いたずらはため息と共に

常森 楽

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3.成長

150.海とか祭りとか

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「最近は、少し様子が変わったな…と思っていたけど、彼は前から親切だったし、私以外の女の子にも優しいし、そんな…特別な何かがあるとは、全く思っていなくて」
空井さんが気まずそうに永那を見る。
永那は相槌も打たずに、ただ彼女を眺めている。
「旅行のとき…」
なぜか空井さんがあたしを見る。
急に見られて、なんとなく背筋を伸ばしてしまう。
「同級生から、永那ちゃんと佐藤さんが付き合ってるんじゃないかって話をされて。彼は私と永那ちゃんが付き合ってるって知っていたから、庇ってくれて」
…そんな話されたんだ。
ああ。“どっかの誰かが見てた”んだっけ?
「そのとき、空気が悪くなりそうだったから…私は“2人が綺麗なのは事実で、周りからそう見られても仕方ない”って、彼を制したんだけど」
空井さんはどんどん顔を俯かせて、顔が見えない。
「彼が、私も綺麗だって、言ってくれて」
永那の目の下がピクピクと動いている。
…彼女を褒められてるんだから、そんなに怒らなくてもいいんじゃない?と心の中で笑う。

「でも、それでも私、気づかなくて」
永那は、あたしの好意に気づいてて無視し続けたけど、天然で気づかれないとなると…それはそれで辛そう。
「他の人に言われて、初めて彼が私を好きなんだって気づいて。私が気づいたことに彼が気づいて、告白…されました」
「どんなふうに?」
永那は相変わらず頬杖をついて、空井さんを見下ろすように見ている。
「元々生徒会には目立ちたくて入ったんだけど、私に話しかけられるのが嬉しくて、頑張るようになって、それから真面目で良い人になれたって。中二のときに、夏祭りで私の浴衣姿を見て、話しかけられないくらいドキドキして、恋だと気づいたって」
「なんか、ロマンチックだね。そんな理由なら嬉しくてドキドキしちゃうかも~」
優里が両手で頬杖をつきながら、ただでさえタレ目な目を垂らしている。
それは…火に油を注ぐのでは?
永那が頬杖をついていた左手を振り下ろして、テーブルを叩く。
…こわっ。
優里が肩を上げてギョッとしてる。…バカだなあ。

「それ、いつの話?いつ告白されたの?」
「え?2日目の、夕方くらい?」
空井さんもびっくりしながら、目を白黒させて答えている。
「じゃあ、浴衣姿見てんだ?穂の、浴衣姿。あれ、ゲームかなんかしてたよね?」
「…あ、うん」
なんの話かよくわからない。
旅行で浴衣を着ていたってこと?
永那が貧乏揺すりを始める。
「お風呂上がりっぽかった」
「はい」
こちらまで聞こえるほどにギリリと歯を食いしばる音がした。
「私だってまだ、見てないのに。浴衣姿。しかもお風呂上がりの…見てないのに…なんであいつが先なわけ?」
永那がテーブルに頭を打ち付ける。
「あ゙ー、腹立つ」
思わずあたしと優里と弟は顔を見合わせる。
永那が割と短気なのは知っていたけど、こんなに怒るのは初めて見る。
怒るというより、嫉妬か。
空井さんは、あたしが見たことのない永那を、どんどん引き出すんだなあ…。
寂しさもあるけど、“そりゃあ、あたしじゃ敵わないよね”って気持ちに、嫌でもさせられる。

「穂もさー、なんでそんな気づくの遅いの?気づいたらさ、遊んじゃだめでしょ?」
…あんたはあたしと遊んでるくせに。
「もし襲われたらどうするの!?」
「ご、ごめんなさい」
「男はみんな狼なんだよ!?」
永那は女のくせに襲ってるんだから、性別なんか関係ない。
「ま、まあまあ、永那。…穂ちゃん、怖がってるよ?」
優里にそう言われて、眉間にシワを寄せてから、ため息をつく。
「話すのが遅くなって、ごめんね。永那ちゃん」
永那は顔を両手で覆って、「あ゙ー」と唸ってる。

「姉ちゃん、この前浴衣買ってたじゃん。今見せてあげれば?」
弟が言う。
永那の手が勢いよく外されて、「見たい」と眉間にシワを寄せながら言う。
「ん?てか、なんで浴衣買ったの?」
「ああ、1人でお祭り行こうと思って」
「え!?1人で!?…私、行くって聞いてないけど!?」
「あれ?永那ちゃんに“行けないよね?”って確認したけど…」
「いやいや、それは聞かれたけど、穂が1人で行くとは聞いてないよ!?」
「あ、そっか」
また永那がテーブルに頭を打ち付ける。
すごい音してるけど、痛くないの?
「それならべつに、あたし達と行けばいいんじゃない?」
「いいの…?」
空井さんが心底驚いた表情で見る。
弟を見ると、“うんうん”と頷いていた。

「私も部活仲間と行くから、みんなに会えるかもー!楽しみ!」
永那が床に倒れ込む。
「もう…死にたい…」
「え!?永那ちゃん!?」
空井さんが永那に触れる。
「俺もさ、今甚平着る!姉ちゃんも早く着なよー!」
弟…神経図太いな。
空井さんは倒れている永那を心配そうに見つめながら、部屋に入った。
「永那、これからも穂ちゃんと一緒にいるんだったらいいじゃん」
「うるさい!お祭りに行けるみんなには、私の気持ちなんかわからないよ。今は今しかないんだよ!」
両手で顔を覆っている。
…門限なんて、破っちゃえばいいのに。
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