蒼炎のカチュア

黒桐 涼風

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第十章 妖精の少女

10ー2 ナギサイド

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「ん~」

 山奥で森林に隠れながら、エドナは遠くから、へルディア領土を見渡していた。

 ここまでくるのに大変だった。主な原因はエドナだ。ルナ曰く、本来の到着時間の倍以上の時間が掛かったらしい。

「どうですか?」
「視界には入るんだよ。だけど、へルディア全体は見渡せないんだよ」

 辺り、森林だらけなら、無理もないか。

「それは、さすがに無理ですよ。例えば、隠れられそうなところに、魔物か、何か、いそうな感じは?」
「ん~、特に何にも変わらないんだよ」
「カチュアさんは?」
「周りに小さな鳥さんが鳴いているわ~」
「あー、そうですかー」

 カチュアも収穫なしか。

「やはり、限界はありますか」
「何か、魔物が現れる検討って、ないッスか?」
「ん~。コルネリアの仕業だと、断言するなら、やはり、コルネリアとの国境辺りかなあ、と思います」
「そー言えば、なんで、コルネリアって、仕業って、分かるのかしら~?」
「そこなんですよ」
「魔物は口実にして、コルネリアを攻めいる理由を作りたかったとか?」
「へルディアの自作自演ってことッスか?  確かに、魔物を飼っている貴族や将はいるッス」

 確かに、ゲブンは賭博用の魔物を所有していたっけ。

「ん~、そう考えると、真実が分からないです。どうすれば」
「あのー、少しよろしいですか?」

 犬人形からミラが顔を出した。ただ、出る時には、一々、頭を取らないと出るないなんて。しかも、この人形、本物と間違えてしまうぐらい、出来がいいから、それが、頭が取れるって、かなりグロいな。

「ミラさん。さっきまで、喋り方が違いますよ」
「すっ! すみません!」

 人形から出る前までは威勢よく、「はっはっ! さあ、どこからでもかかって来いや!!」と声を上げていた。

 日差しが強い時は、暗く、ぼー読みだった。今は曇り空で日差しは出ていない。どうやら、ミラはその場の環境で変貌する見たいだ。

 現在、判明しているのは、人形から出ている時は、人見知りが激しくなる。人形に入っている時は建物の中や、現在ような曇り空の時は、威勢が良くなる。逆に、街に出る前のような、太陽が出ている時はネガティブになるらしい。

「戦争を起こす黒幕がいるにしろ、へルディアはコルネリアに勝つ根拠はあったのでしょうか?」
「へルディアは強国です。戦いに長けているものは沢山いるそうです」

 確か、傭兵国家だっけ? それぐらいしか、情報が入っていないんだ。

「そして、コルネリアも強国。この二国を戦いをさせるのが目的でしょ」
「仮にそうでも、何が目的?」
「魔物を使っているからには、魔物関係でしょ」
「魔物?」
「強力な魔物の体内には、強力な魔石があります。その魔物を倒して、魔石の回収が目的では?」
「魔石を? 確かに、魔石は誰しも欲しい代物。でも、やり方が回りくどいですね。コルネリアとへルディアどちらか、それを企むにしろ、実害を出すようなマネをするとは思えません。魔石で戦力アップどころか、人員でダウンしています」
「だから、実害がない連中が引き起こした可能性があります。例えば、クーデターを起こそうする者とか」
「ん~、話がややこしくなったわ~」
「あたしには、難しいんだよ!」
「とにかく、ぶっ飛ばすッス」

