するとシエルは渋々頷くと、おやすみなさい。と小さな声で呟き、ふらふらと寝室の方へ向かっていく。
「テゼス様……か」
残された俺は、この世界の矛盾に思いを馳せていた。
俺の分のハンバーグを喜んで食べながら、シエルが目を丸くする。
「使えるようになったというか、無理やり使ったと言った方が正しいかな……」
まあともあれ荒療治をすれば俺のステータスでも魔法が使えそうだぞ、ということが分かった。
そのためには魔力を回復するアイテムをたくさん買い込んでおかねば……。
ただもう死にかけたくはないのでなるべくならこの手は使いたくないというのが本音だ。
「よく分からないですけど……凄いですね。それが探していた本なのですか? 」
「いや……たまたま見つけただけだ。どうも本がごちゃごちゃしていてな、欲しい本が見つけられそうにないんだ」
すると途端にシエルの目が光る。
「それなら食べ終わったら私が手伝ってあげますよ! 」
「え、良いよ」
「一人より二人で探した方が絶対に早いです。ね! 」
まあシエルがそう言うなら手伝って貰うか……。
「じゃあ食べ終わったらやるか。本捜索大作戦だ」
「はい! 」
「ああ、でもがっつかなくて良いぞ。お、おい大丈夫か!? 」
気管に食べ物が詰まったらしいシエルがごほごほと咳き込む。俺は少女に水を渡しながらよく噛んで食べろ! とシエルの頭にポンと手を置いた。
◇◇◇
「うわぁ……凄いですね。これ全部本ですか? 」
「そうだ」
俺が引っ張り出したせいもあり、あたりには一面本が散らばっている。足の踏み場もないぐらいだ。
「この世界の神話についての本を探せば良いんですね! 分かりました! 」
やる気を見せるシエル。
「あ、でもシエル、文字は読めるのか?」
「読めますよ。これは……恋愛指南書でこれは育児の本でしょうか? 」
……正解だ。
シエルを舐めていた訳ではないが、奴隷生活が長かったらしい彼女が文字を読めるというのは意外だ。
「これはファッション誌……? あ、これは禁呪の本ですね」
な、なんとここまで文字が読めるとは。何とも心強い。
「助かる。じゃあ片っ端から神話について書かれてそうな本を探してくれるか? 」
「分かりました! 」
元気良く返事をするシエル。
こうして俺たちは夜も深い時間に、本探しに奔走することになったのである。
………
「ないな……。なんでだ? まさかルーナの父は関係ない人物だったのか? 」
一しきり探しては見たものの、出てくるのは神話とは関係のない本ばかり。
育児に関する本が気持ち多い気がする。
ああ、あの禁呪が書かれた本はいざというときのために俺が持っておくことにした。もしかしたら使うときが来るかもしれないし。
「シエルの方はどうだー? 」
「はーい」
あたりに舞い散った埃に咳き込みながら、シエルが返事をした。
そして彼女もあまり良い成果は得られなかったのか、顔を曇らせている。
「微妙です……強いていうならこの絵本でしょうか」
「絵本? 」
シエルが俺に手渡したのは子ども向けに書かれた絵本だ。タイトルには『かみさまのおはなし』と記されている。
「なるほど、でもこれはでかいぞ。少しでもこの世界のことが分かるかもしれない」
「私もお話聞きたいです! 読んでください」
キラキラとした目で俺を見るシエル。
「えー……」
絵本の読み聞かせなんてしたことがない俺。
何だか気恥ずかしくなりシエルから目を逸らすが、彼女の期待に満ちた視線が刺さる。
「……分かったよ」
「やった! 」
俺はシエルを引き寄せると、1ページ目をめくる。
絵本の読み聞かせってどんな風にすれば良いんだ?? 少々演技がかった方が良いのか?
いやでもシエルは幼児というには大きいよな……。
「ヨリ早く! 」
「あー、はいはい」
シエルに急かされ、俺はたどたどしいながらもその本を読み始めたのである。
むかしむかし天よりあらわれた女神様がこの世界に希望をもたらしました
この世界の生き物たちは女神様をたたえ 女神様も生き物たちを守るということを約束しました
しかしあるとき現れた悪い魔王が仲良しな女神様と生き物たちにしっとし 女神様を氷の地に封印してしまいました
するとどうしたことか世界からは光が失われ 希望や夢をなくした 星に変わり果ててしまいました
それを悲しく思った女神様は 僅かな力を振りしぼり 異界から時空の勇者様を呼びました
時空の勇者様は女神様から奇跡の力をもらい この世界の絶望をはらすために魔王に戦いをいどみます
見事魔王を倒した勇者様は 女神様を魔王の手から解放することに成功しました
こうして再び世界に光が取り戻されたのです
「……めでたしめでたしっと」
子ども向けの絵本ながら、どうも俺たちの状況と似たところが多い。この絵本に出てくる女神様というのがおそらくテゼス様。そして時空の勇者というのが俺を除く三人のこと。奇跡の力というのはギフトのことだろう。
「魔王は倒してるんだね! じゃあどうしてヨリは呼ばれたんだろう? 」
首をかしげるシエル。
そうだ、確かにこの絵本の通りなら魔王はもう別の勇者に倒されているはず。
なのになぜ俺たちが召喚された?
「まああくまでも子どもだましの絵本だしな。フィクションなんだろう」
「そっか……でも、そうするとこの世界は絶望に満ちてるんですかね……? 」
「うーん、そんな気はしないよな」
この国に住んではいるが特に魔物の軍勢が襲ってきたとか、魔王軍が攻めてきた。なんて話は聞いたことない。
平和と言えば平和な世界だ。
するとシエルがふわぁと欠伸を一つ。時計を見るといつの間にか真夜中だ。
「シエルもう寝ろ。片付けば俺がしとくから」
「でも……」
「子どもは夜更かし厳禁だ」
するとシエルは渋々頷くと、おやすみなさい。と小さな声で呟き、ふらふらと寝室の方へ向かっていく。
「テゼス様……か」
残された俺は、この世界の矛盾に思いを馳せていた。
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