 さっきから、それしか言わないな、この三人は。

「そう言えば、以前、賭博場の魔物騒動の連中は魔物を放っていたそうだけど、そいつらはどうしたんだ?」
「兄様がいうには、兄様が追っていた連中ではないそうです。だけど、無関係ではないとも言っていました」
「どういうこと?」
「さっき、魔石を回収するが目的とも、言っていました。兄様の話では、複数の組織があって、実はそれは事実上、一つの組織構成になっているのです」
「今までの話を参照にすると、つまり、魔物を作る組織と魔物を回収する組織。一見、別の組織のようで、実は同じ組織。態々、そうするって、ことは、仮に一つの組織を潰しても、他の組織の足取りを掴めないようにするためか」
「そうです。だけど、賭博場の魔物騒動を起こした連中を捕らえたことによって、組織図がある程度ですが、明るみになっています」
「つまり、どういうことなの?」
「とにかく、敵が沢山いるッス」
「分かりやすいわ~」

 難しい話について来れない、三名。

「あ~、エドナちゃん」
「カチュアさん、どうしたんですか?」

 ドーーーン!!!

 エドナは顔を後で歩いている、カチュア達の方を向きながら歩いていたため、前方に樹木が、あるにも関わらず、ぶつかってしまった。

「はうう。痛いんだよ」

 しかも、木が折れて倒したよ。転ぶだけなら、カチュアのバカ力並みの破壊力なんだよな。

「前に木があるから気をつけて~」
『教えるの遅いよ!』

 起きてから、教えるのは遅すぎだよ。こいつ、喋るの結構遅いんだよな。後、伝えるのも。
 
 倒れた樹木の草木から、何か出てきた。

『あれは確か……』

 蜂という蟲の住み家としている巣にそっくりだ。

 その巣の穴から、小さな蟲が出てきた。そう小さかった。小さかったはず。

『デカ過ぎ!!!』

 巣から出てきた蟲は、始めは小さかったのに、数秒もしない内に、エドナと同じぐらいの大きさになった。小柄な体格のエドナを比較対象にしてしまうが、蟲の場合、エドナと同等の大きさだと、脅威だから。

 いや! 蜂って! そういう生態だっけ? 巣から出ると大きくなるって、魔物の分類じゃん!

「あれはブッソウバチッス。気をつけてください。あのお尻に付いている針は上級魔物の体でさえ、貫くッス! 人なら、体が粉砕するッス!」

 うん。名前の通り、物騒な蜂だ。てか、襲ってくる!!! 

 しかし、こんなデカい蜂が襲い掛かるにも、関わらず、カチュアは戦う姿勢を取る様子がない。それどころか、ののほほーんとして、突っ立っているよ。こいつ。

『カチュア! 何しているんだよ! 襲ってくるよ!』
「ん~。わたしが前に立ったら巻き込まれるわ~」
『どういうこと?』

 気のせいか、後ろから火花のような物が見えたような。

「出よ! 赤き竜よ!」

 ルナの真上には、炎を纏った竜が現れた。いや、炎の魔術で作られた竜か? 

 てか、デカ過ぎだろ!

「消し炭にしてあげます」

 炎の竜はそのブッソウバチとかいう、蜂目掛けて、自身に体で包み込んだ。


『やり過ぎだろ!!!』

 ブッソウバチと、そいつらの巣は丸焦げになって、退治したが、その周囲のあらゆる樹木が焼けてしまった。たぶん、遠くから見ても、その悲惨さが分かるぐらいだ。

 災害レベルの魔術だな。

 ちなみに、この魔術を放ったのは、ルナだ。

「中々試す機会がなかったから、初めて使って見ましたが、成功です。ルナ考案の魔術です」

  そう言えば、この子、魔術研究員だっけ? 具体的な研究内容は聞いたことないが、魔術開発をしているのか。

「でも、これだけの魔術を使うとなると詠唱時間が必要ッス」
「いつでも、発動できるように、詠唱済みにして構えていたんです」

 あのバカデカい魔術を使うの前提で構えていたのかよ。

「ん? この音」

 カチュアが何か察知したようだ。

「あ!」

 ドーーーン!!

 エドナが転んでカチュアにぶつかった。

「はわわわわわ!!!」

 エドナはカチュアを巻き込んで、坂の上を二人纏めて、転がっていった。

 次々と、樹木を倒していった。

 転がる災害だな。まるで。
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